Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年8月9日 No.3373  夏季フォーラム2018 -第2セッション「デジタライゼーションと産業構造の転換」

経団連は7月19、20の両日、長野県軽井沢町のホテルで夏季フォーラム2018を開催した。

第2セッションでは「デジタライゼーションと産業構造の転換」と題し、北野宏明ソニーコンピュータサイエンス研究所社長兼所長、牛窪恭彦みずほ銀行執行役員産業調査部長から講演を聞き、意見交換を行った。

■ 北野宏明氏

北野氏

人工知能(AI)はグランドチャレンジによって進歩してきた。1997年にはAIがチェスのチャンピオンに勝利し、2016年には囲碁でGoogle DeepMindのAlphaGoがトップ棋士に勝利を収めた。このように解くべき問題に関係するすべての情報がわかっている完全情報問題は、大規模データと大規模並列計算、機械学習を使えば解けることがわかった。

課題は、リアルタイムで人や車が動き、情報にノイズが入るような、実物理世界問題をいかに解くかである。私は20数年前に「ロボカップ」というプロジェクトを始めた。これは完全自律型ヒューマノイドロボットのサッカーチームが、FIFAワールドカップのチャンピオンチームに2050年までに勝利することを目指すプロジェクトである。その過程で生み出される技術が自動走行や災害救助、介護などに活用され、社会・産業を変革すると予測して始めたものである。当初のロボットはほとんど動かなかったが、いまや人間と十分に試合できるようになった。さらに、その技術をもとに物流ロボット会社など多くのベンチャー企業が生まれた。まともに動かないロボットを見てこの未来を想像できるかどうかが重要である。

近年、AIは深層学習という技術的ブレークスルーがあった。深層学習は、(1)人間に見えないものをみる(2)限定された複雑な問題を解決する(3)スタイルを学習し模倣する――ことを可能とした。

こうしたAIを産業分野に応用するには、学習を継続させることが求められ、まさにAIは「新たなすり合わせ」ともいえる。すり合わせに重要なのは、ドメイン知識であり、わが国が競争できるポイントである。また、AIは能力をコモディティ化させるため、旧来の組織や事業のあり方が通用しなくなる。AIの導入による効果を高められるようAI-Readyな社会・組織への変革が必須となる。

近年、Googleなどのテックジャイアンツは、サイバー空間から実世界への展開を始め、大きな変化を起こそうとしている。こうした米国企業が恐れるのは中国のテックジャイアンツの動向である。中国の体制とビッグデータ・AIとの親和性の高さは脅威である。中国は大規模かつ戦略的なAI戦略を進めている。いまやAIの論文発表では中国からの投稿が圧倒的であり、トップを占める。アジアの大学ランキングでは日本の大学が次々に中国に抜かれている。近い将来、日本発のテクノロジーカンパニーは成立しなくなるおそれがある。いまこそわれわれは実世界からAI・ロボティクス・データの世界へと一気呵成に攻めなければならない。

日本は成功のプラットフォームとなることを目指すべきで、多様な人材を世界から呼び込むことが重要だと考えている。未来社会協創タスクフォースでSociety 5.0の検討をしており、引き続き議論を深めていきたい。

■ 牛窪恭彦氏

牛窪氏

Society 5.0の実現には、テクノロジーを活用して、SDGsなどの課題を解決するとともに、持続的成長につながるビジネスをつくり、世界に範を示していくことが重要である。

現在、テクノロジーの進歩によって産業構造やビジネスモデルに革命的な変化が起きている。例えば、ヘルスケアでは、医療ビッグデータの利活用基盤の整備・拡大によって、予防領域を中心としたヘルスケア分野の産業化が進む。ものづくりでは、製造プロセス・バリューチェーンへのデジタルテクノロジーの実装が進む。モビリティーでは、車があらゆる情報・データと接続され、自動車や移動にかかるさまざまなサービス提供が可能になる。エネルギーでは、分散型エネルギーへの対応が進む。インフラは、テクノロジーを活用して、事後保全から予防保全へ変わる。その他さまざまな分野・領域で変化への対応が求められる。あらゆる領域での横断的課題としてキーワードとなるのはデータである。フェアでオープンなデータ流通の基盤をつくり、異業種連携などによって新たな価値を創出することが重要となる。

Society 5.0による新たな産業構造下において、日本は内需拡大とグローバル競争力強化の両面から好循環を実現するとともに、成長と分配のバランスがとれた新しい資本主義のモデルを世界に示す必要がある。

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講演後、日本がとるべき戦略、人材育成、ダイバーシティ等について活発な意見交換が行われた。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】