Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年8月30日 No.3374  21世紀政策研究所第128回シンポジウム -「英国のEU離脱とEUの将来展望~第二・第三のBrexitは起こるのか」

21世紀政策研究所は8月1日、研究プロジェクト「英国のEU離脱とEUの将来展望」(研究主幹=須網隆夫早稲田大学教授)の研究成果を踏まえ、東京・大手町の経団連会館で第128回シンポジウム「英国のEU離脱とEUの将来展望~第二・第三のBrexitは起こるのか」を開催した。

■ 研究報告「英国のEU離脱とEUの将来展望」

冒頭、須網研究主幹が研究報告を行った。Brexit(英国のEU離脱)は、複合的な要因の結合によって引き起こされたとしたうえで、そのなかでもEU自体のあり方に着目。EUは加盟国の主権の一部を移譲されることで成り立っている組織であり、加盟国の国内法よりEU法が優先されるなど、主権が失われたとする英国離脱派のスローガン自体は物事の一面を正しく表している部分があると指摘した。また、単一市場をつくるというEUの目的を遂行する過程において、例えば自由移動と人権、労働者のスト権との対立など、場合によっては加盟国国民の享受していた権利の一部が失われかねない状況となり、そのことがEUに対する反発を招いており、EUの目的(単一市場の形成)自体にBrexitを促す要因があったと分析した。ただし、EUを取り巻く現状は不安定であるものの、EUは簡単には崩れないとの見解を示した。

■ 講演

まず、土谷岳史委員(高崎経済大学准教授)が移民問題とメディア政治について講演を行った。英国はシェンゲン協定に入っておらず、地理的にもEUの枠組みが英国の移民難民政策にとって有利に機能しているという実態について解説。それにもかかわらず、Brexitで移民問題に焦点が当たった背景として、特にEUの東方拡大に伴って想定を超える数の移民が流入したことから、英国の国民の間では移民を抑制すべきだとのコンセンサスが生じていたと分析。加えて、経済問題と結びつけて移民問題に言及するメディアや離脱派のキャンペーンが後押ししたことで、EUからの離脱という国民投票の結果につながったとの見解を示した。

続いて、太田瑞希子委員(亜細亜大学専任講師)が英国の労働市場と格差について講演を行った。英国では、世界金融危機をきっかけとしてEUに対する金銭的、財政的負担感が国民の間で高まり、EUへの反発が強まったと指摘。Brexitを招いた要因は国内政策の結果であると述べたうえで、英国の離脱派が、格差拡大や労働市場における移民との競争など、低所得者層や低学歴層が抱く不満の矛先をEUへ振り向けることに成功したと分析した。

■ パネルディスカッション

後半のパネルディスカッションでは、伊藤さゆり委員(ニッセイ基礎研究所主席研究員)、渡邊頼純委員(慶應義塾大学教授)、福田耕治委員(早稲田大学教授)も参加し、「第二・第三のBrexitは起こるのか」をテーマに活発な討議を行った。伊藤委員と渡邊委員は、EUとの離脱協議などで迷走する英国の現状が、第二第三のEU離脱を抑制する要因にもなっているだろうと分析。福田委員は、中東欧諸国の動向に触れ、欧州懐疑主義的な政党が台頭するハンガリーとポーランドにおいても、EUに好感を持つ国民が一定程度存在し、EUからの離脱は考えにくいと述べた。

ただし、懸念事項として、伊藤委員はEUの政策の軸が移民難民政策に移ってきており、預金保険の共通化やユーロ圏予算づくりといったユーロ制度改革の先行きが不透明であることを挙げた。土谷委員も、ポピュリストやメディアの動向によっては何が起こるかわからないというリスクを、常に念頭に置くべきであろうとの見解を示した。

また、対中関係に関する質問に対し、渡邊委員はEU内でも対中慎重論が出てきているなかで、伝統的に中国への警戒感を持っていた英国がEUから離脱することの影響を示唆した。福田委員は、安全保障の観点から中国の投資を受け入れることへの脅威については、ドイツやオランダなどが検討を始めていると指摘した。

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21世紀政策研究所では、今後も引き続き欧州情勢の変化を注視し、セミナー等を通じて情報発信を行っていく予定である。研究成果を取りまとめた報告書は、21世紀政策研究所のホームページからご覧いただきたい。

【21世紀政策研究所】