Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年9月13日 No.3376  ライフサイクル工学からみたCircular Economyへの取り組み -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院工学系精密工学専攻教授) 梅田靖

梅田研究主幹

2015年12月にCircular Economy(CE、循環経済)に関する政策パッケージを発表して以来、EUはエコデザイン指令などを通じて、着実にその具体化を進めている。CEは、レアメタルなどの資源確保やプラスチックゴミ問題対応など多様な政策を含んでいるため全体像がわかりにくくなっているが、その本質は、つくって使って捨てるリニアエコノミーから循環経済に経済の仕組みを変えるという理想を掲げたもので、ものづくりのあり方、ビジネスのやり方を大きく変える可能性と危険性があり、欧州内外における日本企業の事業活動に大きな影響を及ぼすことが懸念される。

そこで、欧州のCE政策の動向を注視し情報提供を行うと同時に、EUの戦略を分析し、とるべきアクションを提示することを目的として、21世紀政策研究所は今年7月から欧州産業政策「Circular Economy」研究会を発足させた。同研究会では7月にすでにセミナーを開催しており、その内容については21世紀政策研究所新書72『欧州CE政策により加速するビジネスモデルの転換』(http://www.21ppi.org/pocket/pdf/72.pdf)をご覧いただきたい。

■ CEが示す変革

CEは一見、わが国の循環型社会、3R(リデュース、リユース、リサイクル)政策と似ている。しかし、循環型経済の仕組みをつくることにより、イノベーションを起こし、資源の利用効率を飛躍的に高め、それを雇用の確保や欧州の競争力の強化に結びつける、としている点が大きく異なる。わが国の循環型社会は、あくまでも「お片付けの論理」に基づいていた。CEは廃棄物対策というよりはむしろ、経済の仕組みを変えて、新しい競争軸をつくろうとしているとみるべきである。

このCEを可能にする2つの時代の流れを指摘することができる。1つは、人々の価値観の変化である。人々はものの所有に必ずしもこだわらなくなり、使用価値、体験価値を重視する動きが出てきた。もう1つが、AI、IoT、Industrie 4.0に代表されるディジタル革命である。両者が相まって、カーシェアリングやAirbnbに代表されるようなシェアリングエコノミーが花開いている。これはある種の時代の必然であり、製造業はものを売るというよりは、ものとサービスを組み合わせて顧客に価値を提供する(テクニカルタームでは「製品サービスシステム」と呼ぶ)方向へ転換しなければならない。この、ものの所有と顧客への価値提供が切り離されることによりCEでいうところのさまざまな循環が可能となるのである。とすると、製品を提供する製造業以外に、製品の使用を管理し、メンテナンスやアップグレードを実施し、適切に循環するように製品の一生(ライフサイクル)全体を管理する循環コーディネーターとでもいう職能が現れるかもしれない。

将来、メーカーは循環コーディネーターの指示のもと、製品をつくり、納入するだけという社会が訪れるかもしれない。こうした想像を超える現実がCEに仕込まれている危険性がある。

■ ライフサイクル工学

以上を実現するための中心となる技術は「ライフサイクル工学」だと考えている。ライフサイクル工学とは、製品の一生を企画、設計、運用保守、管理するための技術体系である。特に、適切な循環を実現するためには、あらかじめ設計時にその循環を織り込んでおくことが必要になる。この初期段階で、(1)顧客に提供する価値 (2)売り切りかシェアリングかなどのビジネスオプション (3)循環の方策――の3つの基本計画を立てることが重要である。そのための手法や要素技術はさまざまに研究開発されており、このライフサイクル設計の実践は、技術的には極端に大きな困難はないと考えている。

むしろ問題は、企業方針としてCE型のものづくりを目指すという意思決定であり、メンバー間の合意形成であると考えている。今後は、ディジタル革命の進行に伴って、使用段階で豊富に取得できるであろう多種多様なデータから、価値を創出し、設計に反映することが重要になってくる。

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以上のような問題意識に基づき、3週にわたり21世紀政策研究所のCEプロジェクトメンバーが、さまざまな観点から解説する。

【21世紀政策研究所】

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