Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年10月11日 No.3380  中川公安調査庁長官から最新の国際テロリズム情勢について聞く -経済外交委員会

経団連は9月25日、東京・大手町の経団連会館で経済外交委員会(片野坂真哉委員長、大林剛郎委員長)を開催し、公安調査庁の中川清明長官から国際テロリズム情勢について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ ISILの現状

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、ラッカやモスルなどシリア・イラクにまたがる支配圏を最盛期の2015年初期に比べて95%以上も喪失するなど、この3年半で著しく退潮した。また、支配地の縮小に伴い、戦闘員数や財政基盤、さらにプロパガンダ発信力も大幅に減少している。

一方、アブ・バクル・アル・バグダディ最高指導者はじめISIL幹部は、支配地喪失を敗北とはとらえず、徹底抗戦を継続する姿勢を強調している。

アサド政権軍等の掃討作戦を受けてシリアのISIL支配圏が縮小し続けているのに対し、イラク北東部では山間部を拠点にテロが継続している。

■ 地域別テロ情勢

世界各地のテロ発生件数を比較すると、シリア・イラク以外の中東(15年16件→17年15件)で減少傾向にあるのとは対照的に、欧米(15年10件→17年24件)・東南アジア(15年0件→17年64件)では急増している実態に注意する必要がある。

(1) 中東

ISILは中東諸国のなかでも、トルコを「ジハードの戦場」、イランを「敵たる多神教徒シーア派の国」、サウジアラビアを「欺瞞的な圧制者の国」として特に敵視し、戦闘員を送り込むなどして攻撃を実行してきた。

とりわけシリア・イラク国内のISIL支配地喪失が進むなか、国境を接するトルコにヒト・モノ・カネが流入し、ISIL関係者が多数潜伏していると考えられる。17年2月以降、トルコ大都市では大規模テロは発生していないとはいえ、ISILによるテロがいつ発生してもおかしくない状況にある。

(2) 欧米

欧米では15年の5カ国10件から17年の9カ国24件へと、ISIL関連のテロ発生国数・件数がともに増加している。とりわけ17年以降に発生したテロは、そのすべてがISILに影響を受けたとみられる「一匹狼」型テロである。依然として存在するISIL支配地域への渡航希望者に対し、指導部が各種プロパガンダを通じて渡航よりも居住国でのテロを推奨していることが背景にある。

(3) 東南アジア

17年、ISILを支持する複数の既存組織が連携し、フィリピン・ミンダナオ島マラウィを占拠した。また、インドネシアのジャカルタやスラバヤ等では、ISIL支持者の単独または家族を含む少数による連続自爆テロが発生しており、未然防止が困難となっている。

■ わが国や邦人に対する脅威

ISILは日本を「十字軍連合」の一員、日本人を「不信仰者」とみなし、攻撃対象としている。実際、13年以降、5カ国で23人の邦人がテロの犠牲となっている。

最近は、公共交通機関やイベント会場といったソフトターゲットへの攻撃増加に伴い、巻き込まれ被害が拡大している。ナイフや自動車など身近な手法を奨励するISILの指南にも留意し、テロ発生時に適切に対処することが求められる。

【国際経済本部】