Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年12月6日 No.3388  アメリカ中間選挙を読み解く -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 久保文明

久保研究主幹

■ 中間選挙の政治的意味

中間選挙については、「トランプ政権に対する審判」などとメディアによって説明されている。これは間違いではない。ただし、議院内閣制をとる日本における参議院選挙とはかなり性格を異にすることも確かである。

中間選挙で大敗した大統領は存在するが、それを理由に辞任した例はない。日本で首相が辞任する直接間接の理由が、しばしば参議院選挙で敗北したことであるのと大きな違いである。その意味で、中間選挙は政局に発展することはない。

ただし、以下の理由で、アメリカの中間選挙は、中間選挙という言葉が意味する以上の重要性をもつ。

まず、下院は435人全員が改選であり、その規模において、議院内閣制での総選挙と同じである。同時に上院議員も定数100の3分の1ずつ改選される。

また、何より重要なのは、アメリカ連邦議会(以下、議会)の独立性と巨大な権限である。法案・予算案の作成も議会で行われる。大統領も内閣も行政官庁も、これらを提出することはできない。審議に参加することもできない。野党だけでなく与党議員すら、大統領の提案に反対することがある。このような高い独立性と強い権限・影響力をもつ議会の構成、特に多数派・少数派の変化は、必然的にアメリカ政治の基調のみならず、さまざまな政策の成否と内容に影響を及ぼすことになる。

■ 中間選挙の結果とその影響

結果は上院では共和党が多数党の座を維持したものの、下院で民主党が逆転し、多数党になった。与党が中間選挙で敗北するのは比較的普通のことであるとはいえ、トランプ政権にとって打撃であることに変わりはない。

第1に、予算は今後、民主党・共和党の妥協の範囲内で作成されることになる。国防費の大幅増額や環境保護予算の劇的な削減も起こりにくい。

第2に、民主党は新議会が発足する2019年1月から2年間、下院を拠点に政権のスキャンダルの追及を存分に行うことができる。これによって、政権に大きな傷を負わせることができるであろう。インフラ投資での超党派協力の可能性が指摘されてはいるものの、共和党が望むものが建設・建築、あるいは開発許認可の簡素化と短縮であることを思い起こすと、実はそれほど簡単ではない。

第3に、通商問題への波及も考えられる。NAFTAを改定した合衆国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)については、下院の民主党有力者は労働・環境関係の改善が不十分であるとの見解を表明している。調整や批准成立まで意外に時間がかかるかもしれない。

■ 弾劾の可能性

下院で弾劾決議を可決すると、上院は弾劾裁判所となって審理を開始し、出席上院議員の3分の2以上の有罪票が投じられると、大統領は有罪となり、解任される。

下院で民主党が多数党になったため、ここでいう弾劾決議可決の可能性はある。ただ、上院では民主党は47議席しかもたないため、常識的には有罪判決を勝ち取るのは極めて困難である。

ただし、今後の展開はトランプ大統領の身の処し方次第であろう。中間選挙終了後、早速にセッションズ司法長官を更迭した。この調子で、さらにモラー特別検察官の捜査を露骨に妨害し続けると、下院民主党議員団内でも強硬論が台頭することになろう。その結果、しかけた民主党の方が世論の批判の返り討ちに遭う可能性も少なくない。これが実際、1998年から99年にかけて、共和党下院議員団がクリントン大統領に対して弾劾訴追を行った際に、起こったことでもあった。政治ではしばしば常識に反することが起こるものである。

ちなみに、トランプ大統領にとって、民主党が支配する下院の出現は100%悪い話ではない。政治の膠着に対して、民主党のせいにしながら2020年の再選運動を展開することができるからである。

【21世紀政策研究所】

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