Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年2月7日 No.3395  デイビス・ハーバード大学教授との懇談会を開催 -アメリカ委員会企画部会

経団連のアメリカ委員会企画部会(守村卓部会長)は1月18日、東京・大手町の経団連会館で、ハーバード大学日米関係プログラムの所長代理を務めるクリスティーナ・デイビス教授および同プログラム事務総長の藤平新樹教授から、危機にある国際貿易体制における日本の役割などについて説明を聞くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 危機にある国際貿易体制

残念なことに、国際貿易は今、大きな壁にぶつかっている。関税引き上げや技術移転強要などを背景に対立が起こり、多国間主義に反感や不満を抱くポピュリズムが台頭し、国際貿易の行く末は不透明感を増している。世界のリーダーであった米国は今やその立場になく、国際貿易における各国の米国への依存度も低下している。米国は自国第一主義を主張しているが、経済的な相互依存性が重要であることは歴史が証明している。米国は、日本を含めた諸外国がグローバルにサプライチェーンを展開することで経済成長を実現してきたという事実から目をそらしてはならない。

■ 国際貿易における日本の役割

「ヌードルボウル」とも呼ばれることがあるが、自由貿易協定を締結した国々同士を円で囲んだ世界地図を見ると、日本はそれらの協定の中心に位置していることがわかる。WTOを支え、TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の発効に貢献し、日EU EPA合意を実現したことに加え、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)批准に向けて中国、インドとの交渉を進めている日本は、国際貿易において中心的な役割を果たしている。いまや日本は、米国や欧州よりも、現在の危機的な交易状況に対応できる完璧な立場にあるともいえる。

TPPから離脱した米国は、日本と二国間貿易協定締結に向けた協議を開始する。日本はこれを「物品貿易協定(通称TAG)」交渉と呼ぶが、米国は、農業分野の開放や各種ルールの変更なども含めた包括的な貿易協定を目指している。米国の要求を受け入れない場合には、関税を発動すると脅しにかかるだろう。市場の開放は重要だが、脅しのもとでの交渉には最大限の警戒が必要である。日本はTPPという1つの回答を持っており、米国が物品以外の分野にまで及ぶ協定を求めた際には、TPPへ戻るよう促せばよい。TPPに米国を連れ戻すことこそ本当の改革といえるだろう。

■ WTO改革

昨今の国際貿易にかかわる課題に対処するためにも、WTO改革が急務である。TPP11発効に大きく貢献した日本のWTO改革における役割は大きく、TPP11の各種ルールを準用することで、改革をスムーズに進めることも可能だと考える。また、国際貿易ルールの改正については、中国を巻き込む必要があり、各国企業が直面している、技術移転の強要や著作権侵害などの不公正の是正につなげていかなくてはならない。日本は、中国を封じ込めるという戦略よりも、自由化推進に関与させるエンゲージメント戦略を選択する方が、より効果的な成果を生み出すことができるだろう。

今年のG20は日本が議長国となる。G20サミットでぜひ、保護主義の台頭を抑制するよう働きかけてもらいたい。

【国際経済本部】