Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年3月7日 No.3399  財務省から科学技術・イノベーション政策について聞く -未来産業・技術委員会企画部会

経団連は2月7日、都内で未来産業・技術委員会企画部会(江村克己部会長)を開催した。財務省主計局の神田眞人次長から、科学技術・イノベーション政策について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 科学技術関係予算と論文生産性

わが国の財政は極めて厳しい状況にあるが、科学技術関係予算については大幅に伸ばしてきた。2019年度予算案では、前年度プラス約0.4兆円の約4.2兆円を計上している。加えて、対GDP比でも実額でも、主要先進国と遜色のない水準を維持している。

他方、他国と比較して顕著な課題が、論文生産性の低さである。日本の大学等におけるTop10%論文1件当たり研究開発費は、ドイツの1.8倍、米国の3倍以上と大きな差がある。Top10%論文数は、論文の被引用数が各年各分野の上位10%に入る論文であり、研究力の質を表す指標である。つまり、質の高い論文を1つつくり上げるのに、日本は諸外国の何倍もの費用がかかっているのである。

■ 大学の課題

論文生産性の低さの要因は、日本の大学の硬直性、閉鎖性、内向性にある。科学技術・学術政策研究所の調査「サイエンスマップ」の結果からは、日本は国際的に注目を集める研究領域への挑戦が乏しく、伝統的な分野に固執しているとの実態が見て取れる。また、優れた研究成果を上げているトップリサーチャーは、40歳未満の若手が5割を占めるにもかかわらず、大学教員の割合や、研究者1人当たりの科研費配分額は、40歳以上のシニア層に偏重している。領域でみても、大学でみても、国境でみても、開放性、流動性や新陳代謝に乏しく、海外のような学際研究、新領域研究、国際共著の活力がみられない。

大学の教員等から「研究力低下の主因は、国立大学への公的資金の減額にある」との批判があるが、これは事実に反する。国立大学法人運営費交付金とその他の補助金を合わせた公的支援の合計額は、04年度から17年度の間で、約600億円も増えているし、近年は名目でも、来年度を含めまったく削減していない。

むしろ問題の所在は、無競争で既得権維持の運営費交付金への依存度の高さにある。世界のトップ校は、運営費交付金にあまり頼らず、企業等からの研究受託収入や高額な授業料など、財源を多様化させている。よい学生、よい先生、多額の外部資金が来るように切磋琢磨して研究と教育の質を向上させるインセンティブがあり、それで獲得した資金で、さらに研究、教育と強化させる好循環にある。日本の大学も、研究や授業の魅力を向上させるべく、さまざまなかたちで資金を集められるように生まれ変わらなければならない。

■ 産学官連携の推進

日本の企業部門の研究開発投資の規模は、主要先進国のなかでトップクラスの水準である。しかし、企業が政府の補助金等を利用し、事業化に近い研究開発を行っているケースがみられる。政府事業は手続きに時間がかかるし、知財の独占になじまないので、かえって国際競争に負けてしまいかねない。国の資金は、社会にとって必須であるが、事業化にはほど遠い基礎研究や、企業ができないようなハイリスク・ハイリターンの研究開発に集中させるべきである。実際、このたび、科研費を大幅に増額するとともに、1000億円規模のムーンショット型研究開発制度を新設した。

また、諸外国と比較して、企業が大学に投資する研究開発費の割合が低いことや、1件当たりの規模が平均200万円程度と小さいことも課題である。国としても、大学等におけるオープンイノベーションの体制整備を支援したり、税制改正も進めてきたところである。今後、より多くの企業が、組織対組織の大型の共同研究を進めていくことが期待される。

産学官連携の好事例として、官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の推進がある。同施設は、学術・産業ともに高い利用ニーズとリターンがあることから、国だけでなく、地元の自治体や産業界も費用を負担することとなっている。関係者にオーナーシップを持ってもらい、一緒に活用していくことが重要であり、こうした取り組みを横展開していくべきである。

【産業技術本部】