Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年3月14日 No.3400  重要労働判例説明会を開催

説明する鈴木氏

経団連は2月27日、東京・大手町の経団連会館で「重要労働判例説明会」を開催、経営法曹会議所属の鈴木里士弁護士(石嵜・山中総合法律事務所)から、「近時の裁判例の解説」を聞き意見交換を行った。会員企業から約100名が参加した。解説の概要は次のとおり。

■ 日本ケミカル事件(最高裁平成30年7月19日判決)

薬局に勤務する薬剤師に対する固定残業代の有効性が争われた事案である。

最高裁は、固定残業代について、固定残業代自体が直ちに労働基準法37条に反するものではなく、対価性(固定残業代が実質的に割増賃金としての性質を有すること)を前提とする明確区分性(通常の労働時間に対する賃金にあたる部分と時間外労働に対する賃金にあたる部分とが明確に区分できること)があれば有効で、その判断については雇用契約書の記載等の諸事情を考慮するとした。

■ イビデン事件(最高裁平成30年2月15日判決)

グループ単位で内部通報制度を設けていた会社の従業員の申し出に関し、親会社(グループ全体の通報窓口が設置されていた)の責任が問題となった事案である。

最高裁は、グループ会社の従業員等が親会社の相談窓口に相談の申し出をすれば、親会社は適切な対応をすべき信義則上の義務を負う場合があるとした。

ハラスメントの相談を受けた場合に、被害者・加害者に対する事実確認を行うことは対応として必須である。グループ単位で通報窓口を設けてコンプライアンス体制を構築することが潮流としてあるので、親会社が相応の関与をすることが重要になっていくであろう。

■ 日本郵便(更新上限)事件(最高裁平成30年9月14日判決)

契約社員の雇止めの有効性が争われた事案である。

日本郵政公社(旧公社)の非常勤職員であった原告らが、郵政民営化に伴い、旧公社を退職し、日本郵政と期間の定めのある雇用契約を締結した。日本郵政には当初より契約社員の更新上限(65歳)が設けられていて、その規定によって原告らは雇止めとなった。

最高裁は、旧公社と日本郵政とは別個のものであり、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことは相応の合理性がある(労働契約法7条)として、雇止めを適法とした。

■ メトロコマース事件(東京高裁平成31年2月20日判決)

駅売店の販売業務に従事する契約社員と正社員の賃金格差の不合理性(労働契約法20条違反)が争われた事案である。

東京高裁は、本給、賞与の格差については不合理ではないとしたが、契約社員に対する住宅手当の不支給(転勤がないのに正社員にのみ支払われていた)、功労報償的性格を有する退職金の一切の不支給等を不合理とした。

■ 学校法人大阪医科歯科大学(旧大阪医科大学)事件(大阪高裁平成31年2月15日判決)

事務職(アルバイト職員)と正社員との賃金格差が労働契約法20条に違反するかが争われた事案である。

大阪高裁は、基本給等の格差は合理的と判断したが、アルバイト職員に対する賞与の不支給(年齢、勤務成績等に連動せず一律の功労の趣旨で支給されていた)、夏期特別休暇がないこと、私傷病欠勤中・休職中の賃金不支給を不合理とした。

格差が違法かどうかについてはわかりづらいので、実務においては、こうした裁判例を注視していくことが大切である。

【労働法制本部】