Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年4月4日 No.3403  パリ協定発効後の環境エネルギー政策の動向を聞く -ワシントン・リポート<57>

3月20日、21世紀政策研究所エネルギー・環境政策プロジェクトの有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院教授)を招き、パリ協定発効後の内外の環境・エネルギー政策の動向などについて説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ アメリカの政治的要素

オバマ政権が進めたクリーンパワープランの解体は、民主党の支配する州政府や環境団体からの訴訟が提起される見込みであり、その決着は最高裁判所まで続くことが想定される。そのため、トランプ政権後も終身で残る最高裁判事の陣容が法的判断の帰趨に大きく影響する。また、中間選挙では温暖化問題は争点にならず、連邦議会上下両院に占める両党の現状を鑑みると、多くの議論が提起されて政策遂行にブレーキはかかるものの、今後もトランプ政権のエネルギー温暖化政策の方針は変わらないと思われる。

民主党若手注目株のオカシオ・コルテス下院議員はじめ多数議員の共同提案であるグリーンニューディール決議は、複数の大統領候補も賛同を示すなど注目を集めている。共和党は賛同する民主党議員を「社会主義者」と攻撃するなど、政治問題化している。グリーンニューディール決議は非現実的なほど野心的な一方、具体的政策のないビジョンステートメントであるが、来年の大統領選挙に向け温暖化が1つの焦点になることは確実だと思われる。米国の動向は日本へも波及効果が生じ得るために注意が必要である。

■ 国際的議論

最近のG7およびG20の声明文における気候変動問題は、(1)全参加国共通(2)米国以外の参加国共通(3)米国のみ――を主語とする3種類の異なる記載が行われている。日本にとっては、今年6月に大阪で開催するG20サミットでどのように共同歩調を取るのかが問題となる。特に、トランプ大統領が離脱表明したパリ協定を含め、いかに全参加国が合意できる議題を設定するかが重要である。エネルギー安全保障やCCUS(COの回収・利用技術)のような長期イノベーションに軸足を置くことが考えられる。

■ 日本の長期戦略

わが国のエネルギーコストは諸外国より高く、実現性を無視した削減目標の設定や特定の技術に偏重したエネルギーミックスはエネルギーコストの上昇を招くのみで、国際競争力強化や経済成長に悪影響が及ぶ。経済と温暖化防止を両立するためには、グローバルバリューチェーンを通じたセクターおよび国境を越えた排出削減や、長期脱炭素化を実現するイノベーションなど技術による対応を中核とすることが肝要である。目標値そのものよりも、目標値の達成を可能とする技術目標が重要であり、技術コストの削減や革新的技術開発の促進が求められる。産業界としても対外発信、政府への働きかけ、諸外国の産業界との連携を強化し、粘り強く取り組むべきである。

【米国事務所】