Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年7月25日 No.3417  「環境問題を巡る国際的な潮流と日本への示唆」 -21世紀政策研究所がセミナー開催

21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は7月5日、東京・大手町の経団連会館でセミナー「環境問題を巡る国際的な潮流と日本への示唆」を開催し、同研究所の環境・エネルギー研究会の有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院教授)がG20の結果と最近の国際情勢およびわが国の課題について説明した。概要は次のとおり。

■ G20大阪に向けた国際動向

ドイツでは緑の党が影響力を増しており、環境規制を強化する法案が通る可能性が高まっている。同様の傾向は西欧・北欧で特に強くみられる。また、米国においても、草の根環境団体の「サンライズ運動」が提唱した「グリーン・ニューディール」(気候変動を通じた雇用拡大計画)が注目を集め、環境問題を政治アジェンダに押し上げた。民主党支持者にとって温暖化対策は最重要事項の一つであり、2020年の大統領選挙で民主党が勝利した場合、米国のエネルギー・温暖化対応政策は大きく変化する可能性がある。 このように世界的に気候変動問題への関心が高まっている。一方、国民の環境対策コストの負担許容額は低く、「2度目標」の実現に必要なコストに遠く及ばない。例えば米国では、「2度目標」達成のためには年間1人当たり1075~1716ドル(2020年時点)が必要であるが、国民の負担許容額は年間12ドルにとどまるという調査もある。このように、環境問題を巡ってCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)が目指す世界と現実の間には乖離がある。気候変動対策はSDGs(持続可能な開発目標)の17項目の一つにすぎない。ほかの目標項目とのトレードオフも想定され、取り組みの優先度は国によって異なる。特に、新興国に対してエネルギーコストを引き上げて気候変動対策を行うよう求めるのは困難であろう。

■ 長期戦略を巡る動向

欧米各国は気候変動に関する長期戦略を発表している。EUにおいても2050年のネットゼロエミッションを長期戦略として掲げることを議論しているが、ポーランド、チェコ等の反対により合意できていない。日本は今年6月に長期戦略を閣議決定した。日本はエネルギーコストが諸外国よりも高く、フィージビリティー(実現可能性)を無視した削減目標や特定の技術に偏重したエネルギーミックスはエネルギーコストの上昇を招き、国際競争力、経済に悪影響を及ぼす。経済と温暖化防止の両立に向けて、技術による対応を中核とすべきであり、目標値そのものよりも、目標値を可能とするような技術目標に重点を置くことが重要である。

■ G20におけるエネルギー温暖化問題の位置づけ

G20において、パリ協定に関する記述を巡る米欧対立と、エネルギー転換に関して、より厳格な化石燃料排除を主張する理念主義(欧州)と、各国の国情に応じたオプションを用意すべきとする現実主義(米、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ等)という対立構造が顕在化した。日本の産業界はパリ協定に関するポジションを除けば、総じて米国とスタンスが近い。今後、欧州議会選挙における緑の党の躍進を背景に、西欧・北欧でより理念主義的傾向が強まると思われる。かかるなか、日本はポーランド等の石炭火力への依存度が高い東欧諸国と連携していくことも考えられる。

■ 気候変動と資金フロー

欧州はエネルギー転換を実現すべく、サステナブル・ファイナンスに関する新たなアクションプランを発表した。現在、同プランの基礎となる「サステナブル」の定義明確化のため、「タクソノミー」を作成している。その定義では、CCS(二酸化炭素回収・貯留)を伴わない石炭火力、LNG火力および原子力は「サステナブルとはいえない」とされている。このような欧州のタクソノミーの考え方がグローバルスタンダードになれば、引き続き化石燃料に依存するアジア地域の現実と齟齬が生じ、将来のエネルギーインフラ投資の資金調達に悪影響をもたらす可能性がある。日本はほかのアジア諸国とも連携し、現実的、多面的なタクソノミーを目指すべきである。

【21世紀政策研究所】