Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年8月8日 No.3419  夏季フォーラム2019 -第2セッション「創造社会“Society 5.0”の実現に向けて」

須賀氏

経団連(中西宏明会長)は7月18、19の両日、長野県軽井沢町で夏季フォーラム2019を開催した。

第2セッション後半では、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏から「創造社会“Society 5.0”の実現に向けて」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

■ 第四次産業革命日本センター

第四次産業革命日本センターは、政策のオープンイノベーションを促し各国の政策の相互運用性を確保することを目的として、2018年7月に創設された。日本センターはサンフランシスコに次ぐ世界第二の拠点として位置づけられており、世界経済フォーラム、経済産業省、アジア・パシフィック・イニシアティブによるジョイント・ベンチャー方式で設立し、パートナー企業の資金で機動的に運営していることが特徴である。

■ データ・ガバナンス

設立1年目の成果の一つがデータ・ガバナンスである。日本センターは、データ・ガバナンスこそ第四次産業革命の最重要課題と位置づけるべきだと主張し続け、これが安倍首相による19年ダボス会議での「データ・ガバナンス大阪トラック」の呼びかけやG20大阪サミットでの「Data Free Flow with Trust (DFFT、データ流通圏構想)」の提唱へとつながった。

データ・ガバナンスには現在、GDPR(EU一般データ保護規則)によるEU型、中国などの国家統制型、企業主導による米国のGAFA型という3つの形態がある。国境を越えたデータ活用こそ第四次産業革命の恩恵を社会にもたらし、Society 5.0を実現するうえで不可欠であり、相互運用性がないとされるこれらの枠組みについて合意点を見いだそうとするのがDFFT構想である。

■ ヘルスケアデータ・ガバナンス

データ・ガバナンスにおける重要論点の一つが個人のプライバシーだが、データの適切な利用にあたるかどうかの判断をすべて本人の「同意」に委ねるのは個人にとって過重な負荷であり、制度として持続可能ではない。日本センターでは、例えばヘルスケアの文脈では医学の発展、公衆衛生の向上など公益目的のデータ利用の場合、本人の同意なしでデータへのアクセスを可能とすべきであると考え、APPA(Authorized Public Purpose Access)という概念を提唱している。APPAは今後GDPRでも受け入れられる可能性があり、日本の個人情報保護法改正に向けた議論などにも反映していきたいと考えている。

■ スマートシティ

日本センターではスマートシティ、すなわち街のデータ・ガバナンスも重点分野と位置づけている。今後、世界規模で各都市がスマートシティの実現のためにインフラ投資、調達、制度設計を行っていくにあたり、都市間での情報共有、都市OSの標準化や相互運用性の確保が重要となるが、十分な対話が行われていない。そこで、19年のG20サミットプロセスにおいて初めてスマートシティを主要課題として取り上げ、B20、U(Urban)20、G20貿易・デジタル経済大臣会合で、日本センターが提言したGlobal Smart City Allianceの創設提案への支持を取りつけ、世界経済フォーラムがその事務局を拝命した。今年10月に横浜で、都市や都市連合が幅広く参加するグローバルな都市間連携の新しい枠組みを創設する予定である。都市や住民、企業とともにベストプラクティスや課題を共有し、相互運用可能な基準や枠組みについて意見集約を行うことで質の高いスマートシティの早期実現を目指す。

■ 規制改革とガバナンス・イノベーション

第四次産業革命の進展がいや応なしに変革を迫るのが、規制のあり方である。これまでの業種ごとに整備されてきた日本の業規制は、プラットフォーム型ビジネスが台頭した第四次産業革命時代には必ずしも適合しない。世界中で「実証疲れ」が起きるなか、イノベーションの社会実装を通じてSociety 5.0を実現するためには、政府が単なる業務の電子化を超えたデジタル・リテラシーを獲得し、機動的で柔軟な政策立案・執行を目指すガバナンス・イノベーションが不可欠である。

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その後の意見交換では、データ・ガバナンスやスマートシティの今後の方向性、規制のあり方等について活発な議論がなされた。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】