Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年9月26日 No.3424  テキサス州の変貌と2020年大統領選挙 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 久保文明

久保研究主幹

テキサス州では1980年大統領選挙以来今日まで、毎回共和党が勝利を収めてきた。南部諸州、特に南北戦争で南軍を構成したテキサスを含む南部11州は、1970年代までは民主党の地盤であった。しかし、黒人への法的差別を禁止した1964年の公民権法制定以来、南部白人の政党支持は徐々に民主党から共和党に移行し、南部諸州は1980年代からはむしろ共和党の金城湯池となった。

ただし、フロリダ州では比較的早く民主党が盛り返し、最近では常に接戦州として位置づけられている。2008年には民主党がノースカロライナ州で勝利してアメリカ中を驚かせた。このような文脈で現在注目に値するのが、テキサス州の動向である。

大統領選挙の結果を振り返ってみよう。

テキサス州では2012年に約16%差で、共和党が民主党を下した。2016年は9%差であった。同年、オハイオ州などで共和党は2012年から大幅に得票を増やしたが、テキサスでは逆の結果となった。そして2018年の上院選挙では、共和党は民主党に勝利したものの、その差はわずか2.6%にすぎなかった。このとき、共和党は現職で知名度の高いテッド・クルーズが候補者であり、民主党候補者は当初は無名に近かったベト・オロークであった。

このように最近、民主党がテキサス州で党勢を伸ばしている原因は何であろうか。一つはヒスパニック人口の増加であり、もう一つはハイテク産業の流入である。

テキサス州におけるヒスパニック人口の割合は39%であり、全国比の18.8%をはるかに上回る。まだ白人(ここではヒスパニック系でない白人を意味する)を下回るものの、増加率が高いため、ヒスパニックが州最大の民族集団となるのは時間の問題である。

ヒスパニック系有権者の投票傾向を2016年大統領選挙における出口調査で確認してみよう。

その65%が民主党のヒラリー・クリントンに、29%がドナルド・トランプに投票した(第三政党のゲリー・ジョンソンに3%)ことからわかるように、圧倒的に民主党寄りである。ニューメキシコ州では州民の48%がヒスパニック系となっている。ここではすでに民主党が優位に立っている。

テキサスでは近年、多くの企業が本社機能をカリフォルニア州から移転している。特にオースティンにはハイテク産業が多数存在しており、テキサス大学オースティン校があることでも知られている。オースティン地域はシリコン・ヒルズとして知られ、ダラス北部はシリコン・プレーリーとして知られる。デル、テキサス・インスツルメンツなど多数のハイテク企業の本社がテキサス州に存在している。一般的に白人有権者の場合、高学歴のハイテク関係者の場合には、宗教・文化的争点でリベラルな態度を取る人が多く、民主党支持者であることが多い。また大学関係者は民主党寄りである。

つい最近、クルーズ上院議員はテキサスについて、2020年にトランプが勝つであろうが、接戦であろうと予測した。テキサス州についてのある世論調査では、トランプとの仮想レースにおいて、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、そしてジョー・バイデンのいずれもが、トランプを上回る支持率を獲得している。

さらに状況を複雑にしているのは、トランプの北米自由貿易協定(NAFTA、再交渉後は米国・メキシコ・カナダ協定=USMCA)に対する批判的態度である。テキサス州経済にとって、メキシコ・カナダとの貿易は死活的重要性をもつ。2016年の大統領選挙で共和党が勝利したものの、得票率の差を民主党に縮められたのはトランプによる反NAFTAの政策のためかもしれない。

かつてカリフォルニアは圧倒的に共和党が強い州であった。それが1992年に民主党に転じ、それ以来、同州は民主党の堅固な基盤となっている。もしテキサスで同様のことが起きれば、今後長く民主党に有利な状況が展開しよう。民主党にとっても、オハイオ州やペンシルベニア州の奪還と、テキサス勝利とどちらを目指すか、異なった戦略が存在している。

【21世紀政策研究所】

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