Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年10月17日 No.3427  観光をめぐる現状と政策の方向性 -観光庁の田端長官から聞く/観光委員会

説明する田端長官

経団連は9月27日、東京・大手町の経団連会館で観光委員会(菰田正信委員長、新浪剛史委員長)を開催し、観光庁の田端浩長官から、最近の観光行政をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 観光の意義

観光がわが国の経済社会にもたらす効果は大きく2つ挙げられる。

第1は、交流人口の拡大に伴う経済効果である。わが国は人口減少・少子高齢化に直面しており、消費の減退による景気への悪影響が懸念される。一般に、定住人口1人当たりの年間消費額は127万円とされており、これは外国人旅行者の8人分、国内旅行者(宿泊)23人分に相当する。定住人口の減少分を観光を通じた交流人口の増大によりカバーしていくことで、消費が生まれ雇用も拡大する。

第2は、生産における波及効果である。2017年の日本国内における旅行・観光消費の生産波及効果は55.2兆円である。このうち7割弱の37兆円を交通・宿泊・飲食等のいわゆる「観光産業」以外が占めており、旅行・観光消費の効果は裾野が広い。

■ 観光の現状

観光が幅広くもたらす経済効果を踏まえ、安倍政権においては、ビザの緩和や免税制度の拡充等の取り組みを重ねてきた。その結果、訪日外国人旅行者と旅行消費額はそれぞれ12年の836万人・1兆846億円から18年には3119万人・4兆5189億円へと6年間で急伸した。この額を国外需要ととらえ、他の産業における輸出額と比べると、半導体等の電子部品をしのぐ規模である。

国際観光市場は18年に14億人に到達し、アジア・太平洋地域を中心に今後も高い伸びが予測される。各航空会社は新規就航路線を着実に増加させており、成田や羽田の首都圏空港等の発着容量も拡大予定である。わが国には観光振興に必要な4つの要素(気候、自然、食、文化)がすべて備わっており、こうした強みを活かして20年の政府目標(訪日外国人旅行者数4000万人、訪日外国人旅行消費額8兆円等)の達成を目指していく。

■ 観光政策の方向性

13年の「観光立国推進閣僚会議」設置以降、政府一丸で観光振興に取り組んでおり、推進主体である「日本政府観光局」の機能強化や観光庁の予算・定員の大幅拡大が行われている。

観光政策全体の方向性を示すのは「明日の日本を支える観光ビジョン」であり、それを踏まえた政府の今後1年の行動計画が「観光ビジョン実現プログラム2019」である。同プログラムの主要施策として、

  1. (1)外国人が真の意味で楽しめる仕様に変えるための環境整備(多言語対応、無料Wi-Fi整備、キャッシュレス対応等)
  2. (2)地域の新しい観光コンテンツの開発(国立公園の滞在環境の向上、公的施設の公開時間延長等)
  3. (3)日本政府観光局と地域(自治体・観光地域づくり法人=DMO)の適切な役割分担(日本政府観光局による一元的な情報発信、地域による着地整備等)
  4. (4)地方誘客・消費拡大に資するその他主要施策(出入国の迅速化等)

――が取りまとめられた。

今年から、日本からの出国1回につき1000円を徴収する「国際観光旅客税」が創設されており、新たな財源を観光基盤の拡充・強化を図るための施策に投入していく。

■ 今後の主な取り組み

さまざまな取り組みのうち、強化を図っていくものとして3つ挙げる。

1つ目は、MICE(注1)誘致の促進である。各国がビジネス旅客の取り込みに注力するなか、インセンティブ旅行の誘致促進やブレジャー(注2)の促進等により、MICE関連のインバウンドの滞在期間・消費額の増加を図っていく。

2つ目は、MaaS(注3)の推進である。観光庁の調査では、訪日外国人旅行者から公共交通が使いにくいとの不満が寄せられた。全国各地でMaaSの実証実験が進んでいるが、利用者の視点から真に使いやすいサービスが整備されることが重要と考えている。

3つ目は、働き方・休み方改革の推進である。企業や自治体とも協力しながら、年次有給休暇の取得率の向上や休暇取得の分散化を通じて、観光促進を図っていく。

(注1) MICE=会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の総称

(注2) ブレジャー=ビジネスとレジャーを合わせた造語

(注3) MaaS=Mobility as a Service、出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに1つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく利用者にとっての一元的なサービスとしてとらえる概念

【産業政策本部】