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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年11月21日 No.3432 「公的年金改革と老後の資産形成支援をめぐる税制」 -経団連昼食講演会シリーズ<第40回>/慶應義塾大学の土居教授が講演

経団連事業サービス(中西宏明会長)は10月31日、東京・大手町の経団連会館で第40回経団連昼食講演会を開催し、慶應義塾大学経済学部教授の土居丈朗氏から講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 公的年金制度の課題

公的年金制度は2004年に大きく改正され、確定拠出型となり、マクロ経済スライド方式、有限均衡方式が導入され、賦課方式の色彩が強まった。今夏、「老後2000万円問題」が話題となったが、5年に一度の年金の財政検証も重要なトピックである。

財政検証では、経済成長と人口変動を前提にマクロ経済スライド終了時の所得代替率が試算された。所得代替率とは、モデル世帯における65歳の年金受給開始時に、現役世代の平均賃金の何パーセントの年金が受け取れるかという数値。この先何十年もゼロ成長やマイナス成長が続かないように経済運営をすれば所得代替率が50%を割ることはないというのが政府の公式見解である。

その他のテーマとしては、第一が在職老齢年金の問題。働きながら年金を受け取る場合の年金減額幅を抑える方針にあるものの、財源の手当てが課題となっている。年金給付を減額しない代わりに合算所得に対する課税方式に変えればよいのだが、財務省と厚生労働省の垣根があり、それができない。そのため、マクロ経済スライドを効かせて給付全体を0.2%分減らすことで在職老齢年金給付を増やすという方向になっている。

第二は、非正規労働者への厚生年金の適用拡大。厚生年金加入者を増やして高齢者の低年金問題を緩和することがねらいである。

なお、マクロ経済スライドは14年までに一度も発動されず、所得代替率は上がっている。マクロ経済スライドは世代間格差を縮めるために必要不可欠だが、これによる基礎年金の給付抑制が高齢者の生活保護受給者の増加を招かないようにする必要がある。生活保護の財源はすべて税金であり、今年度は3兆円強が投じられている。生活保護受給者の半分以上が高齢者という深刻な状況にある。

■ 老後の資産形成支援をめぐる税制

NISAは年金制度ではなく非課税貯蓄・非課税投資制度である。まず給料を受け取る際に税金を支払い、その後拠出し、運用時・受け取り時は非課税のTEE型。一方、私的年金(企業年金、iDeCo)は拠出時・運用時は非課税だが、受け取り時に課税されるEET型。将来見通しや老後の生活に対する好みに合わせて使い分けができるため、両制度の併存には意義がある。

私的年金の非課税拠出限度額は、企業年金加入者よりも基礎年金しか加入できない人に手厚く設定されている。拠出限度額は老後にいくら備えておくべきかという金額から逆算して設定されているが、大きくし過ぎると金持ち優遇批判が出てしまう。

年金の受け取り方法には、一時金と年金の2つの選択肢がある。老後の備えとしては年金受け取りが望ましいが、一時金選択が圧倒的に多いのが実態。一時金受け取りの方が税負担が軽いことが影響しているため、一時金受け取りに対する税率を上げて同等性を確保すれば年金選択者は増えるはずである。

NISAは時限措置の制度となっているため、恒久化の議論が必要である。多くの高齢者に一般NISAが利用されているが、現役世代にも老後の備えに積立NISAの利用が広がることが望ましい。

私見だが、政府は国民に誤解を与えないように議論を提起することが重要である。NISAを促すことで消費が減るという批判に対しては分散投資の考え方を説明し、金持ち優遇批判に対しては中低所得層の老後の備えの仕組みであることを強調すればよい。また、私的年金と非課税貯蓄制度の林立に対しては、拠出枠を統一し、拠出時にマイナンバーを活用して個人単位に名寄せすればよいと考える。

【経団連事業サービス】

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