Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年12月12日 No.3435  観光地域づくり法人(DMO)の役割について聞く -観光委員会企画部会

経団連は、東京・大手町の経団連会館で観光委員会企画部会(今泉典彦部会長)を11月に開催。政府関係者と有識者から、DMO(注)をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ DMOの概要
(山並雄士 観光庁観光地域振興課観光地域づくり法人支援室観光地経営推進官)

戦略的なビザ緩和や免税制度の拡充、出入国管理体制の充実、航空ネットワークの拡大等の改革を断行した結果、2018年の訪日外国人旅行者数は3119万人、訪日外国人旅行消費額は4兆5189億円に達した。

一方、政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」で2020年目標として掲げた項目のうち、訪日外国人旅行消費額8兆円、地方部での外国人延べ宿泊者数7000万人泊達成は容易でない。目標達成に向けて、(1)1人当たり旅行支出の引き上げ(2)地方部への送客――が課題となっている。

課題解決に大きな役割を果たすのがDMOである。観光振興を通じて持続的な地域づくりを図るためには、自治体や民間事業者、地域住民等の多様な関係者を巻き込みながら、データに基づく戦略策定、観光コンテンツの開発・磨き上げや受け入れ環境の整備等を担う司令塔が必要である。

観光庁では15年に「日本版DMO登録制度」を開始し、各地域におけるDMOの確立・形成を促進してきた。今年8月7日時点で252の法人(候補法人116を含む)が登録され、「せとうちDMO」や「田辺市熊野ツーリズムビューロー」などの優良事例もみられる。情報支援・人材支援・財政支援の「三本の矢」を通じて、登録法人の底上げに努めていきたい。

■ 観光振興に向けたDMOの活用
(高橋一夫 近畿大学経営学部教授)

18年の訪日外国人旅行消費額は4兆5189億円に達し、製品別輸出額において自動車、化学製品に次ぐ水準に達した。インバウンド観光がわが国の基幹産業に成長しつつあるなか、観光振興を地域経済の活性化に結びつけるには、(1)旅行客数(2)客単価(消費額)(3)域内調達率――という3つの要素の向上が必要となる。訪日客の旅行形態に占める個人旅行の比率が高まっていることも踏まえると、マーケティング戦略の策定やエリアマネジメントの先導役を担うDMOが果たす役割は極めて大きい。

しかしながら、成果を出し続ける欧米のDMOと比較して、わが国のDMOには、(1)出向者中心の組織運営により専門的なスキルや人脈が継承されにくい(2)出向元の民間企業や行政が人事評価を行うため派遣職員の出向先への帰属意識が低い(3)補助金や自治体からの受託収入に頼り多様で安定した財源が確保できていない――など、組織マネジメントの観点から数多くの問題点がみられる。

そこでDMOが求められる機能を発揮するため対処すべき課題を2点挙げる。第1は行政との役割分担の明確化である。行政は観光政策の取りまとめやインフラ整備、規制改革等に注力し、高度な専門性が必要なマーケティングや観光コンテンツの開発・磨き上げはDMOに任せるべきである。第2は地域の観光財源メニューの多様化である。一部自治体が導入を目指す「宿泊税」のように、受益者負担に基づく新たな財源に関する議論に着手すべきである。

観光地経営で成果を出すためには、DMOが財源と人材のあり方に正面から向き合ったうえで地域の関係者を巻き込み、行政や観光関連事業者、地元経済界などのステークホルダーが自らのミッションや役割を果たすことが欠かせない。

(注)DMO=Destination Management/Marketing Organizationの略。地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりを行うかじ取り役となる法人

【産業政策本部】