Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年1月9日 No.3438  学校のICT環境整備の現状と課題等について聞く -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は12月12日、東京・大手町の経団連会館で教育・大学改革推進委員会企画部会(宮田一雄部会長)を開催した。東北大学大学院情報科学研究科の堀田龍也教授と、全国ICT教育首長協議会特別顧問を務めるつくば市立みどりの学園義務教育学校の毛利靖校長から、学校のICT環境整備の現状と課題等について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 学校のICT環境整備のあり方(堀田教授)

情報技術の進展によって、予備校などの授業動画をスマートフォンで視聴できるなど、学校以外の情報からでも勉強できる環境が構築されている。こうしたなか、学校のICT環境整備が重要な課題となっているが、現状自治体間格差が大きく、教育機会の平等を確保する観点から問題がある。この原因は、公立学校のICT環境整備が設置者である自治体の裁量で行われていることにあり、国が学校のICT環境整備に予算をつけても自治体の理解が得られなければ整備が進まない。しかし、2020年度から順次施行される新しい学習指導要領では、ICT環境の一定の整備を前提に、情報活用能力を各教科等の学習の基盤と位置づけたうえで、デジタル教科書の使用を認めるよう法改正もされている。

そこで、政府は、学校のICT環境を速やかに整備するために、経済対策の一環で児童生徒1人1台コンピューターの実現を打ち出し、補助金を手当てすることとしたが、同時にネットワーク環境の高速大容量化を進めることが欠かせない。

2018年の「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」では、日本の「読解力」が参加国中15位まで低下した。同調査は前回からコンピューター使用型に移行し、「読解力」では、複数のテキストの中から情報を探し出して、テキストを評価、熟考する能力を問う問題が出題されたため、ICTを学習の場面で活用する経験がないと「読解力」は上がりにくい。日本は、学校でも家庭でも学習のためにコンピューターを使用する頻度がOECD加盟国中最下位であり、学校の脆弱なICT環境とICTを活用した教育の遅れが学力に影響を及ぼした可能性がある。しかも、読解力の低下は社会経済文化的背景が低い層ほど顕著であり、義務教育段階でのICT活用を推進して底上げを図る必要がある。

■ 学校のICT環境整備の加速化に向けた取り組み(毛利校長)

(1)全国ICT教育首長協議会の取り組み

学校のICT環境整備は全国的に進んでおらず、都道府県別にみると最も整備の進んでいる佐賀県ですら、児童生徒14人に1台しか整備されていない市町村があるなど自治体間の格差が大きい。

こうしたなか、学校のICT環境整備を加速するため、全国の首長が集まって16年8月に全国ICT教育首長協議会を設立した。現在132の自治体が加盟している。17年7月には松野文部科学大臣(当時)に提言し、学校のICT環境整備の地方財政措置増額の一翼を担った。このほか、ICT教育に先進的に取り組む自治体を表彰する「日本ICT教育アワード」発表等の活動を展開するなど、学校のICT環境整備の促進に貢献している。

(2)みどりの学園義務教育学校の先進的ICT教育

みどりの学園義務教育学校は、18年4月に開校した小中一貫の公立学校であり、Society 5.0時代のチェンジメーカーとなるのに必要な21世紀型スキルを育成する教育を展開している。当校は世界最先端ICT教育等をグランドデザインの1つに掲げてワクワクする学びを実現する先端技術ICT環境を整備しており、それまでICTを利用した経験がない教員も含め教員全員が各教科でICTを活用した授業を実践している。また、つくば市では、いつでもどこでもインターネットを使って小学1年から中学3年までの教科を学習できる「つくば教育クラウド」を構築し、学年・教科を越えた利用が可能となっている。

学校のICT環境整備は自治体の裁量に委ねられているが、オールジャパンで取り組むべき課題である。日本中の子どもたちがICT最先端教育を平等に享受できるよう国主導で学校のICT環境整備に取り組み、全国の学校にICTを行き渡らせる必要がある。ぜひ産業界の協力を得たい。

【SDGs本部】