Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年2月13日 No.3442  「中国の最先端―技術・社会・政治を展望する」 -21世紀政策研究所が中国セミナーを開催

21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は1月24日、中国に関する研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学教授)の中間報告としてセミナー「中国の最先端―技術・社会・政治を展望する」を都内で開催した。同プロジェクトは、昨年9月から、中国の産業・経済、社会、内政の専門家で構成し中国を多面的に研究している。概要は次のとおり。

■ 深圳のイノベーションエコシステムと米中貿易戦争の衝撃
(丁可ジェトロ・アジア経済研究所副主任研究員)

米中貿易戦争の影響で、深圳のイノベーションエコシステムは大きな変容を迫られている。これまで深圳では、人材(特に華人の技術者やサイエンティスト)、基幹部品やコア技術、イノベーションモデルを米国や先進国から積極的に誘致し、深圳独自のモノづくりの基盤、サプライチェーンを活用してイノベーションエコシステムを形成し急速に発展してきた。しかし技術デカップリングの影響を受け、深圳の新しい企業数の伸び、国際特許申請数が減少し始めている。さらに米中貿易戦争を契機に中国のエレクトロニクス企業はベトナムを中心に海外への産業移転を始め、産業基盤の空洞化も生じ始めている。この状況下で中国の対処としては、(1)自力更生の時代に戻って国際分業に頼らない独自のイノベーションシステムを構築していく(2)日本など米国以外の先進国との関係強化で中国標準の新たな国際分業体制を構築する(One world, two systems)(3)短期間での実現は難しいが技術の新領域を独自に開拓していく――ことが考えられる。

■ 中国の社会保障と福祉ミックスの可能性
(片山ゆきニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員)

中国では急速な少子高齢化とスマートフォンの普及、デジタル化の進展で2つの新たな市場が出現している。1つ目は「ぼっち消費」と呼ばれる市場である。地方出身、デジタルネイティブ世代の一人っ子を中心に、大都市ではスマホで映画・動画のメディア鑑賞、買い物、シェアリング、ネット金融など一人で生活をするための消費が普及している。2つ目は社会保障分野で、公助と自助の中間として、プラットフォーマーが新たな保障を担う市場である。民間企業アリババのネット医療保障「相互宝」(シャン・フ・バオ)が新たな担い手として出現している。この保障は、加入者が事後に給付額を割り勘にする互助会サービスで、農民工など今まで民間の保険に加入できなかった人も包摂し普及している。中国は社会保障が整っていない、体系化されていないといわれているが、実はこのような新しい実験的な取り組みが数多く実施されている。こうした取り組みは、今後アジアが高齢化を迎えるなかでの一つの参考例になると考えられる。

■ 中国内政の現状
(加茂具樹慶應義塾大学総合政策学部教授)

今の中国共産党は、一党支配という一元的な政治と経済発展に伴い多元化する社会との間の矛盾にとらわれており、いまだよりよい方法は見つかっていない。党は1980年以来、市場経済化の道を歩んで急速に発展した半面、独占していた社会資源が社会全体に拡散し権力と権威の弱体化などの課題が生じた。そこで、習近平政権はこれを克服すべく、江沢民、胡錦濤時代に制度化されてきたことに逆走するような政治を進めている。しかし、多様化する社会のなかで政策決定に必要なコンセンサスをどのように見つけるのか。社会が成熟段階に入ってきて、負の果実(リスク)の再配分をどのように進めるのか。容易ではない問題が生じている。

<パネルディスカッション>

川島研究主幹をモデレーターとして、(1)中国共産党の統治能力は多様化する社会をどのように管理し、官民の関係はどのような関係を維持するのか(2)中国などの権威主義体制下における急速なデジタル化がもたらす新しい可能性や脆弱性――について議論が行われた。

【21世紀政策研究所】