Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年2月27日 No.3444  IASBのフーガーホースト議長から最近の国際会計基準をめぐる動向を聞く -金融・資本市場委員会企業会計部会

説明するフーガーホースト議長

経団連は5日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会企業会計部会(野崎邦夫部会長)を開催し、国際会計基準審議会(IASB)のハンス・フーガーホースト議長から、最近の国際会計基準(IFRS)をめぐる動向を聞くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

<フーガーホースト議長講演>

(1) マクロ経済リスクの高まりとIASBの対応

ここ数年の世界経済について、概ね良好との見方もされているが、個人的には極めて深刻に見ている。景気刺激やインフレ率の引き上げを目的に、金利が極めて低く抑えられているため、世界全体の債務は膨張し続け、住宅をはじめとする資産価格も高騰し続けている。これらの現象は信用危機発生の伝統的なレシピであり、IASBは会計基準の設定主体として、新たな危機に備えるべく、対応する必要があると考えている。

例えば、歴史的な低金利を背景に企業買収が活発化するなか、のれんの残高が世界的に積み上がっている。現行のIFRSの減損のみモデルでは、減損処理のタイミングが遅れて、その金額も過少になるという「too little, too late」の問題が生じてしまう。仮に信用危機が勃発すれば、世界中の巨額ののれんが一瞬で吹き飛ぶ可能性があり、IASBの不作為に対する非難は避けられなくなる。近日公開予定ののれんに関するディスカッション・ぺーパーでは、日本の経済界から、ぜひ償却処理再導入に向けた意見を提出してもらいたい。

(2) 財務情報をめぐる動向とIASBの取り組み

非財務情報への関心が高まるなかにあっても、従来の財務情報の重要性は変わらない。財務情報を電子形式で取得し、分析に用いる投資家が増えていることから、IFRSは、世界中の企業の財務データが比較可能となるよう、厳格な基準を定めている。こうした流れのなかで、損益計算書の構造に関する規律も求められている。

そこでIASBは、損益計算書における段階利益の比較可能性を高めるべく、基本財務諸表の見直しに関する公開草案を取りまとめ、現在コメントを募集している。公開草案では、「営業利益」「営業利益+不可分の関連会社および共同支配企業から生じる収益および費用」「財務および法人所得税前利益」を定義し、開示することを提案している。また、経営者が独自に定め、開示している業績指標を、経営者業績指標(MPM)として注記で記載し、監査の対象にすることを提案している。なお、公開草案の提案がどのように実務で適用されるかを調査すべく、各国の財務諸表作成者から参加者を募り、フィールドテストを実施する予定である。

<意見交換>

その後行われた意見交換では、野崎部会長から「日本の会計基準では、のれんの償却を継続している。償却支持の立場から、ぜひ議長を後押ししたい」との発言があった。基本財務諸表の見直しに関する公開草案については、石原秀威部会長代行から「持分法投資損益はすべて本業に関わるものであり、不可分である」「MPMが最も重要な業績指標であり、注記ではなく本表に記載すべきだ」との発言があったほか、他の委員から「新たな段階利益の算出方法は極めて複雑だ」といった声が聞かれた。

【経済基盤本部】