Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年3月12日 No.3446  「予想困難な未来社会における教育」について聞く -イノベーション委員会

経団連は2月25日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会(山西健一郎委員長、畑中好彦委員長、田中孝司委員長)を開催した。東京大学公共政策大学院教授・慶應義塾大学政策・メディア研究科教授の鈴木寛氏から、予想困難な未来社会における教育について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 日本の教育の現状

OECD「生徒の学習到達度調査(PISA)」によれば、わが国の15歳の科学リテラシー、数学的リテラシーは2012年以降世界トップクラスであるが、読解力については直近の順位を落としている。これはWeb形式での試験となったことが影響している可能性があるが、子どもたちの「書く力」が衰えていることも一因として考えられる。その背景には、わが国では記述式の試験を受けずに大学に入学できる学生が多く、そのことが初等中等教育段階の子どもの能力に影響を与えている可能性がある。

また、日本の英語教育にも課題がある。英語の4技能(「書く」「話す」「聞く」「読む」)はバランスよく育成することが重要であり、1999年に発布された学習指導要領でも盛り込まれていたにもかかわらず、いまだに高校においては、「話すこと」「書くこと」の両方の評価を行っている学校は全体の3分の1程度にとどまっている。

こうした問題意識を背景に、文部科学省では大学入試改革の準備を進めてきたが、いったんは決定した大学入学共通テストにおける英語4技能を測る試験、記述式試験の導入は、高校の反対等により頓挫した。

一方で、各大学における個別入試についての改革は予定どおり進む。国立大学では記述式が必ず行われるし、いわゆるAO入試、推薦入試による入学者が入学定員の平均で約3割を目指すこととなっている。今後はこのような自律分散型で改革を進める必要がある。こうした改革を大学が進めるにあたっては、産業界が、グローバルで思考力・判断力・表現力のある人材が必要であるとの強いメッセージを発することが、改革への重要な追い風となる。

■ 教育の今後

現代は、産業革命・市民革命から始まった近代を卒業して250年ぶりの世界・人類・地球の歴史の大転換期であり、新たな時代を創造できるエポック・メーカーを育てる必要がある。

こうしたなか、文科省の「Society 5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」で、当時文部科学大臣補佐官として座長代理を務め、Society 5.0の実現に向けてどのような能力が必要かなどについて議論を行った。

同大臣懇談会で取りまとめた報告書では、(1)教育現場における過度な形式的平等主義を改め、公正に個別最適化された学びを実現する多様な学習機会と場の提供(2)基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力に加え、ITなどの情報活用能力(3)文理分断からの脱却――が重要であるとした。

OECDにおいても、今後求められる資質について議論がなされ、(1)新たな価値を創造する力(2)責任ある行動をとる力(3)対立やジレンマを克服する力、そのベースとして学習者の自律性(Student Agency)――などが必要であるとされている。こうした資質を育むためには、PBL(注1)あるいは探究型学習を行うことが重要である。プロジェクトに取り組みながら、さまざまなステークホルダーや利害の対立を経験し、考えることが今後の変化激しい時代を生き抜く子どもたちに必要な能力を育むことになる。こうした学習を実施するにあたり、日々、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる産業界のさらなる協力に期待したい。

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経団連では、イノベーション委員会での議論を踏まえて、「EdTech(注2)を活用したSociety 5.0時代の学び」について、今月にも提言を公表する予定である。

(注1)PBL(Project Based Learning)=課題解決型学習

(注2)EdTech=EducationとTechnologyを組み合わせた造語

【産業技術本部】