Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年3月12日 No.3446  スーパーチューズデーのバイデン氏勝利を生んだ鮮やかな合従劇 -ワシントン・リポート<73>

3月3日のスーパーチューズデーは、同時に14州で民主党大統領選予備選が行われ、全選挙人の3分の1以上が選ばれる予備選最大のヤマ場であった。緒戦州では苦戦を続けていたバイデン前副大統領が10州において勝利するという結果は、わずか1週間前の状況からは考えられないほどの奇跡の復活であった。その急展開を順に追っていきたい。

2月22日のネバダ州党員集会においてサンダース上院議員が圧勝すると、誰もその勢いを止めることができないほど圧倒的優位だといわれていた。一方のバイデン陣営は2月29日のサウスカロライナ州予備選に最後の望みを託す瀕死状態であった。そのサウスカロライナ州でも22日時点ではサンダース候補に予想得票率で2.3%差に迫られていた。ここに来て民主党指導部は、自他共に認める民主社会主義者のサンダース候補指名を防ぐ時間がもはやなくなりつつあるとの認識に至り、上下院議員選挙にも悪影響を及ぼすとの懸念を急速に強めた。また、この時期に(1)サンダース氏がテレビインタビューでキューバのカストロ政権を擁護する発言をしたことも、彼の思想がいかに極端であるかを強調することとなった。

次に、(2)25日のテレビ討論会では、トップに立つ最有力候補のサンダース氏がキューバ発言や膨大な支出計画の財源などについて初めて本格的に他候補から攻撃を受けるなか、バイデン氏はこれまでの討論会のなかで一番安定していた。翌26日には、(3)サウスカロライナ州の長老議員で黒人有権者の間で大きな影響力を持つクライバーン下院議員がバイデン氏支持を表明した。この時点でバイデン氏のリードが10%以上に広がっているサウスカロライナ州の世論調査が相次いで明らかとなり、(4)29日の実際の予備選結果はバイデン氏48%、サンダース氏20%という圧勝であった。

このサウスカロライナ州の結果を受け、民主党指導部の大合従作戦が始まった。豊富な自己資金でもう一人の中道派として期待されていたブルームバーグ前ニューヨーク市長がテレビ討論会でつまずき、バイデン氏以外に選択肢を失った党指導部の動きは速かった。3月1日には、サウスカロライナ州予備選まではサンダース氏に次ぐ選挙人を獲得していた(5)ブティジェッジ前サウスベンド市長が撤退を表明し、翌2日には(6)クロブシャー上院議員も撤退、二人はバイデン氏支持を表明した。混戦となっていた中道派側が一挙に整理され、むしろウォーレン上院議員が残る急進左派側の方で票が割れるかたちになった。その結果、バイデン氏はサウスカロライナで息を吹き返したわずか3日後にサンダース氏から最有力候補の座を奪うこととなった。

今回の民主党の鮮やかな合従劇は、2016年の予備選で共和党ができなかったことを実現させたことになる。前回の予備選で、トランプ現大統領という従来の共和党候補とは異質な候補による党の乗っ取りという危機に直面した共和党指導部は、スーパーチューズデー後もルビオ上院議員やケーシック・オハイオ州知事といった候補が残り、二番手に付けていたクルーズ上院議員をトランプ対抗馬としてまとめることができなかった。民主党指導部は同様に異質(サンダース上院議員は民主党員でもなく、無所属議員)な候補の脅威に対し、強力な対抗手段を取った。それはサンダース氏ではトランプ大統領に勝てないという見方から、トランプ大統領再選阻止を最優先させる決断ともいえる。

【米国事務所】