Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年3月19日 No.3447  米国大統領選とエネルギー温暖化対策<中> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

■ 化石燃料敵視が際立つサンダース候補

サンダース上院議員、バイデン前副大統領の2050年脱炭素化に向けた考え方の違いには、化石燃料に対するポジションでも両者に温度差がある。サンダース氏は化石燃料敵視の傾向が強く、シェールガス革命をもたらしたフラッキングの全面禁止、連邦所有地における既存および新規の石油ガス採掘の全面禁止、米国の化石燃料輸出の停止、化石燃料企業に対する連邦訴訟等を公約に掲げている。バイデン氏は連邦所有地における新規の石油ガス採掘には反対しているものの、既存採掘プロジェクトの停止、フラッキング禁止、化石燃料輸出禁止などは掲げていない。

■ 両候補とも規制重視、カーボンプライシングについては旗幟不鮮明

2050年脱炭素化に向けた道筋を可能にするため、両候補とも議会の承認を要さない新たな規制を導入する方針である。トランプ政権のもとでキャンセルされたクリーン・パワー・プランもしくはその発展形が導入されることとなろう。バイデン氏は自身の政策の財源確保のため、トランプ政権で導入された法人税大幅減税を元に戻すとしている。サンダース氏の場合、法人税減税をキャンセルするのみならず、大企業や化石燃料への投資家をターゲットにした増税をするとしている。さらにサンダース氏は大気浄化法に基づく汚染者への罰則強化を公約している。

他方、両候補ともカーボンプライシングについては明確な方針を示していない。バイデン氏は「法的拘束力を有するエコノミーワイドの排出削減策の導入」を公約に掲げているが、その具体的内容は不明である。大統領選、上下両院いずれも民主党が勝利し、上院でフィリバスター(議事妨害)を防ぐ60議席以上を獲得すれば炭素税の導入を提案するかもしれないが、選挙キャンペーン中は国民の間に抵抗の強い新税導入については“旗幟不鮮明”にしているということだろう。ディリンジャーC2ES(Centre for Climate and Energy Solutions)副会長は、理論的にはカーボンプライシングの方が効率的であるとしつつ、政治的な受容可能性の点で非化石燃料基準等の規制的アプローチの可能性の方が高いとの見方だ。

バイデン氏は「温暖化対策の義務を果たしていない国からの炭素集約度の高い輸入産品に対する炭素調整賦課金もしくは炭素割当を導入する」としている。フォン・デア・ライエン欧州委員長が導入を示唆している炭素国境調整メカニズムと共通した考え方だが、国内に炭素税や排出量取引のような明示的な炭素価格が存在しない状況で、このような政策を導入できるのかは議論の余地があろう。

■ 原子力、CCSに否定的なサンダース候補、技術中立的なバイデン候補

脱炭素化に向けた技術選択においても両者のアプローチは異なる。バイデン氏はSMR(出力30万キロワット以下の小型原子炉)を含め原子力技術の研究開発を重視しており、CCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術開発、実証、導入拡大を主張している。これに対してサンダース氏は脱原発を主張しており、CCSについても「誤った解決策」であるとしてこれを排除している。技術政策面ではバイデン氏が温暖化防止に役立つ技術をすべて重視するテクノロジーニュートラル派であるのに対し、サンダース氏は再エネ省エネ至上主義であるといえる。

■ 環境団体はサンダース候補の施策を評価

このようにバイデン氏とサンダース氏の温暖化対策を比較すると、パリ協定復帰、2050年(ネット)ゼロエミッション志向、規制重視、政府支出拡大等、共通点もある一方、民主社会主義者を自認するサンダース氏の方がより急進的だ。サンダース氏の支持母体にはグリーン・ニューディール運動を主導したサンライズ運動の若い環境活動家が含まれるため、環境NGOの間では同氏の施策の評価が高い。サンライズ運動の評価では、サンダース案は95点、バイデン案は35点、グリーンピースの評価では、サンダース案は「A+」、バイデン案は「B+」である。

【21世紀政策研究所】

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