Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年4月9日 No.3450  USMCAの発効を控えたメキシコ情勢について聞く -日本メキシコ経済委員会

経団連の日本メキシコ経済委員会(片野坂真哉委員長)は3月26日、東京・大手町の経団連会館で、内山直子東京外国語大学世界言語社会教育センター特任講師から、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)発効を控えたメキシコ情勢について説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。

■ メキシコの経済状況

メキシコでは2018年に大統領選挙が行われ、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏が圧勝し、大統領に就任した。同大統領は急進的な左派で、メキシコシティ近郊に計画されていた空港建設を中止するなどし、建設・設備投資が急激に冷え込んだ。この結果、19年の経済成長率はマイナス成長に陥った。20年の成長率予測も低下傾向にあり、新型コロナウイルスも影響し、さらなる鈍化が見込まれる。公務員削減などにより雇用も伸び悩んでいる。

■ USMCA合意

こうしたなか、米国、カナダ、メキシコは、NAFTA(北米自由貿易協定)の現代化を目指すUSMCAの批准手続きを進め、近く発効する見通しとなった。USMCAは、自動車の付加価値の40%が時給16ドル以上の労働者によって生産されることなどを盛り込み、実質的な時給が3ドル程度のメキシコでの生産を抑制する内容となっている。そのほか、原産地規則の付加価値基準が62.5%から75%へ引き上げられ、メキシコ側にとって大変厳しい条件となった。

他方、米国が求めていたいわゆるサンセット条項(合意期間を16年間に定め、6年ごとに加盟国間で見直しを行う条項)を削除したことで、USMCAが自然消滅する危険性は回避できた。メキシコ側としては、投資をつなぎとめるためNAFTAの枠組みが消滅するのを何としても避けたかったことから、USMCAで厳しい原産地規則を受け入れた。

また、左派のロペス・オブラドール大統領は自動車産業に関心がなく、農業、先住民への思い入れが強い。南部の出身であることから、北部の工業州は自分の票田ではないという気持ちもあったのではないか。

■ 今後のメキシコ情勢の見通し

ロペス・オブラドール大統領は、治安対策として国家警備隊を創設するなど治安改善に取り組んでいるが、19年には過去最悪の殺人件数を記録し、成果は上がっていない。特に、日系企業が集積するグアナファト州では、麻薬カルテルの縄張り争いが激化し、急速に治安が悪化しているのは懸念要素である。

一方で、巨大な消費市場である米国に隣接するという地理的優位性や、若くて豊富な労働力人口を有しているといった点で、メキシコに替わる国はない。中国以外のビジネス拠点としても有望であり、日本企業には長期的な戦略が求められる。

【国際協力本部】