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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年5月21日 No.3453 アメリカ大統領選挙を大きく歪める「新型コロナウイルス」 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/新型肺炎(コロナウイルス)問題とアメリカ政治<2>
/21世紀政策研究所研究副主幹(上智大学教授) 前嶋和弘

前嶋研究副主幹

アメリカを震撼させている新型コロナウイルスが大統領選挙の展開を大きく変えつつある。何がいつもの選挙年と異なるのか。4点に分けて考えたい。

まず第一に各種政治イベントは選挙に欠かせないが、そのイベントが感染源となりかねず、選挙戦そのものが例年に比べ非常に小規模で目立たないものになってしまう。

実際、すでに民主党の予備選ではその傾向が目立っている。サンダース氏が4月8日に撤退したのも、選挙戦をしっかり行えないという理由が大きかった。予備選の結果に応じて配分される代議員数は撤退の段階でまだ4割が決まっておらず、両者の獲得代議員数の差が3割であることを考えると大逆転のチャンスがなかったわけではない。サンダース氏がバイデン候補を破るためには選挙集会を繰り返し支持者を広げていかなければならないが、未曾有の感染拡大のなかでは十分な選挙運動は不可能だった。このタイミングでの撤退は仕方なかったのだろう。

第二に、コロナ禍では、選挙のあり方への疑念も大きくなってしまうかもしれない。民主党側も共和党側も、夏の党大会そのものを開催できない前代未聞の事態が危惧されている。民主党側からはオンラインで開催することもすでに提案されているが、不正アクセス対策というコンピューターの方の「ウイルス」対策も急務になってしまう。ロシアなどからの介入も再び現実的なものになりつつある。

また、11月3日の本選挙も郵送に切り替える州もすでに増えている。こちらについても、本人確認の問題など不正の温床になりかねないという指摘が一部である。特に共和党側からの反発が強く、郵送による投票が投票の壁を低くし、通常の投票よりも貧困者や人種マイノリティーが数多く投票するとみているため、民主党に有利になるとみているのだろう。いずれにしろ、やり方が揺れれば選挙そのものの正統性も揺らいでしまう。

第三に、新型コロナウイルス感染対応だけが主な争点となって、このシングルイシューがアメリカ大統領選挙の行方を大きく左右するかもしれない。トランプ大統領にとって最大のPRポイントだった好景気はすでに過去の話だ。1929年の大恐慌を超えるような大失業時代を迎えつつある。的確な対応を進めることができず、感染者が増え続ける事態が一定期間続けば、トランプ大統領の信任が問われる。バイデン氏にとっては大きなチャンスとなる。一方で今後感染が急激に減り、さらには景気も戻った場合、「新型コロナウイルスを撃退した大統領」として、トランプ氏に有利になることは必至だ。

コロナ禍のなかでは、感染者や死者の数は独り歩きする。しかもその数字は州政府の対応に呼応する部分も大きい。そもそも感染対策・経済支援の各種立法化は、大統領の提案やリーダーシップも影響したところはあるが、基本的には議会側が立法したものだ。

大統領の政策運営能力には内政や外交などさまざまなものがあり、総合的に評価されるべきだ。しかし、新型コロナウイルス感染の状況ばかりが争点になり、他の大統領の資質に対する評価が抜け落ちてしまう。

第四が、コロナ禍という戦争にも例えられる非常に悲惨な状況のなかで、社会的パニック状態が「政治化」しつつある。今後の選挙戦で交わされる言葉が非常に感情的なものになるのは必至だ。

新型コロナウイルス感染対策については、スーパーチューズデー直前から「トランプ政権の対応が悪い」など民主党候補にとって格好のトランプ政権たたきの材料になっていた。民主党の事実上の指名候補に決まったバイデン氏は、「トランプではだめだ」「新しいリーダーシップが必要」というイメージを無理やりにでもつくり上げていかないといけない。トランプ大統領の姿勢をこき下ろす言葉はすでにかなり辛辣だ。これに対してトランプ大統領も、いつも以上にバイデン氏や自分を敵視するリベラルメディアを口汚くののしっていくであろう。

選挙戦の言葉の劣化は、政治の劣化にほかならない。その劣化した政治のなかで、トランプ氏が再選されるにしろ、バイデン氏が大統領になるにしろ、次の大統領が就任直後に直面するのは、さらに対立や分断が深まったアメリカという国家の運営である。運営の難しさは明らかだ。

「新型コロナウイルス」という予期しなかったワイルドカードが今後の大統領選の展開を大きく歪めていく。その度合いがどこまでひどくなるのか。不安がよぎるこの展開を世界はこれから注視しないといけない。

【21世紀政策研究所】

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