Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年6月11日 No.3456  コロナ危機下のアメリカ外交と党派対立 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/新型肺炎(コロナウイルス)問題とアメリカ政治<4>
/21世紀政策研究所研究委員(中央大学兼任講師) 西住祐亮

近年のアメリカ政治を特徴づける党派対立の激化は、他の分野以上に協力が求められる外交の分野にも及んでいる。こうした傾向は、1990年代から継続してみられるものだが、コロナ危機下のアメリカ外交にも影を落としている。

コロナ危機の震源地となった中国に対しては、危機の前から厳しい視線が向けられてきた。かつては、共和党と民主党の双方で、強硬論と協調論が併存していたが、トランプ政権発足以降は、両党で前者が支配的になった。中国への対抗と、アジアでのリーダーシップ強化を目的とするアジア再保証イニシアチブ法(ARIA)が、超党派の支持を受けて成立(2018年12月)したのは、強硬論の広がりを象徴するものとされた。分断が極まるアメリカで、皮肉にも中国の存在が結束のきっかけになるのではとの見方が示されることもあった。

しかし、どのような手法で中国に対抗していくのかという点については、現在のアメリカでも総意があるわけではない。また、現在のアメリカでは、先述のARIAをはじめ、中国の脅威が多領域に及んでいるという認識が広く浸透しているが、実際にどの領域での対抗を重視するのかという点については、共和党と民主党の間で違いがある。

こうした両党の違いは、コロナ危機下の現状でも観察することができる。例えば、米中対立の象徴になっている世界保健機関(WHO)への対応でも、両党の違いは明らかである。

20年4月中旬、トランプ大統領は、コロナ危機への初動対応の遅れや中国との距離の近さを理由に、WHOへの資金拠出の停止を発表したが、これについては民主党側から批判が相次いだ。下院外交委員会の民主党議員は、同月下旬に、連名の公開書簡をトランプ大統領に送り、拠出停止の方針を撤回するよう求めた。この書簡は、国際保健分野におけるWHOの重要性を指摘したうえで、国内コロナ対策の失敗の一因が、WHOとの連携不足であったと指摘した。また、18年からWHO執行理事会のアメリカ代表ポストが空席であったことにも触れ(5月上旬に空席状況は解消された)、トランプ政権によるリーダーシップの放棄が、中国の影響力をむしろ高めていると批判した。

他方、共和党においては、資金拠出の停止が概ね支持されている。トランプ大統領の発表に先立つ4月上旬には、下院の共和党議員が決議案を提出し、テドロス事務局長の辞任と国際調査委員会の設立が実現するまで、WHOへの資金拠出を停止するよう求めていた。また、5月中旬には、新設された下院コロナウイルス特別小委員会の共和党議員が、テドロス事務局長と在米中国大使を召喚・追及する聴聞会の開催を求めた。民主党の側は、国内のコロナ対策から目をそらすものであるとして、要求を拒んでいる。

WHOに対する両党の姿勢の違いは、支持者レベルでもはっきりしている。5月下旬公表のピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、WHOのコロナ対応については、民主党支持者の62%が肯定的な回答をしたのに対し、共和党支持者で同様の回答をしたのは28%であった。そもそも、国連そのものに対する姿勢でも、両党の違いは近年拡大する傾向にある。

もちろん、激しい党派対立の裏で、両党に共通する部分があることも忘れてはならない。中国とWHOの関係に対する疑念や、WHO改革の必要性は、民主党議員による先述の公開書簡でも明記された。逆に、WHOのかつての功績や、WHOの重要性そのものについては、共和党のなかでも認める声があり、テドロス事務局長とWHOを線引きして考える姿勢もうかがえる。

また、トランプ大統領の資金拠出停止については、全米商工会議所など共和党支持層の一部からも懸念の声が上がっている。加えて、5月下旬には、トランプ大統領がWHOから脱退する意向を表明したが、WHO改革に向けた圧力ではなく、脱退そのものが目的となるようなことになれば、共和党内の反発が大きくなる可能性もある。

ただ、国内のコロナ対応をめぐって党派対立が激化している現状に鑑みると、外交の分野においても、党派対立の図式が基本になっていくのは間違いないであろう。

【21世紀政策研究所】

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