Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年7月9日 No.3460  重要労働判例説明会を開催

経団連は6月18日、重要労働判例説明会をオンラインで開催し、延増拓郎弁護士(石嵜・山中総合法律事務所)が「経済産業省性同一性障害事件・東京地裁判決」を解説した。解説の概要は次のとおり。

■ 事件の概要

事案は、トランスジェンダー(身体的性別は男性だが、自認している性別は女性)である原告が、所属する経済産業省において、女性用トイレの自由な使用を認めない処遇等を行った人事院の判定の取り消しと慰謝料等の支払いを求めたものである。裁判所は、人事院の判定を違法として取り消しを認め、慰謝料等の賠償請求を認容した。

注目すべきは、トイレの使用に関する処遇の違法性を認めた点である。裁判所は、自認する性別に対応するトイレの使用を制限されることは、重要な法的利益の制約にあたるとした。そのうえで、(1)専門家である医師が原告を性同一性障害と診断した(2)被告である経産省において、原告が女性に性的な危害を加える可能性が低い状態であることを把握していた(3)原告が私的な時間や職場で社会生活を送る際、女性として認識される度合いが高かった(4)原告と同様の従業員に女性用トイレの使用を制限なく認めた民間企業の事例が存在し、被告において把握可能であった――などの事情に照らし、原告の職場での本件処遇を違法とした。

■ 実務上の留意点

トランスジェンダーのトイレ利用を規律する法律はなく、この問題は画一的な解決基準を見いだすことは困難である。企業においては、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」「事業主が職場における優越的な地位を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」に留意する必要がある。あわせて、申し出者の意向を十分に聴取し、トイレを利用する他の従業員への影響、第三者および施設所有者の理解、施設の規模・構造等、各企業の具体的事情を考慮して、柔軟かつ現実的な対応が求められる。

【労働法制本部】