Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年7月16日 No.3461  コロナ危機を通じて再構成すべき国家データ戦略 -宮田慶應義塾大学教授から聴く/イノベーション委員会

宮田教授

経団連は6月29日、イノベーション委員会(山西健一郎委員長、畑中好彦委員長、田中孝司委員長)をオンラインで開催し、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授から、「コロナ危機を通じて再構成すべき国家データ戦略」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ コロナを契機としたDXの推進

われわれは新型コロナウイルス感染症拡大とDX(デジタルトランスフォーメーション)という100年に一度の2つの大波が重なる時代の転換期にいる。

DXの本質は単にデジタル技術を導入することではなく、一人ひとりの体験価値をデータでとらえ、個別価値の最大化を実現することにある。AIやビッグデータ分析によって、社会におけるマイノリティーの体験価値も極めて低いコストで把握できる。これに伴い、最大多数の最大幸福というサービスから、すべての人を包摂した個別エンパワーメントへと国や企業のサービスも大きな変貌を遂げるはずである。

新型コロナに対しても、さまざまなデータを多角的にみることで、感染防止対策を打ち出すことが重要である。地域や職業別の感染状況が異なることから、働き方や過ごし方に応じたリスク対策を効果的に行うことも必要である。データに基づいて対策を継続的に行うことで、経済を大きく犠牲にする対策を今後は回避できる可能性もある。

■ パーソナルデータをつなぐ医療DX

一人ひとりが自分らしく生き、自然に健康を維持できる社会を実現するには、パーソナルデータをつなぐことが必要である。国民一人ひとりが医療データを提供することで、医療アプリやデバイス等の新しいサービスを国民全体で享受できるようになる。

一方、EUの一般データ保護規則(GDPR)で定められたように個人の権利保護を強めすぎるとデータは使いにくく、中国のように国家の合理性のみを追求することは民主主義国家には適合しない。データを所有財として扱う議論の延長線上に答えはないと考えており、データを共有財としてとらえる「ギブアンドシェア」の精神に基づいて、データを利活用することが必要である。

また、国内外のパーソナルデータをつなぐための国際的なルール形成に関して、日本発のコンセプトであるDFFT(信頼ある自由なデータ流通)の推進によって、データを共有財として扱えるデータ共有権を保障できれば世界にとってのレガシーになるだろう。

■ SDGs達成後の次世代の社会

新型コロナによって世界がつながっていることを再認識した。各国の感染防止対策や一人ひとりの生活行動が、国内外の感染状況に影響し合っている。今後は、経済合理性と健康による幸せのバランスをとることで、持続可能な共有価値(Sustainable shared value)を国家単位でなく世界全体で追求することが必要である。命を捨てないSDGs(持続可能な開発目標)のコンセプトを超えて、世界とのつながりのなかで命の輝きを実現する“Human Co-beingの時代”である。

今、多くの企業や国家がデータ戦略で大転換を図っている。日本がいち早くデータ戦略を実行して、次世代の社会を実現できれば、日本は世界をリードする国になれるだろう。

【産業技術本部】