Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年7月30日 No.3463  解雇無効時の金銭救済制度について聴く -東京大学大学院の荒木教授から/労働法規委員会

経団連は7月8日、労働法規委員会(冨田哲郎委員長)をオンラインで開催し、東京大学大学院の荒木尚志教授から「解雇無効時の金銭救済制度」をテーマに説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 国際的な視点と日本における法規制

欧州諸国では、差別的解雇など法律上禁止された解雇は無効・復職となるが、正当事由を欠く解雇(不当解雇)の救済は、復職または金銭解決が法律上用意されているのが一般的であり、実務上は金銭解決が原則化している。一方、日本では、不当解雇は解雇権濫用として無効とされ、労働者が復職することになる。当事者が和解で金銭解決することは従来認められており、2006年以降は労働審判で解雇の金銭解決は正面から認められた。しかし、諸外国と異なり、通常訴訟で、不当解雇について使用者に金銭支払いを命じ、雇用関係解消を認める判決を下す仕組みはいまだ存在せず、これが議論となっている。

■ 制度検討の経緯

金銭解決は過去3回、検討されてきた。(1)03年の検討では、解雇無効の判決確定後に金銭解決を認める仕組みのため、裁判に長期間を要する難点が指摘された。(2)05年の検討では、一回的な解決が模索されたが、訴訟法上の難点があった。(3)15年から始まった今回の検討では、実体法に労働者が契約解消金の支払いを請求できる権利を置き、解消金を受領した場合に雇用関係が解消される仕組みが検討されている。なお、使用者申立てによる金銭解決制度については、現状では課題が多いとの見解が示され、現在に至っている。

■ 主な論点

17年の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」報告書を受け、18年から有識者による「法技術的論点検討会」での検討が続けられている。同検討会では、対象となる解雇、制度利用を裁判外でも認めるか否か、労働契約解消金とバックペイや不法行為の損害賠償との関係をどう整理するかなど、多岐にわたる事項について専門的な議論が行われている。労働契約解消金の金額算定については、労働者が金銭解決にどのようなメリットがあるかを理解したうえで、利用の是非を判断できるよう予見可能性の高い仕組みとすることが重要である。しかしこの点も、労働契約解消金の法的性質をどう解するかが関係してくるため、精密な理論的整理のための議論が続けられている。

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質疑応答の後、働き方改革の推進を柱とする労働法規委員会の20年度活動が審議され、原案のとおり承認された。

【労働法制本部】