Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年9月3日 No.3466  タイにおけるコロナ禍でのサプライチェーンの現状と課題 -労働法規委員会国際労働部会

経団連は7月31日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)を開催し、埼玉大学大学院人文社会科学研究科の遠藤環准教授から、「コロナ禍におけるバリューチェーンと労働の再編」をテーマに説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ タイにおけるコロナ禍の現状と対応

7月27日現在、タイの新型コロナウイルス感染者は3296人、死者数は58人となっており、バンコクおよびバンコクメガリージョン(周辺11県)に集中している。政府は5月末から市中感染がゼロになっているため、徐々に規制を緩和し、感染症と経済の両立を目指している。コロナショックが従来の危機と異なる点は、グローバル化時代における「コネクティビティー」と「モビリティー」の高まりによって、供給ショックと需要ショックとが長期化する複合危機となっていることである。

■ コロナ禍のマクロ経済・雇用への影響

タイ中央銀行は2020年のGDP成長率を前年比マイナス8.1%と予測している。観光業界や自動車業界へのダメージが大きい。失業手当の申請(自営業者を除く)は4月12日時点で120万人となり、加入者1100万人の約1割にも達している。タイ工業連盟会長は年末までに800万人の失業者が出ると懸念する。

■ 2020年代のタイ経済をみる視点

アジアでは国境をまたいだバリューチェーンの構築が進んでおり、タイはこのネットワークの分岐点であり集積地である。コロナ禍の中期的・長期的影響はコロナ禍以前から進んでいる産業構造の変化(バリューチェーンの再編)、デジタル化の進展や少子高齢化の実態などを理解したうえで考える必要がある。

■ グローバル・バリューチェーンの再編

従来のタイへの投資の主役は日本だった。しかし19年には中国が投資額でトップに躍り出た。新興国の企業主導による新たなグローバル・サプライチェーンが形成されつつあり、日本としては新たな投資機会ととらえて積極的に連携すべきである。

これからは「リスク対応型」のグローバル・バリューチェーンの構築が求められる。取引先の多角化や、臨機応変なリスク対応と継続的な信頼関係をいかに両立させていくかが、今後の課題である。また、グローバル・バリューチェーンに参加することで経済発展をしてきた新興国は、取引の急な停止や非対称なガバナンス構造における労働の脆弱性といったリスクを再認識している。投資国、新興国ともに「ビジネスと人権」といった新しい議論も考慮する必要がある。

◇◇◇

意見交換では遠藤氏から、「脱中国後」のタイのポジションについて、タイ政府はこれをビジネスチャンスととらえており、カンボジア、ラオスへの拠点としても有用であることをアピールしているとの説明があった。

【労働法制本部】