Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年9月10日 No.3467  第119回経団連労働法フォーラム -報告Ⅱ「労働契約の解消に関する労務管理上の留意点」/弁護士 梅木佳則氏(安西法律事務所)

梅木弁護士

経団連および経団連事業サービスは7月28、29の両日、経営法曹会議の協賛により「第119回経団連労働法フォーラム」をオンラインで開催した。(8月6日9月3日号既報)2日目は「労働契約の解消に関する労務管理上の留意点」について、関連する法律や裁判例をもとに企業実務上の対応策を経営法曹会議所属弁護士が報告した。概要は次のとおり。

■ 新型コロナウイルス感染症にかかわる労働契約の解消

整理解雇の代表的な判例である日立メディコ事件は、終身雇用の期待がある正社員と有期雇用労働者の間には合理的な差異があるとした。しかし、同一労働同一賃金の法制化によって、いまや正社員と短時間・有期雇用労働者との待遇格差は、単に「将来の役割期待が違うから」といった抽象的な理由だけでは認められない。このため、判例のような整理がいまなお有効かは疑問である。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、経営にマイナスの影響が及ぶ企業もあるだろう。このとき短時間・有期雇用労働者について整理解雇を実施する場合であっても、解雇対象者の人選の合理性を十分に検証し、可能な限り解雇回避努力を尽くしたうえで、人員削減の必要性を説明するべきである。

■ 能力不足労働者

能力不足労働者への対応はケースごとに分けて考えなければならない。即戦力として雇い入れた中途採用者の場合は、使用者の人事裁量権が契約上大幅に制約されることから、雇用維持義務が大きく後退する。採用時に会社が求めるものを明確に示し本人と合意しておくことが重要である。

他方、年功型を前提とした雇用で、企業の期待に反して成長しないという場合には、配転、出向等の解雇回避努力を尽くさなければならない。解雇を行う場合でも、退職勧奨を行い、十分な解雇予告期間を経て実施すべきである。なお、いずれの場合でも企業がどのような注意・指導を行い、労働者がどのように反応したか記録しておくことが肝要である。

■ 休職期間と解雇

休職制度(病気休職)は長期雇用を前提にした日本型雇用に特有の制度である。近年では精神疾患等も増えており、休職、解雇にあたっては判断が難しいケースもある。判例によれば、産業医・専門医へ診断を仰ぎ、そのうえで病気が治癒すれば就労が可能であるという場合について休職期間を設けることが考えられる。他方、例えば日ごろから問題行動がみられる社員について、病気とその問題行動に因果が認められず治療との関係も定かでない場合、休職期間なく普通解雇することも考えられる。

■ 60歳以降の有期雇用労働者の雇止め

高年齢者雇用安定法によって、企業には雇用確保措置を講じることが義務付けられているにすぎず、65歳までの雇用を保障するものではない。60歳以降の再雇用労働者であっても通常の有期雇用労働者と性格を一にする。したがって雇止め自体は可能であるが、慎重な対応が求められることに変わりはない。

■ 職種勤務地限定労働者の整理解雇

ユナイテッド・エアーラインズ・インク事件や、東洋水産川崎工場事件(仮処分事件)といった裁判例に鑑み、勤務地限定労働者であっても解雇回避努力を怠ることなく、労働者の能力を踏まえつつ配転、出向等の提案を十分に尽くすべきである。

<質疑応答・討論>

質疑応答・討論では、「休職期間中に行方不明となった社員を自動退職としてよいか」「希望退職の際に競業企業への転職を禁止できるか」「休職制度を悪用する社員に対応するため就業規則を変更した場合、不利益変更となるか」等、実務に基づいた質問が多数あり、各弁護士が見解を示した。

【労働法制本部】