Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年10月29日 No.3473  教育格差の現状と今後の政策 -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は10月13日、教育・大学改革推進委員会企画部会(宮田一雄部会長)をオンラインで開催し、早稲田大学の松岡亮二准教授に、著書『教育格差―階層・地域・学歴』に基づいた教育格差の現状と今後の政策について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 教育格差の現状

「教育格差」は、出身家庭の社会経済的地位(Socioeconomic status、SES)、出身地域、性別など本人には変えることができない初期条件である「生まれ」によって学力や最終学歴などの教育成果に差がある状態を指す。戦後の日本には常に教育格差が存在しており、新しい事象ではない。例えば、すべての年齢層・性別で、父親の学歴によって大卒割合が異なる。個人の見聞に基づく「実感」とデータが示す社会全体の「実態」との間で乖離があるのであれば、それは、小学校から「生まれ」によって緩やかに学校間・地域間で隔離され育ったことによって「ふつう」の基準が異なるからだろう。

教育段階別にみると、幼児教育からすでに格差は存在する。大卒の親の子どもは、幼稚園に通い、習い事を始める時期が早い傾向にある。小中学校でも個人間・学校間でさまざまな格差がある。例えば、小学校の時点で親の学歴によって学力に差がみられる。また、98%の児童が通う公立校でも大学進学を明確に意識している児童が在籍する割合は学校間で大きく異なる。出身家庭のSESと学力の関連が残ったまま高校受験という選抜が行われるので、進学校には社会経済的に恵まれた家庭の子どもが多く集まることになる。そのような高校では大学進学を目指して入学早々に予備校通いを始める生徒が多い一方、社会経済的に恵まれない子どもの割合が高い入学難易度の低い高校では勉強しないことが「ふつう」であり、中退も特別なことではない。

OECDの国際学力調査によると、どの国も社会経済的に恵まれない生徒が高学力になる割合が低いという教育格差が存在する。日本は特別ではなく、OECD諸国の平均とあまり変わらない凡庸な教育格差社会である。

■ 今後の政策

教育格差について建設的な議論をするうえで、分析可能なデータが少ないことが課題である。すべての政策は、データで把握された現状に基づいて提案されるべきだし、効果も実証すべきだ。そのためには、政策と実践に意味のある研究知見を提供できる調査を継続的に実施することが求められる。また、教職課程で現在ほとんど教えられていない「教育格差」を必修化する必要がある。教職を志す学生がデータと研究知見に基づいて自らの「生まれ」を自覚することで、どのような「生まれ」の子どもにも寄り添えるようになることが期待される。

【SDGs本部】