Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月5日 No.3474  宇宙産業の振興に向けた経産省の取り組みについて聴く -宇宙開発利用推進委員会企画部会・宇宙利用部会

経団連は10月15日、東京・大手町の経団連会館で宇宙開発利用推進委員会の企画部会(原芳久部会長)と宇宙利用部会(田熊範孝部会長)の合同会合を開催し、経済産業省製造産業局の是永基樹宇宙産業室長から、宇宙産業の振興に向けた同省の取り組みについて説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 宇宙産業振興の方向性

新たな宇宙基本計画(2020年6月閣議決定)が「経済成長とイノベーションの実現」と「産業・科学技術基盤の強化」を掲げた背景には、宇宙産業の情勢の変化がある。宇宙機器産業では、衛星の小型化・多数化やロケットの低コスト化が進んでいる。また、宇宙利用産業では、衛星データの質と量が急速に拡大しており、AI(人工知能)を活用した新たなビジネスが生まれている。

世界の宇宙関連市場の規模は、現在の40兆円から2040年代には200兆円に成長すると予測されている。わが国の宇宙産業の市場規模は1.2兆円であり、宇宙基本計画では30年代早期までに倍増する目標を掲げた。政府は宇宙基本計画に基づいて、宇宙産業の振興に取り組んでいる。宇宙機器産業は政府の需要に依存してきたが、民間の新しい需要の創出を図る。宇宙利用産業については、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を開発した。多様な産業において地上データと共に衛星データが活用されることを期待している。

21年度の宇宙関連予算の概算要求では、政府全体で前年度比約50%増の5440億円、経産省は約35%増の236.5億円を要求している。予算を効率的・効果的に活用して、宇宙産業の市場を創出したい。

■ 異業種との協創と海外展開、アジアDXによる成長

宇宙産業と直接関係がない業種も潜在的な宇宙ビジネス事業者であり、技術を展開することで、相乗効果による成長につながると期待される。宇宙ビジネスを新たな分野と結びつけ、地上の経済社会の課題の解決を図っていく。

政府だけでなく、幅広い産業が衛星データの利活用に取り組むことにより、宇宙は「Society 5.0」の実現に貢献する分野となる。今後、世界の巨大IT企業が、衛星の運用やクラウドを利用した衛星データ提供サービスを通じて、宇宙分野においても存在感を高めていくことが見込まれる。

経済安全保障に留意しながら、規模と成長率のいずれにおいても大きな海外市場を獲得する活動を支援したい。特に国連が掲げている持続可能な開発目標(SDGs)への貢献や、アジアとの新産業共創「アジアDX(デジタルトランスフォーメーション)」が重要となっている。

■ リスクマネー供給と環境整備

経産省は内閣府と連携して、新たな宇宙ビジネスを推進するために、スタートアップ前の段階から宇宙ベンチャーへの支援策を実施している。リスクマネーの供給を拡大するため、スタートアップと投資家のマッチングを円滑化させる専用サイト「S-Matching」を立ち上げ、専門人材供給のためのプラットフォーム「S-Expert」と連携させている。

15年以降、政府系金融機関等によるリスクマネー供給を通じて、宇宙ベンチャーの資金調達額は急増してきた。しかし、今年はコロナ禍により市場心理が冷え込み、急落する見込みである。一方、世界では宇宙市場の成長が見込まれ、宇宙ベンチャーへの投資の勢いが衰えていない。宇宙ベンチャーのスタートアップが転換期を迎えているなかで、大企業にはオープンイノベーション活動の一環としてもこれまで以上に連携を深めてほしい。

【産業政策本部】