Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月19日 No.3476  社会資本整備・交通政策のあり方について聴く -都市・住宅政策委員会

経団連は11月5日、都市・住宅政策委員会(菰田正信委員長、根岸修史委員長、常陰均委員長)をオンラインで開催。政策研究大学院大学の金本良嗣客員教授から、都市経済学で考える今後の社会資本整備・交通政策のあり方について説明を聴くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ 集積と分散の歴史

今後のインフラ整備のあり方を検討するにあたっては、都市における集積と分散を考える必要がある。

まず、都市圏内(都心と郊外)における集積と分散に着目すると、多くの地方都市において、ここ50年という長期で中心市街地の衰退が進行。2000年ごろから中心市街地活性化のための施策が打ち出されてきたものの、大きな成果はみられない。最近は都市のコンパクト化に向けた施策が展開されているが、郊外の住宅開発は依然として続いている。

また、都市間における集積と分散については、1962年に「地域間の均衡ある発展」というスローガンが打ち出されて以来、東京一極集中への対策が取られてきたにもかかわらず、東京への人口集中は続いてきた。

ICT技術の進歩が分散化をもたらすという期待もあったが、実際には都心の密度は高まってきた。その原因は、ICTで伝えられる情報にはあまり価値がない一方で、対面でなければ得られない情報は価値が高いということがある。ただし、ビデオ会議ツールの普及・発達の動向などを踏まえると、今後もこの傾向が続くかはわからない。

■ 集積の経済学

都市集積がどのようなメカニズムで発生するかについては、1970年代後半から都市経済学で研究されてきた。具体的には、企業同士が近接することで取引コストが低減することなどが集積の要因として考えられている。集積の大きさは、集積の経済(企業間取引費用の低減等)と不経済(通勤費用の増加等)のバランスで決まる。

集積の経済が発生する状況では、市場メカニズムが完全には機能しないので、政策介入の余地がある。ただし、集積が過大となる要因も過小となる要因もあり、トータルでどちらに傾いているかはわかっていない。

■ 今後の社会資本整備のあり方

インフラは30年、50年と持つものであるから、不確実性と向き合いながら、将来を見越した投資戦略を立てなければならない。特に昨今、新型コロナウイルスの感染拡大による働き方・ライフスタイルの変容や、自動運転の普及など、大きな不確実性に直面しており、わからないことを前提に最善を尽くすことが求められる。

その際、30年後、50年後だけをみるのではなく、そこに至るプロセスも考慮しなければならない。予想が外れたときに何が起こるかを考えて、それでも転ばないような選択をしていく必要がある。

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意見交換では、委員から、自然災害や感染症などのリスクへの対策として東京からの分散が有効ではないかとの発言があった。これに対し金本氏は、地方分散によるリスク対策については、大規模地震の発生確率などに基づき、どれだけのメリットがあるのかを検討すべきだが、なかなかできていないと答えた。

【産業政策本部】