Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年12月3日 No.3478  バイデン政権のエネルギー温暖化政策<上> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

11月の米大統領選挙において予想を上回る大接戦の末、ジョー・バイデン氏が勝利宣言を行った。これに対してドナルド・トランプ氏は郵便投票に絡む選挙不正を理由に複数の訴訟を提起しており、いつ決着がつくのか見通しにくい状況だ。現時点でバイデン政権成立が100%固まっていないのだが、本稿ではそれを前提に、バイデン政権における米国のエネルギー温暖化政策について考えてみたい。

大統領選に先立つ10月27日、21世紀政策研究所は、米国の温暖化政策に関して深い知見を有するシンクタンクC2ES(Centre for Climate and Energy Solutions)のエリオット・ディリンジャー氏を招き、意見交換を行った。以下、彼の主な所見を紹介する。

米国人の温暖化に対する考え方は4年前と大きく変わってきている。温暖化に対して脅威を感じている人がこの5年間で41%から55%に増加し、今や70%以上の米国民が温暖化について現実に進行していると考えている。さまざまな温暖化政策への支持度合いをみると、再エネ研究開発への資金提供が86%、ソーラーパネルや省エネ車への減税措置が82%と高いが、CO2規制(75%)、化石燃料企業への炭素税賦課(68%)も半数以上の支持がある。米国民の関心が高い分野として、温暖化(12%)は経済(21%)、新型コロナウイルス(13%)に次いで第3位となった。

多くの大企業がカーボンニュートラル目標を掲げ、エコノミーワイドのカーボンプライスや炭素税を支持する企業も増えてきた。地方レベルでは24州とプエルトリコがUS Climate Allianceに参加し、パリ協定の目標を支持している。カリフォルニアなど9州は2045~50年のカーボンニュートラル目標を掲げた。

下院の過半数を民主党が奪還したことに伴い、グリーンニューディールや50年ネットゼロエミッションを目指した下院気候危機特別委員会報告書の採択等の動きも生じている。

こうした状況変化を踏まえ、バイデン氏は大統領選において温暖化を大きな柱として位置付けた。世論調査によれば、さまざまな政策課題(経済、外交、新型コロナ、人種対立等)のなかで温暖化はバイデン氏がトランプ氏に最も大差をつけて信頼されている分野だという。

彼の選挙公約には、最後まで候補指名を争ったサンダース氏をはじめとするプログレッシブの党内支持を取り付けるため、(1)遅くとも50年にはエコノミーワイドのネットゼロエミッションを達成(2)明確で法的拘束力のあるエコノミーワイドの排出削減のための措置の導入(3)再エネ、原子力、水力、CCUSを動員し、35年までに電力をカーボンフリー化(4)低所得者やマイノリティーを支援するための対策(環境正義)を導入――等の野心的な項目が盛り込まれた。

化石燃料については、サンダース氏が主張していた輸出停止、フラッキングの全面禁止等は盛り込まず、(5)世界に化石燃料補助金停止を働きかけ(6)連邦所有地においては石油・ガス採掘権のリース、フラッキングを停止(7)私有地においてはフラッキングの継続を容認――等、硬軟織り交ぜた方針を打ち出した。

(以下、次号

【21世紀政策研究所】

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