Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年1月27日 No.3530  経団連フォーラム21拡大講座 -十倉経団連会長、海部東大教授が講演

経団連事業サービス(十倉雅和会長)は12月22日、東京・大手町の経団連会館で、次代を担う経営リーダーの育成を目的とする「経団連フォーラム21」の2021年度拡大講座を開催した。同フォーラムおよびミドルマネージャー対象の「経団連グリーンフォーラム」の今期メンバー、ならびにそれぞれの修了生総計126名がオンラインを含め参加した。前半は、十倉雅和経団連会長・住友化学会長が、住友化学および経団連での経験などについて、また、後半は、東京大学総合研究博物館の海部陽介教授が、3万数千年前の初期日本列島人の大航海再現プロジェクトについて、それぞれ講演した。概要は次のとおり。

■ 社会性の視座を持ったサステイナブルな資本主義(十倉会長)

十倉会長

私は1974年、住友化学に入社した。最初に配属された査業部では、「予算権を握っているからといって偉いのではない。決しておごってはいけない」と上司から諭され、謙虚な姿勢が大切だと知った。30代では、組織改革のプロジェクト責任者を任された。「若者に大きな仕事を与えて、責任は自分がとる」と言ってくれた上司から、指揮官の振る舞い方を学んだ。40代では、ベルギーに駐在し、多様性を尊重しながら相互理解に努めることの重要性を知った。その後、情報電子化学部門長時代には韓国での合弁会社の経営などに携わった。

2011年に社長、19年に会長に就任した。リーダーになる前の心構えとして必要なのは、「リーダーには一人ではなれない」(小林陽太郎経済同友会元代表幹事)、「誠実、謙虚、私欲を持たないこと」(権五鉉サムスン電子元会長)である。また、リーダーになった後には、「悲観は感情より出で、楽観は意志により生ず」との格言にもあるとおり、どんなときにも強い意志をもって楽観的な姿勢でいることを心がけてきた。

21年6月、経団連会長への就任時に、3つの課題に対する認識について申し上げた。

第1は、社会性の視座(From the Social Point of View)である。1980年代からの世界的に行き過ぎた資本主義、市場原理主義の潮流によって、格差が拡大、固定化し、再生産されている。また、生態系の崩壊が進み、気候変動や新興感染症の問題が憂慮される。今は行き過ぎた資本主義を見直さなければならないときである。その方向性は、市場経済のなかに社会性の視座を入れ、個人の幸福追求の自由と経済的平等を最大限両立させる「サステイナブルな資本主義」を確立することにほかならない。換言すれば、人間の営みを考慮し、公正さを確保した資本主義を築くことである。

第2は、マルチラテラリズム(多国間主義)による国際経済秩序の再構築である。世界では、一国では解決できない課題として、核戦争、生態系の崩壊、デジタル技術やバイオゲノムなどの破壊的技術の問題が起きている。これらを解決するには、価値観を共有する国・地域との連携強化が不可欠である。

第3は、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進である。日本経済が低成長に陥って久しいが、これらは日本が再び成長するための最後で最大のチャンスとなり得る。DXは、Society 5.0が目指す誰一人取り残さないオールインクルーシブな社会の実現に不可欠なツールとして、取り組みを強化していく必要がある。また、GXへの対応は、個人、企業、社会全体に行動変容を促すものでなければならない。行動変容によって、産業構造の転換を起こすとともに、成長産業への円滑な労働移動ならびにそれを促すリスキリング等のための環境を整備する必要がある。

最後に、私の好きな言葉に「義」がある。自分の行っていることが正義、大義、信義に反していないか、世の中の役に立っているか、常に自問自答している。企業も社会の一員であると自覚して、社会性の視座をもって行動することが重要である。

■ 3万年前の航海徹底再現プロジェクト(海部氏)

ホモ・サピエンスは、後期旧石器時代(約5万~1万年前)にアフリカから5つの大陸に拡散し、3万数千年前には海を越えて日本列島に到達したことが明らかになっている。日本列島への渡来、なかでも大陸から琉球列島に渡るには世界最大規模の海流である黒潮を越えなくてはならない。旧石器人が極めて難易度の高い航海を当時の技術でいかに成し遂げたのかを解明するため、私は2013年に前職の国立科学博物館で同プロジェクトを立ち上げた。学術的根拠に基づき、使われた可能性のある草束舟など、当時の舟を数種類復元して実際に航海し、祖先による海への挑戦を再現した。失敗を繰り返したが、プロジェクト開始から6年を経た19年7月、5人の男女が丸木舟で台湾を出航し、2昼夜、距離にして225キロメートルこぎ続け、ついに与那国島に到達し、プロジェクトは完結した。

同プロジェクトには、総勢60名の科学者、探検家、運営スタッフが参加した。また、クラウドファンディングによって市民からも協力を得た。研究者による謎解きのプロセスや、そのなかで直面した課題を市民とも共有し、関係者以外の声も収集しながらプロジェクトを進めた。こうしたオープンな運営が奏功し、国内外から注目を浴びたのだと認識している。

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