Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年3月17日 No.3537  Society 5.0時代のヘルスケアⅢ〈6〉 -各論~治験

経団連は1月18日、提言「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ~オンラインの活用で広がるヘルスケアの選択肢」を公表した。同提言の内容について、具体的な取り組みも交えながら紹介する。第6回は、「治験」を取り上げる。

■ 社会的意義

オンライン診療やデジタルデバイスなどを活用し、被験者が医療機関に来院せず、自宅等にいながら必要な診療や評価・検査を実施できる治験(DCT、Decentralized Clinical Trial)が注目されている。DCTの普及によって、治験実施医療機関が自宅等の近くにない被験者や、仕事の都合や身体的な問題で定期的な通院が困難な被験者であっても、治験への参加を検討できるようになる。結果として、より短期間に治験に参加する被験者を集めることができ、開発期間が短縮されることで、社会が必要とする薬をより早く患者に届けることにつながる。従来型では参加者を集めることが困難で断念していた治験も実施できるようになる。

「治験」の目指す姿

■ 企業の取り組み~イーピーエスの事例

イーピーエスは、臨床試験業務を支援するリーディングカンパニーとして、これまで培ってきたデータサイエンスに関する専門性や豊富な経験・実績をもとに、DCTを推進する「Virtual Go」構想をスタートした。eConsent(Electronic Consent、電子的同意取得)、オンライン診療、DDC(Direct Data Capture、電子的な記録データの直接収集)、eCOA(Electronic Clinical Outcome Assessment、電子臨床アウトカム評価)、ウエアラブルデバイスの活用、治験薬配送、訪問看護、検体回収などさまざまなスキームにおいて、試験デザインや疾患領域に合わせてDCTを実施できる体制の構築を進めている。あわせて、トレーニングを含めた医療機関の受け入れ体制の構築支援にも力を入れる。同社臨床開発事業本部事業企画推進センター事業企画推進室の富樫宏一氏は、「“患者さまが医療機関に来院しなくてもよいバーチャル”と“モニターが医療機関へ訪問しなくてもよいバーチャル”を念頭に、DCTに関するあらゆるサービスをOne Stopで提供できる環境を整えていく」と意気込む。

イーピーエスのDCTの推進構想

■ 課題と提言

医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)において、治験は医療機関への来院が前提になっていると思われ、DCTの実施に関する記載がない。一例として、非対面および遠隔での本人確認や同意取得、治験依頼者等から被験者の自宅等への治験薬の直接配送など、DCTの手法に関する規制当局の見解が明文化されていない。また、治験データの保存・管理などDCTを実施するために必要なITインフラの整備も十分ではない。世界でDCTの普及が進むなか、わが国で普及が進まない状況が続けば、将来的に国際共同治験参入の障壁になり、新薬の承認申請が他国と比べて遅れてしまうリスクもある。

非対面および遠隔での本人確認と同意取得の容認や、治験薬保管施設(デポ)から被験者宅等への治験薬直接配送の容認、訪問看護の担い手の確保など、わが国のDCT普及に必要な環境整備を求める。

【産業技術本部】


Society 5.0時代のヘルスケアⅢ(全7回)
〈1〉各論~健康管理・増進
〈2〉各論~診療
〈3〉各論~調剤・服薬指導
〈4〉各論~手術
〈5〉各論~介護
〈6〉各論~治験
〈7〉各論~基盤