Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年4月7日 No.3540  第32回「経団連 Power Up カレッジ」 -「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。」/ユーグレナの出雲社長が講演

経団連事業サービス(十倉雅和会長)は3月17日、第32回「経団連 Power Up カレッジ」を開催した。オンラインを含めて99名が参加するなか、ユーグレナの出雲充社長が講演した。概要は次のとおり。

■ 微細藻類ユーグレナとの出会い

大学1年生のとき、初めての海外渡航でバングラデシュを訪問し、ムハマド・ユヌス博士が設立したグラミン銀行のインターンに参加した。バングラデシュは最貧国の一つで、1人当たり国民所得は年4万円にも満たない。グラミン銀行は小規模農家に約3万円を貸し付け、これをもとに農家はヤギを飼って乳業などを営み、現金収入を得る。このようなかたちでグラミン銀行は小規模農家の生活を支援していた。ビジネスを通じて社会課題を解決する姿に感銘を受け、将来の起業を心に決めた。

バングラデシュでは、コメによって炭水化物の摂取は十分にできているが、ビタミンやタンパク質が足りず、栄養失調の国民が少なくない。この社会課題の解決策を自問し続けて見つけた答えが微細藻類のユーグレナ(和名ミドリムシ)だった。ユーグレナはタンパク質のみならず、人間に必要な59の栄養素をバランス良く含んでいる。ユーグレナの培養技術の開発は困難を極めたが、2005年に世界で初めて食用屋外大量培養に成功した。これをもとに、今ではバングラデシュの小学校にユーグレナ入りのクッキーを1日1万食提供している。

■ イノベーション創出に必要なこと

05年に友人らと共に「株式会社ユーグレナ」を設立し、さまざまな企業に営業に回った。「ミドリムシなんて聞いたことがない。販売実績はあるのか。他社が採用したら来てくれないか」などと言われ、500社に門前払いされた。08年、501社目のときに「当社はほかの企業がまだ目をつけていない、新しいものを探している」と伊藤忠商事との契約が決まった。伊藤忠商事との実績ができると、数多くの販売パートナーが生まれ、12年には東証マザーズ、14年には東証一部に上場することができた。

日本では欧米に比べてイノベーションが生まれにくいといわれている。ベンチャー企業から新たな提案を受けた際には、「聞いたことがない」「リスクがある」「ウチには関係ない」などと言わずに、「聞いたことがないからこそ面白そうだ」と思って、イノベーションの創出を支援してほしい。

イノベーションは、科学技術と試行回数の掛け算によって生まれる。1回目の試行の成功率が1%とすると、計算上、459回目の成功率は99%になる。イノベーション創出には繰り返す努力が不可欠である。その努力を続けるために、尊敬する先生や先輩などの「メンター」と、夢を諦めかけたときに思い出すために手元に置いておく品物「アンカー(恩師からの手紙など)」が必要である。

■ ミレニアル・Z世代への応援

スマートフォンなどのデジタル機器を駆使し、SNSなどでコミュニケーションを行うことに長けた、ミレニアル世代(1980年代以降に生まれ、2000年ごろに成人した世代)とZ世代(1990年代後半~2000年代前半ごろに生まれた世代)が、25年には日本の生産年齢人口の過半を占めることになる。これらの世代の世界観や人生観はそれ以前の世代とは異なっており、会社経営においても彼らの考え方を取り入れることが重要になっている。会社が未来においても存在し続けるために、その未来の当事者が会社の議論に参加しないのはバランスを欠く。当社では、18歳以下の「Chief Future Officer(最高未来責任者)」を設け、多数の応募者のなかから若者を選任し、その意見を経営に活かしている。

ベンチャー企業同様、皆さまには未来をつくる若者を応援してほしい。有望な若者のメンターになり、若者が努力し続けられるようにアンカーを渡してもらえるとありがたい。

【経団連事業サービス】

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