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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年6月16日 No.3548 ポストコロナ時代の労働時間法制のあり方 -労働法規委員会

川田氏

経団連は5月20日、労働法規委員会(冨田哲郎委員長、芳井敬一委員長)を開催した。筑波大学法科大学院ビジネスサイエンス系の川田琢之教授から、ポストコロナ時代の労働時間法制のあり方について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 労働時間法制の大まかな潮流

労働時間法制は、1980年代以降、大きく「労働時間の短縮」と「労働時間規制の柔軟化」について整備を進めてきた。背景には、労働時間法制に求められる役割の多様化があり、伝統的な労働者の健康・余暇の確保等の目的に加え、近年ではワーク・ライフ・バランスの実現や就労困難な労働者の就労促進という観点も重視されている。長時間労働の抑制や、柔軟な働き方の促進により、例えば育児・介護等の事情を抱えた者の活躍の場が広がるであろう。また、特に働き方の柔軟化は、ITツールの活用等により、ポストコロナの社会全体で一層加速するとみられる。

■ 裁量労働制の将来像

柔軟な働き方を可能とする制度の一つに裁量労働制がある。専門業務型と企画業務型の2類型があり、常態として企画・立案・調査および分析を行うことが職務要件とされている企画業務型は、適用者が極めて少ない。この点については、職務要件と企業で働く労働者の業務内容との齟齬が大きいことが一因と考えられる。現在、裁量労働制に関する実態調査を行ったうえ、有識者による検討会で制度のあり方について議論を重ねており、次の4点が課題となっている。

  1. (1)濫用的な制度利用の防止=大部分の導入企業では労使双方に有用である一方、一部企業では制度趣旨に反した運用がなされ、適用労働者の満足度が低いケースがあり、その対応が必要である。

  2. (2)制度の整合性の確保=働き方の自由度を高める種々の制度は必ずしも相互に整合性が取れていない。例えば前述の2類型には、実施手続きや対象業務、対象労働者等について相違があるが、働き方の自由度を高めるという共通の目的を考えると、極力共通の制度とすべきである。

  3. (3)制度適用における本人の意思や状況の考慮=すでに企画業務型の導入要件である本人同意の専門業務型への適用や、問題がある場合に労働者申し出による適用除外を認めることの要件化等が一考に値する。

  4. (4)制度導入後の運用状況の適切な把握=労働者個人の申し出を端緒とする苦情処理窓口だけでなく、労使委員会等による主体的な把握・改善といった実効性の向上が必要である。

■ 従業員代表制の課題

裁量労働制に限らず、職場の苦情等については、常設性のある労使の機関が、あらゆるテーマを包括的に議論すべきである。しかし現状、多くの制度で導入要件とされる労使協定は、過半数組合あるいは過半数代表者の関与が、協定を結ぶその時点にとどまる。また企画業務型裁量労働制等の一部制度の要件である労使委員会も、議論の対象が決まったテーマのみで包括性に乏しいケースがあるなど、運用実態は各社さまざまである。そのため、企業別労働組合の機能・役割を整理しつつ、常設性・包括性のある従業員代表制の法制化によって、労使の適切な話し合いに基づき、柔軟性の高い労働時間制度の導入・運用を可能とすることは、長期的課題として重要であろう。

【労働法制本部】

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