Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年10月6日 No.3561  共有特許の取り扱いに関するルールの整備状況 -知的財産委員会企画部会

2022年6月3日、政府の知的財産戦略本部は「知的財産推進計画2022」(※)を決定した。同計画には知財戦略の重点8施策の一つである「大学等における共同研究成果の活用促進」に関して、「共有特許の取扱いに関するルールの整備に向け、法改正を含め検討し、2022年内に結論を得る」旨、政府方針が盛り込まれている。同方針を踏まえ、大学と企業との共有特許について、企業が一定期間実施しない場合に、大学が第三者にライセンス(実施の許可)することを可能とする法改正が行われれば、産学連携の機運を損なうと懸念される。

そこで、経団連は9月7日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(長澤健一部会長)を開催し、内閣府知的財産戦略推進事務局の池谷巌参事官から、共有特許の取り扱いルールの整備に向けた政府内の検討状況等について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。

■ 池谷参事官説明

世界各国が国家戦略として新型コロナウイルス後のデジタル・グリーン成長を進める一方、日本企業の知財・無形資産(注)への投資は低迷している。わが国でも、企業の知財・無形資産への投資を増大させる仕組みを構築する必要がある。

こうしたなか、社会全体のイノベーションの担い手であるスタートアップが、大学や大企業が保有する知財を十分に活用し、事業化につなげられるよう、政府は、スタートアップや大学を中心とする「知財エコシステム」構築などの環境整備に取り組んでいる。

なお、大学と企業の共同研究成果は両者の共有特許とされることが多いが、特許法により、大学が第三者にライセンスするには企業の同意が必要である。そこで、企業が一定期間不実施の場合、大学がスタートアップなどの第三者に特許権のライセンスを可能とするようなルールの整備を検討している。

■ 意見交換

「知的財産推進計画2022」における「法改正を含め検討」の記載について、池谷氏は、「必ずしも法改正ありきではない。大学の知財をスタートアップにおける事業化につなげるため、『大学知財ガバナンスガイドライン』(仮称)の策定を進めているが、このなかで、共有特許の取り扱いのルールを検討していく」と説明した。

一方、「大学が第三者に共有特許を自由にライセンスできることにより、隣国の企業に技術等が流出するなど、経済安全保障の観点から問題ではないか」との懸念に対し、池谷氏からは、「特定の国や企業への特許の流出を防ぐことは論点である」との見解を示した。

さらに、「法改正により、企業側の同意なく大学から第三者にライセンスできるようになると、大学との共同研究に対する企業のモチベーションを毀損するおそれがある」との意見に対し、池谷氏は、「共有特許の取り扱いルールは、共同研究の実情を踏まえて見直しの検討を進め、『大学知財ガバナンスガイドライン』(仮称)で結論を示したい」と述べた。

(注)特許権や著作権などの知的財産権から、技術やデータ、顧客ネットワークなど物理的形状を持たない無形資産まで幅広く含む

※ 知的財産推進計画2022
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/220603/siryou2.pdf

【産業技術本部】