アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


第62回NGO活動成果報告会

第62回NGO活動成果報告会

2009年7月13日開催

トキ野生復帰を支える棚田・里山維持管理システムの構築と地域環境教育

新潟大学農学部 フィールド科学教育研究センター
本間 航介 准教授

08年9月25日に10羽のトキが試験放鳥され、野生復帰に向けたひとつのターニングポイントを迎えた。地元にとっては高齢化や財源不足など難しい課題を抱えながらの未来永劫の取り組みの序幕といえる。KNCFには本プロジェクト開始当初からご支援いただき、09年で8年目となる。

野生復帰への動き

国内で循環型社会のモデルとなる地域をつくろうという動きの中で佐渡島が選定され、その目玉としてトキの野生復帰が行われることになった。日本産トキの絶滅により、中国産の固体をもとに繁殖できることがはっきりしてきた段階で、野生復帰という動きが環境省から「共生と循環のための地域社会モデル事業」として提案、実施された。02年のことである。国、新潟県、佐渡市と3重構造の行政に佐渡島の内外から20団体以上の環境NPOと教育機関が加わり、非常に複雑な形で野生復帰事業は進んでいる。

トキは水辺の小動物を餌とする生態系の頂点におり、トキを保護するためには生態系を保全しなければならない。トキが絶滅してからは生息地となる里山・棚田の環境劣化は著しく、02年から地元の基幹大学として地域のNPOをリードする形で大学の枠を超えて協力してきている。新潟大学が環境再生モデルとして取り組んでいる地域は新穂キセン城地区で、ここの里山、棚田にはトキの餌生物が続々と戻りつつあり、環境再生のノウハウがこの8年間でかなり蓄積されてきた。また、地域住民の知識向上、環境維持管理方法を浸透させていくため、テキストをつくりキャパシティビルディングを始めている。

放鳥後の状況と今後の展開

放鳥した10羽のうち、今佐渡島にいるのはオスのみ4羽で、メス3羽が本州(糸魚川市、黒部市、新潟市)で確認され、行方不明が2羽(オス、メス)、死亡1羽(メス)となっている。放鳥後1年経過して生存率が7割というのはトキが越冬できたことの証である。放たれたトキは専門家チームと地元チームでモニタリングしている。トキが拡散したのは、餌不足や環境条件とは別の理由、つまり放鳥手法やトキのメス移籍型社会構造(群れの中核に成熟オスと若鳥がいて、群れと群れの間をメスが移籍)という特性などが大きく影響しているものとみられる。

環境省の最終目標は2015年、60羽定着としているが、09年から新潟大学では人員や研究体制を拡充したので、100羽オーダーの固体を定着させられる質の高い自然をつくりたいと考えている。野生復帰事業は、佐渡島の産業構造や高齢化等の問題に深く関係しており、経済システム作りや人作りとともに中長期的には環境財団的組織を創る必要がある。

(写真提供:新潟大学農学部 フィールド科学教育研究センター)