アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


第67回NGO活動成果報告会

第67回NGO活動成果報告会

2009年12月15日開催

紀伊半島の野生イワナ個体群の保護、林床整備と
間伐材を活用した渓流河川の多様性の維持・回復

有限責任中間法人 水生生物保全研究会
紀平 大二郎 事務局長

日本のイワナ属は、北海道に固有のミヤベイワナ、オショロコマと本州を中心に生息するアメマス、ニッコウイワナ、ゴギ、キリクチ(ヤマトイワナ)が分布し、そのほとんどの種類が河川の最上流域に生息している。最上流域は栄養分に欠け、生きていく上で過酷な環境にある。

キリクチとは

キリクチは世界最南限に分布するイワナ個体群で、紀伊山地の奈良県吉野郡野迫川村・天川村(吉野熊野国立公園、水の郷百選)の渓流2水系にのみ生息している。キリクチという名の由来にみるように口が目の下にかけて切れ込んでおり、他のイワナと形態的にやや異なった特徴をもつ。250〜300mmの大きさにまで成長し、淵をなわばりとして小魚や陸生昆虫を捕食する。地域指定天然記念物(奈良県)、絶滅寸前種(奈良県版RD)、絶滅のおそれのある地域個体群(環境省RD)、Endangered(IUCN)に指定され、生息地における生態系保全のシンボル的な魚種としても注目されている。

キリクチの保護活動

キリクチの生息地周辺では、林業の衰退に伴う人工林の管理放棄や鹿の林床食害による山腹崩壊と河川への過剰な土砂の流入で、生息場所・繁殖場所となる淵の減少・消失が起き個体数が激減している。

そこで、経団連自然保護基金から3年間にわたる支援で、人工的に淵を造成し、河川環境の回復を図るための保護活動を実施してきた。人工淵は、間伐材をやぐら型に組んだものや、蛇カゴを用いたもの(巨礫を針金で固定したもの)など4種類の淵を28基造成した。2007年の夏に造成前と造成後の捕獲調査と秋季の繁殖調査を行った結果、淵を造成した場所は水表面積が増大し、造成前に比べてキリクチの推定個体数、産卵床数とも増加したことが分かった。

その後、大型台風が直撃したことにより造成した淵の約6割が流出・決壊したが、4種類の淵のうち、間伐材をやぐら型で造成した淵は流出せずに維持され、耐久性が高いことが分かり、この方式の淵に修繕・追加造成した。2009年からは河川を管理している野迫村役場が地域の雇用対策事業として、キリクチの保護を目的に流域の間伐に取り組むことになった。

一方、将来的な流域の保全管理を進めるために、鹿の防除ネットを設置して、河川の土砂流入の防止と広葉樹の植生回復にも展開している。

(写真提供:水生生物保全研究会)