Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  「科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会報告書(素案)」に対する意見

2011年12月14日
経団連産業技術委員会

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Ⅰ.はじめに(基本認識)

第4期科学技術基本計画において、これまでの「科学技術政策」を「科学技術イノベーション政策」へと転換させた意義は大きい。これを実効あるものとするためには、民間の知見の活用を進めるとともに、省庁や関係する諸機関(大学や研究開発独法を含む)を束ね、広範囲にわたる政策を、縦割りに陥ることなく一体的に推進するための体制を強化することが政府に求められる。

「科学技術イノベーション政策」の実効ある推進の成否は、総合科学技術会議に代わる「科学技術イノベーション戦略本部(以下、本部)」が、真の司令塔機能を果たせるかどうかにかかっている。

「本部」は、科学技術イノベーションを実現するための政策の企画立案を行うとともにこれを各省庁に効果的・効率的に実施させるための法的権限を持たなければならない。かかる権限なくして、省庁縦割りに伴う政策の部分最適化を排除し、全体最適を実現することはできない。

併せて、「本部」と「国家戦略会議」との連動性を高め、「科学技術イノベーション政策」を国家戦略の重要な柱の一つとして推進することも不可欠である。さらに、第4期科学技術基本計画で謳われている「科学技術イノベーション戦略協議会」の早期具体化や、事務局機能の強化等を図る必要もある。

以上の認識の下、われわれは新しい体制に向けた改革の具体的方策を次の通り提言する。

Ⅱ.新しい司令塔「科学技術イノベーション戦略本部」の具体像

(1)メンバー構成

本部長を内閣総理大臣、副本部長を科学技術イノベーション政策担当大臣・官房長官・国家戦略担当大臣とし、本部員として国会同意人事#1を前提に構成される有識者を置く。有識者については、「イノベーション政策」の重要性を考慮した上、産学のバランスのとれた人員構成とする。関係閣僚については、必要に応じて出席を求めるものとする。

内閣総理大臣に助言を行う「首席科学技術イノベーション顧問」については、「本部」の外に置き、中立的な立場から総理に直接アドバイスする存在とする。

有識者を本部員として位置付けることから、「首席科学技術イノベーション顧問」を議長、学会や産業界の有識者を議員とする「科学技術イノベーション諮問会議」の設置は不要である。また、各省ごとに置かれることが想定されている「科学技術イノベーション顧問」についても、置く意義や効果が不透明であり必要ない。よって「科学技術イノベーション顧問会議」も設置しない。

1 国会の本会議での同意を経て、内閣、内閣総理大臣または各省大臣が任命する人事。

(2)法的権限

「本部」には、「科学技術イノベーション政策」の重要事項に関する大方針を決定し、関係各省に同方針に沿った施策を履行させる法的権限を付与する。

具体的には、現行の総合科学技術会議が持つ「調査審議」等の権限を保持・強化した上、現在、文部科学省の設置法に書かれている「基本的な政策の企画立案や推進」、「基本計画の作成及び推進」、「関係行政機関の事務の調整」等の権限を、「本部」の設置法に移管する。併せて、「本部」で策定した基本政策を各省に着実に実施させるため、現行の「評価」の権限に加え、各省に対する「勧告」の権限も付与することで、さらなる権限強化を図る。

また、今次の基本計画において、従来の科学技術政策から「科学技術イノベーション政策」への転換が謳われたことに鑑み、知財、IT、人材育成等の関連政策との関係性を踏まえ、その所掌範囲を設置法上明確にする。なお、「司令塔」と関係本部の統合については、各本部においてこれまで策定してきた基本方針や計画#2等の実現が一層強力に推進されることを前提に検討を行う。

2 例えば、IT分野では、電子行政、医療、教育、ITS(高度道路交通システム)。

(3)予算配分への関与

「本部」には、「科学技術イノベーション政策」の実施にあたり必要となる予算について、各府省への配分比率の見直しや府省間の連携強化並びに重複排除を行うため、強い「総合調整」権限を付与する。

具体的活動として、現在、総合科学技術会議が策定している「科学技術重要施策アクションプラン」等の考え方やスキームを活用しつつ、「本部」が概算要求前に各省の要求内容を把握し、府省横断的に総合調整する。

「本部」は、基本的には大方針を決め、関係府省に実施を促す組織とし、個別具体的なプロジェクトを実施する恒常的な予算権限は有さない。但し、現在、成果・実績が出つつある「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」をモデルとし、府省横断的かつイノベーションにつながる施策を誘導するための一定規模の予算を必要に応じて保有することができるものとする。

(4)「本部」を支える体制

  1. 「科学技術イノベーション戦略協議会」の設置
    わが国の科学技術イノベーション政策に関するより具体的な戦略等につき議論し提案を取りまとめる「科学技術イノベーション戦略協議会(以下、協議会)」を、重要課題(グリーンイノベーション、ライフイノベーション、産業競争力強化等)ごとに設置する。
    「協議会」は、今次の基本計画に沿った政策の着実な推進について議論する「科学技術イノベーション推進専門調査会」の下に設置し、イノベーションの主たる担い手である産業界の意見を十分に政策に反映させる。
    「協議会」の設置については、第4期科学技術基本計画にも明記されたところであり、「本部」を支える重要な組織となることから、政府における検討を加速し、早期の具体化を図る。

  2. 事務局機能の強化
    司令塔の権限強化に伴い、事務局機能の強化を図る。
    具体的には、イノベーション政策の推進に向け、産業界の優れた知見を活かすため、民間出身者の積極的な受入れ及び幹部への登用等を図るとともに、「資料提出の要求」権限を行使しつつ、調査分析機能を強化する。併せて、既存のシンクタンクと機能的に連携する体制を構築する。

  3. 研究開発法人の活用
    研究開発法人は、民間企業では担うことが難しくかつ国の重要課題に関する研究開発を着実に推進することが責務であることから、「本部」の策定した方針に沿った形で研究開発が推進されるよう、研究開発法人に対する「本部」の影響力を強化する。

Ⅲ.「国家戦略会議」との連動性強化

「科学技術イノベーション政策」は、従来の「科学技術の振興」の枠を越えて関連政策を動員することでイノベーション創出の促進を目指すものであり、その成果によって経済社会の発展や国際的な貢献が期待される。イノベーション創出までを視野に入れることにより、科学技術イノベーション政策を担当する大臣の所掌範囲がこれまで以上に広がり、責任も重くなることから、担当大臣を専任化して必置とする。

また、同政策は総合的な政策パッケージであり、今後のわが国の重要な国家戦略の一つとして高い優先度を持って取り組むため、同大臣を「国家戦略会議」のメンバーとし、「本部」と「国家戦略会議」が密に連携をとれる体制を整備する。その上で、第4期科学技術基本計画に明記された「政府研究開発投資の対GDP比1%、総額25兆円」の予算目標の達成も図る。

Ⅳ.おわりに

第4期科学技術基本計画で掲げられた課題解決型の「科学技術イノベーション政策」を実効ある形で推進するためには、上記の通り、司令塔としての「本部」の権限を確立するとともに、「本部」を中心とする体制を早期に構築することが不可欠となる。

今回の見直しが「看板の掛け替え」に終わらぬよう、政治の意思とリーダーシップに強く期待する。

以上
【イメージ図】
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