Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業  新たな海洋基本計画に向けた提言

[ 目次 ]

2012年7月17日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

わが国は国土の四方を海に囲まれた海洋国家であり、国土面積は世界第61位の約38万km2であるのに対して、領海および排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)の面積は世界第6位の447万km2である。今般、国連大陸棚限界委員会により大陸棚の延長が勧告され、海洋権益はさらに拡大し、エネルギーや鉱物資源などへの期待がますます高まっている。

また、わが国は輸出入貨物の99%を海上輸送に依存しており、海洋は国民生活を支えている。加えて、海洋産業は海運、造船、水産、エネルギー・資源開発、観光・レジャーなど多岐にわたっている。一方、わが国は長引くデフレや少子高齢化のもとで厳しい経済状況が続き、さらには6重苦(円高、高い法人税、TPPなど経済連携の遅れ、柔軟性を欠いた労働法制、行き過ぎた環境政策、電力などエネルギー問題)と言われる環境の下で、産業の国際競争力が低下している。こうした状況の打開を図りつつ、広範にわたる海洋産業を振興することは、経済の再生と持続的な成長に貢献する。

昨年3月の東日本大震災における津波により、東北地方を中心に甚大な被害が生じた。海洋からの恩恵とともに、海洋がもたらす災害に対して適切な対策を講じる必要性を改めて認識させられた。

海洋政策については、2007年5月に成立した海洋基本法によって総合海洋政策本部が発足し、2008年3月に策定された海洋基本計画に基づいて施策が実施されてきた。国会議員および産業界と学界の有識者による海洋基本法戦略研究会も積極的に活動している。

こうした中、政府は総合海洋政策本部において、今後5年間の海洋政策に関する新たな海洋基本計画の策定作業を進めている。これまで、経団連は「海洋立国への成長基盤の構築に向けた提言」(2010年4月20日)や、「海賊対策の強化に向けた提言」(2011年10月18日)を公表し、総合的な海洋政策の実施やソマリア沖・アデン湾の海賊対策の強化を訴えてきた。新たな海洋基本計画の策定に対して、基本方針や海洋産業の発展のための重要政策について産業界の意見反映を図るため、提言を取りまとめた。

2.海洋をめぐる環境変化

(1) 資源獲得競争の激化

中国やインドをはじめアジアなどの新興国が急速に成長しており、世界的な人口増加に伴い、エネルギーや鉱物などの需要は増大し、資源価格は高騰する傾向にある。世界各国の資源獲得競争は激化しており、陸上資源の不足が懸念されている。
こうした中で、資源の大半を輸入に依存しているわが国にとって、十分な資源量の確保が困難になる恐れがある。加えて、中国によるレアアースの輸出制限など、資源を海外に依存するリスクが顕在化している。わが国の大陸棚における資源は、賦存量など調査すべき事項も多いが、資源自給率を向上させる可能性を有している。
また、昨年の東日本大震災を契機に、電力不足の問題が深刻化している。政府において今後のエネルギー政策の検討が行われるなかで、広大な海洋を利用した海洋再生可能エネルギーが注目されている。

(2) 自然災害や環境問題の深刻化

地震、津波、高潮、台風、竜巻などの自然災害により、世界各国で大きな被害が生じている。特にわが国では、かねてから防災対策が講じられていたが、東日本大震災における巨大な津波によって、多数の死者が出るなど甚大な被害が生じた。また、東日本大震災に伴うがれきの漂流などが国際問題化している。
地球温暖化については、異常気象が頻発し、海面上昇により水面下に沈没する恐れがある国も出るなどの問題が生じている。
地震・津波などの自然災害に対する防災・減災や地球温暖化対策に資する海洋技術の開発に一層取組む必要がある。

(3) 安全保障環境の変化

わが国の近海では北朝鮮の不審船や工作船が出没している。また、外国の海洋調査船等の活動の活発化や2010年9月の尖閣諸島沖における中国の漁船による海上保安庁の巡視船との衝突事件の発生など、海洋安全保障は不安定な状況が続いており、領海警備の強化が必要である。
また、海外ではヨーロッパとアジアを結ぶ要衝であるソマリアの海賊が活動範囲をインド洋にまで拡大し、わが国の海上輸送に重大な脅威を及ぼすとともに、日本関連船舶にも被害が生じている。2009年7月に施行された海賊対処法に基づいて海賊対策が実施されているが、さらなる強化が求められる。

3.新たな海洋基本計画の基本方針

新たな海洋基本計画の策定にあたっては、現行基本計画における施策の実施状況を精査して明らかにしたうえで、海洋をめぐる環境の変化を踏まえて施策の優先順位をつけるべきである。新たな海洋基本計画では、以下の基本方針のもとで、各施策について可能な限り具体的な数値目標や達成時期を明示すべきである。

(1) 海洋権益と海洋安全保障の確保

まず、排他的経済水域および大陸棚などの海洋権益を確保し、海洋エネルギーや資源などの開発を進めていくべきである。あわせて排他的経済水域や大陸棚、離島の管理を強化する必要がある。
海洋における活動や海上輸送の安全を確保するには、日本近海における安全保障の強化や、ソマリア沖・アデン湾などにおける海賊への対応が必要である。このため、わが国の近海から海外に至るシーレーンの確保を図る海洋安全保障政策を策定する必要がある。

(2) 海洋開発の基盤強化

海洋は人類未踏の領域が多く、わが国が開拓すべきフロンティアである。このため、海洋開発には最先端の技術を結集する必要があり、まず第4期科学技術基本計画を踏まえ、さまざまな課題の解決につながる海洋探査等に関する自主技術の開発を推進し、イノベーションを創出すべきである。このため、マリンサイエンス拠点の整備が必要である。その際、東北を拠点の1つとして研究開発を推進することで、東北の産業振興や雇用の創出にもつながり、震災からの復旧・復興にも貢献できる。
特に、新たな海洋基本計画においては、調査・探査や開発に加えて実証実験を進め、商業化への道筋をつけることが重要である。このため、国、地方公共団体、産業界、学界の連携を強化し、実証海域を設定・確保する必要がある。

(3) 海洋産業の振興と国際競争力の強化

海洋安全保障の確保や海洋開発の基盤強化、海洋利用の推進などを通じて、海運、造船、水産、建設、エネルギー・資源開発など広範にわたる海洋産業の振興および国際競争力の強化につなげるべきである。海運等の海事産業は厳しい国際競争下にあり、徹底した国際競争条件の均衡化が必要である。

(4) 自然災害の防災・減災

地震、津波、台風など海洋に由来する自然災害や地球温暖化などに対して、国民が安全で安心して住める国造りが重要である。このため海洋に関連する有効な防災・減災対策を実施すべきである。

(5) 国際貢献

地球深部探査船「ちきゅう」による海外における資源調査や、東アジアにおける地震観測ネットワークの整備など、わが国の持つ海洋システムを活用して、国際貢献を推進すべきである。太平洋諸島に対する地球温暖化の影響を軽減することも重要である。
また、東南アジアやソマリア沖・アデン湾の沿岸国における海賊対策の強化を通じて国際安全保障に貢献すべきである。
国連に対する資金や人材面での貢献も継続すべきである。

4.新たな海洋基本計画の重要政策

(1) 排他的経済水域(EEZ)および大陸棚、離島の管理

  1. 大陸棚の延長
    国連海洋法条約の規定に基づき、沿岸国の主権が及ぶ領海は12海里(約22km)、排他的経済水域は200海里(約370km)とされている。大陸棚は200海里までの海域の海底および海底下であり、一定の地質的条件を満たせば、延長が認められる。排他的経済水域や大陸棚においては、沿岸国は海洋資源を開発する権利を有している。
    経団連としては、2004年から2008年にかけて、海洋開発に関する主要企業で構成される「日本大陸棚調査株式会社」の設立を主導するなど、政府や学界と一体となった大陸棚調査に関わった。
    その調査結果を踏まえ、2008年11月に政府は国連大陸棚限界委員会に対して、7つの海域について74万km2の大陸棚延長を申請した。
    本年4月、同委員会の勧告により、7海域のうち4海域について約31万km2の大陸棚の延長が認められた一方、2海域の申請が却下され、1海域は審査が先送りとされた。

    表:日本の申請に対する勧告の概要
    日本が大陸棚の延長を申請した7海域大陸棚限界委員会の勧告
    四国海盆海域大部分の延長が認められた。
    小笠原海台海域大部分の延長が認められた。
    南硫黄島海域一部の延長が認められた。
    沖大東海嶺南方海域一部の延長が認められた。
    南鳥島海域申請が却下された。
    茂木海山海域申請が却下された。
    九州-パラオ海嶺南部海域審査が先送りされた。

    新たな大陸棚には、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、石油・天然ガス、コバルトリッチクラストなど、海洋エネルギーや鉱物資源が存在することが期待されており、調査・探査を推進すべきである。
    一方、延長が認められなかった大陸棚については、再審査の申請に向けて追加調査を検討すべきである。また、勧告が先送りされた九州-パラオ海嶺南部海域については、延長を認める勧告が早期に行われるよう、国連大陸棚限界委員会に働きかけを行うべきである。

  2. 排他的経済水域と大陸棚の管理
    国連海洋法条約を受けて、わが国では「排他的経済水域および大陸棚に関する法律」が制定されたが、わが国の法令を適用すると規定したにとどまっている。
    しかし、現行の法令の多くは陸地での適用を前提としていることから、海である排他的経済水域や大陸棚の具体的な管理のあり方が明確でない。
    そこで、国と地方公共団体による管理主体としての役割分担を明確にし、地方公共団体が領海内など沿岸域を管理し、それ以遠の排他的経済水域および大陸棚を国が管理すべきである。このため、沿岸域から、排他的経済水域や大陸棚に至るまでの海洋管理について、法制面の整備をすべきである。
    次に、排他的経済水域および大陸棚の総合的管理に関する計画を策定し、排他的経済水域や大陸棚の開発、利用、保全に関する具体的施策を盛り込むべきである。
    現行の法制度では、わが国の海域を一律に扱っているが、自然環境や海洋資源など海域の特性に応じた管理および開発を可能にすべきである。これについては、経団連の提言「21世紀の海洋のグランドデザイン」(2000年6月20日)において示した7か所のプラットフォームを設けて管理・保全する構想が参考になる。

  3. 離島の保全・管理
    排他的経済水域および大陸棚の管理を適切に行うためには、離島を保全・管理していく必要がある。わが国には約6,000の離島があるが、その低潮線(干潮時の海面と陸地が接する線)を基線とする排他的経済水域が広大である。2010年5月に成立した低潮線保全法と2012年に改正された離島振興法に基づき、離島の保全・管理を進めるべきである。
    離島は海洋エネルギー・鉱物資源の調査の拠点にも活用できるため、離島航路に就航する船舶および港湾や研究施設の整備などにより管理を強化していくべきである。特に沖ノ鳥島や南鳥島を基点とする排他的経済水域の面積は日本の国土面積以上になるため、保全の必要性がある。また、居住が困難な離島については、海上保安庁による監視の強化等も図り実効支配を強化し、わが国の領土であることを国際的にアピールすることも重要である。

(2) 海洋エネルギー・資源の開発

  1. 海洋データベースの構築
    海洋エネルギー・鉱物資源の調査・開発にあたっては、各省庁の連携が不可欠である。海底地形、海流、水温、エネルギーや資源の分布など各省庁が保有している海洋関連データを収集し、一元化した海洋データベースを構築すべきである。その際、さまざまな海洋情報を電子地図に重ね合わせることや、3D化することなどにより、ユーザーのニーズに応じたデータの利用を進めるべきである。一方、安全保障に関する情報などセンシティブなデータについては、管理を適切に行う必要がある。

  2. 海洋エネルギー・鉱物資源
    わが国の排他的経済水域および大陸棚には、海洋エネルギー・鉱物資源が多く存在しており、環境への影響を踏まえて開発していく必要がある。また、海外における国際共同探査や開発も資源確保のため重要である。
    政府の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(2009年3月)では、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、石油・天然ガス、コバルトリッチクラストなどの商業化の目標時期や必要な技術開発が示されている。今後は、実証実験を加速して、鉱区を設定することなどにより、商業化の目標達成時期を前倒したロードマップを策定すべきである。
    メタンハイドレートについては、2月から愛知県沖において海洋産出試験の事前掘削が行われ、来年に産出試験が行われる予定である。将来の商業化に向けた技術開発とともに、日本近海における資源量の調査・探査を進めるべきである。
    海底熱水鉱床については、海外において商業開発が進展しており、わが国でもスピード感を持った対応が求められる。沖縄トラフの掘削による黒鉱の採取などのプロジェクトを加速化すべきである。
    石油・天然ガスについては、新潟県沖において賦存状況の調査のための試掘を進めていくことが重要である。
    コバルトリッチクラストについては、南鳥島の周辺海域における賦存量の調査を実施すべきである。
    海洋基本計画においては、上記の海洋エネルギー・鉱物資源に加え、レアアースの賦存量の探査および開発の推進についても盛り込むべきである。まず、南鳥島の周辺海域でレアアースの探査・開発を進めていくことが、ハイテク産業の活動だけでなく資源外交上も大きな利点となる。
    海洋資源の開発に関する法整備も重要である。本年1月に施行された改正鉱業法において、外国企業の乱開発を防止するため、許可要件や先願主義の見直しや資源探査規制の導入が行われたことを評価する。今後は、外国による科学的調査や資源探査に関しても、ガイドラインの策定等による適切な対応が求められる。
    海洋探査の推進に向け、地球深部探査船「ちきゅう」、三次元物理探査船「資源」、海洋資源調査船「白嶺」、AUV(Autonomous Underwater Vehicle:次世代巡航探査機)、ROV(Remotely Operated Vehicle:小型無人探査機)の機能を向上させるとともに、各探査船等を連携させた総合的な海洋資源探査システムを確立すべきである。
    また、観測・探査機器や、海洋構造物の建造などについて自主技術の開発を進めるべきである。さらに、海外の海洋開発プロジェクトに日本企業が参画することで、技術やノウハウを蓄積するとともに、日本人の技術者や専門家を育成することも重要である。

  3. 海洋再生可能エネルギー
    現行の海洋基本計画では、洋上風力発電をはじめ海洋再生可能エネルギーは「その他の資源の研究開発等」に位置付けられるにとどまっている。
    東日本大震災により、国民生活や経済活動を円滑に行うためには、経済性を持った価格による電力の安定的な供給が極めて重要であることが改めて認識された。再生可能エネルギーは国産エネルギーであり、CO2を排出しないことから地球温暖化対策としても有効である一方、低い経済性や不安定な出力などの課題がある。そこで、新たな海洋基本計画では、海洋再生可能エネルギー技術の開発・実用化を重要政策として位置付けるべきである。
    具体的には、洋上風力発電、波力発電、潮汐発電、海洋温度差発電、海流・潮流発電など、海洋発電に関する技術開発・海域実証実験および将来に向けた商業化・事業化を推進すべきである。
    特に洋上風力発電については、わが国の広い海洋空間と洋上の安定した風環境を活用することができる。すでに欧米や中国において導入が進んでおり、わが国においても、中長期的な導入目標を明示して普及を図るべきである。
    わが国では、台風、地震、雷などが頻繁に発生することから、厳しい自然環境に適合するとともに、効率的な送電網を含む維持管理コストが低い洋上風力発電システムに関する技術の確立が求められる。
    そこで、経済産業省、環境省、国土交通省が連携を図ることによって、着床式洋上風力発電および浮体式洋上風力発電プロジェクトの海上における実証実験とともに、風力発電の大型化に対応するための専用作業船などの技術開発を推進すべきである。
    また、制度面では、系統連系能力の強化、実証海域の確保に向けた規制緩和、気象や海象条件等のデータベース整備などが求められる。PPP(Public Private Partnership)を活用し、国が設備投資して民間で運営する公設民営方式の導入について検討すべきである。
    洋上風力発電の設置により、港湾管理や漁業活動に影響が生じる可能性がある。そこで、環境や漁業への影響を評価し、港湾区域の積極的な活用や一般海域におけるプロジェクトの円滑な推進を可能にするため、発電事業者や漁業関係者等が実証海域の利用を調整するにあたり、海域を管理する国と地方公共団体が積極的に関与し、利用者にメリットをもたらす漁業協調型システムを整備すべきである。

(3) 自然災害対策

大きな被害が生じた東日本大震災を踏まえ、地震や津波など海洋に由来する自然災害対策を充実させるべきである。特に地震については、近い将来、発生する可能性が高い東海・東南海・南海地震等の対策が急務である。
まず、震災で得た新しい知見に基づき、次の大地震に備えて、スピード感を持って効果的な防災・減災対策を実施すべきである。
現在は、地震や津波を予測できる段階には至っていない。「ちきゅう」を活用した海底の大深度掘削により、海溝型地震および津波の発生メカニズムの解明を行うべきである。
また、紀伊半島沖で整備されている地震津波観測監視システム(DONET)や、北海道から房総沖の海域について整備が予定されている日本海溝海底地震津波観測網のような観測システムの全国的な展開や、スーパーコンピューター「京」の活用による地震や津波のシミュレーションの高精度化を図るべきである。
海洋と宇宙の連携による防災・減災も有効である。将来的に、海上のブイや海中のセンサー等とともに、準天頂衛星システムの高精度の測位機能を活用して、的確な避難指示と災害情報をリアルタイムで配信するシステムを構築すべきである。

(4) 環境問題への貢献

  1. CCS
    海底下の地層を活用したCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage:CO2分離・回収・貯留)について、海底下地質構造調査を行ったうえで研究開発と実証試験を着実に推進すべきである。海底下でCO2をメタンに変える細菌の培養技術やCO2を吸収・固定化するバイオ技術も開発すべきである。

  2. エコシップ
    国際海事機関(IMO)による環境規制が毎年強化されていくなか、世界有数の海運・造船国として、わが国の省エネ技術を最大限活かすことが重要である。
    具体的には、天然ガス燃料船(外航船)や革新的省エネ船(これまで開発してきた省エネ要素技術を統合した船舶)などCO2の排出量が少ないエコシップの研究開発や普及によって、地球温暖化対策や海洋環境の保全に貢献すべきである。

  3. 航路
    海流予測などの海洋データや、海洋ブロードバンドの通信ネットワークを活用し、排出されるCO2を減少させ燃費の節減ができる船舶の航行ルートを開拓する必要がある。
    また、アジアとヨーロッパを結ぶ現行の航路を大幅に短縮する可能性がある北極海航路の開拓について諸外国が取組んでいるが、わが国も経済性、安全性、環境への影響等に関して可及的速やかに検討を進める必要がある。

  4. 東日本大震災による漂流物・海底がれき対策
    東日本大震災の津波により、太平洋に流出した大量のがれきが、洋上漂流物となってアメリカやカナダの西海岸などに到達しており、国際問題化している。洋上漂流物の処理については、両国の関係機関と連携を強化すべきである。
    大量のがれきやゴミは沿岸の住民生活に危険を及ぼすだけでなく、海洋の生態系にも影響を与えることが懸念される。
    そこで、がれきの総量や漂着時期に関するシミュレーションを行い、回収船などを利用して継続的に処理に取組むべきである。

(5) 安全保障の確保

  1. 領海警備の強化
    不審船や工作船などに対する海上保安庁の対策を強化するため、大型の巡視船艇や航空機の整備を進め、装備の高性能化を図るべきである。海上保安庁法や領海等における外国船舶の航行に関する法律などの改正により海上保安庁の海上警察権を強化し、領海警備を強化すべきである。
    また、宇宙と海洋の連携を図り、衛星と船舶などによる排他的経済水域や大陸棚の監視を行うべきである。

  2. 海賊対策
    2000年をピークとして、マラッカ・シンガポール海峡をはじめ東南アジア周辺海域における海賊事件数は減少したが、完全収束には至っていない。
    シンガポールやマレーシアなど沿岸国の海上保安機関職員などの人材育成や、アジア海賊対策地域協力協定への協力、わが国との共同訓練など海賊対策を引き続き行う必要がある。
    また、昨年12月に政府が策定した「防衛装備品等の海外移転に関する基準」により、平和貢献や国際協力に伴う防衛装備品等の海外移転の案件については包括的な例外化措置が講じられることとなった。これに基づき、沿岸国のインドネシアやフィリピンに対して巡視船艇をODAによって供与すべきである。
    また、現行の海洋基本計画では、マラッカ・シンガポール海峡における海賊対策に関する取組みについては記述がある。新たな海洋基本計画には、2008年から急増したソマリア沖・アデン湾における海賊対策についても盛り込むべきである。
    具体的には、乗組員と船舶の安全を確保するため、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策として、(1)自衛隊の派遣規模の拡大(現在の護衛艦2隻とP-3C哨戒機2機の増大、補給艦の派遣)、(2)日本船籍の船舶への公的武装ガード(自衛隊員や海上保安官)の乗船、民間武装警備員に関する法制整備、(3)ソマリアの治安向上に向けた国連への拠出の拡大、イエメンへの巡視船艇のODAによる供与、(4)海賊に対する裁判や服役に関するルールの整備の国連への働きかけを行うべきである。

(6) 海事産業の強化

わが国の海運、造船、船舶用機器などの海事産業は、連携強化を図ることで海事クラスターを形成し、優れた製造技術や高い輸送能力を活用して、きめ細かい輸送サービスなどを提供している。しかし、6重苦のなかで、国際競争を展開する海事産業も厳しい状況におかれている。
海事産業の強化に向けて、国際競争条件の均衡化の確保のため海運関連の税制の継続的整備や、船舶関連の技術開発の推進を図るべきである。

(7) 人材育成と海洋教育

海洋に対する国民の理解を深めるため、小学校、中学校、高校における教育において海洋の重要性をアピールし、海洋教育に関する環境を整備すべきである。大学等における専門的な教育においては、海洋系大学の連携を図りながら、インターンシップ等も活用して優れた研究者とともに技術者を育成すべきである。加えて、海洋資源の調査や開発に必要な特殊船舶の操縦者や、探査や掘削などを行う技術者や専門家を育成する必要がある。
また、海洋関連の国際機関における日本人の役割も重要である。国連の機関である国際海事機関(IMO)の事務局長、国連大陸棚限界委員会の委員、国際海洋法裁判所の所長として日本人が活躍しているが、こうした国際機関への人的貢献を継続すべきである。

5.推進体制の確立

(1) 総合海洋政策本部の機能の強化

総合海洋政策本部は、司令塔としてリーダーシップを発揮して、関係省庁の総合調整を行う必要がある。
まず、総合海洋政策本部は、有識者で構成される参与会議の意見を踏まえ、重要な海洋政策の策定や海洋予算に関する調整を行い、関係省庁の海洋情報を一元化したデータベースの構築や、海洋エネルギーや鉱物資源の開発、海洋産業の振興に向けた研究開発、海洋環境の保全など省庁横断的な取組みを推進すべきである。
また、総合海洋政策本部は、国、地方公共団体、産業界、学界の連携を強化するための中心的な役割を担うことが求められる。

(2) 海洋研究開発機構の機能の強化

わが国の海洋調査を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)の機能を強化すべきである。JAMSTECは文部科学省が所管しているが、独立行政法人改革の一環として、他の研究開発型独立行政法人と統合される。その際、海洋研究開発というミッションに加えて、研究成果の利用の促進や産業界への円滑な技術移転を通じた産業化への貢献ができるようにすべきである。

以上