Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策  政府CIOの設置に向けた考え方 - 企業におけるIT経営革新の経験から -

2012年8月6日
一般社団法人 日本経済団体連合会
電子行政推進委員会
電子行政推進部会

政府CIOの設置に向けた考え方【概要】

I.政府CIOを設置し、中長期での一貫した電子行政の推進を

1.国家の競争力強化の原動力としての電子行政

電子行政推進の目的は、単なる行政コストの削減にとどまるべきものではない。行政の効率性や透明性向上、国民生活の利便性向上や安心できる社会保障制度の確立、さらには行政情報を活用した新産業・新事業の創出等、わが国の経済社会、国民生活の活性化を図り、国際競争力の強化に結び付ける視点が重要である。

2.中長期での横断的専任統括責任者の必要性

しかしながら、わが国におけるこれまでの電子行政推進の取り組みは、手続き等の電子化は進んだものの、電子行政推進の本来の目的である業務の効率性向上や行政サービスの向上、政府予算の削減につながっているとは言い難い。国連による評価においては、世界18位と、トップの評価を受ける韓国との差が開いている。

その理由のひとつとして、電子行政の推進を中長期的に支える専任統括責任者が存在しなかった事実がある。このことが、現状において各府省庁の情報システムの全体的な把握や相互連携の推進、地方公共団体との連携も視野に入れた政府横断的なIT投資管理が出来ているとは言い難い状況を生んでいるといっても過言ではない。

こうした状況にあって、今般、電子行政の取り組みを迅速かつ強力に推進していくことを目的に、政府CIO(Chief Information Officer: 最高情報責任者)の設置が決定されたことは前向きに評価できる。しかしながら、現状において、政府CIOは「電子行政の取り組みを迅速かつ強力に推進していくため、政府の電子行政推進に係る実質的な権能を有する司令塔」と定義されているものの、具体的な権限が法的に位置づけられていないため、関係府省庁に対する影響力は極めて限定的である。各府省庁にCIO、CIO補佐官が存在し、それぞれに府省庁横断的な連絡会議が存在するなかで、横断的な取り組みを進めていくための統率力や調整力が備わっていなかったことに鑑み、全府省庁に対し、明確かつ迅速な決定と責任の下、統率、調整の役割を担う存在が必要となっていることを強く意識する必要がある。

政府CIOは、政府全体の電子行政推進を中長期的に支える専任統括責任者として、行政改革を推進するための強力なツールとしての政府情報システム刷新の推進、現在国会に法案提出されている「マイナンバー制度」関連の有効かつ適切なシステムの整備、さらに、地方公共団体との連携も視野に入れたBPR(Business Process Re-engineering) の実施へのリーダーシップを発揮できるよう、一日も早く法的に位置づけるべきである。

II.ITを活用した業務・組織変革を実現した民間の経験から

企業においては国際競争力の強化に向け、全社的な業務・組織改革が重要であるとの認識から、経営革新におけるITの活用が進んでいる。そうした民間の経験を踏まえ、政府CIOが取り組むべき課題とその対応について述べる。

1.業務改革と一体化した電子化の必要性

  1. (1) 部門最適と全体最適の融合(民間の経験)
    事業所、事業部門ごとにシステム管理者を置き、部門最適の運用を行う際、全体最適に向けた視点がなければ、IT投資効率が悪いだけでなく、企業グループ全体として一貫した業務改革を阻害することも多い。そうした判断のもと、グループを含めてシステムの部門最適と全体最適の融合に取り組んでいる。
    その端緒として重要なのは、業務改革の推進とそれを支えるITシステムの開発を、会社全体を横串で見ながら統括できる人物の存在である。企業グループ全体のCIO(グループCIO)は、業務改革とシステム効率化の両方を統括する立場として、経営トップの理解を得ながら、ITガバナンスの確立に向けた取り組みのかじ取りを行う存在となっている。

  2. (2) 業務改革と一体化した電子化の必要性(政府への提言)
    政府においても、行政業務の簡素化・標準化、規制・慣行の見直しを念頭に置きながら、電子化を進めることで初めて、大きな成果が得られることを、改めて明確に位置づけるべきである。これはすなわち、電子化を通じて、既存の業務プロセスや行政手続きの見直しに取り組むことが重要である。

2.全体最適システムに向けた踏み出しを

  1. (1) 可視化・標準化・共通化が不可欠(民間の経験)
    部門最適化された既存のシステムを全体最適システムに刷新する際には、まずシステムを可視化したうえで、標準化・共通化できる業務を峻別し、業務の統合・合理化につなげることが重要である。財務、総務、調達、決裁などは、部門にかかわらず、業務の標準化・共通化を進めやすい。

  2. (2) 業務の統合や効率化につなげる(政府への提言)
    政府において、すでに各府省庁の情報システムに関する「棚卸し」(現状把握、課題抽出)に取り組んでいることは評価できる。今後、業務の統合・合理化に資する適切な粒度でシステムに関わる業務を具体的かつ詳細に分解し、可視化することが不可欠である。そのうえで、各府省庁別々に整備・運用している情報システムについて、地方公共団体との連携を視野に入れながら、可能なものから順次統合・集約化を図るべきである。

3.政府CIOがリーダーシップを持つ重要性

  1. (1) CIOは、IT部門と業務部門の間に入り経営判断を行う存在(民間の経験)
    民間では、IT統括部門、業務統括部門(財務、調達、人事、営業等)がそれぞれの部門内でのBPRを推進、運用・改善に取り組む。加えて、IT、業務の統括部門が互いに連携を図りながら、ときにITシステムにあわせるかたちで、部署・部門ごとに異なる仕事の簡素化・統一化を行うなど、BPRを進める。
    CIOは、IT部門と業務部門の戦略の策定やこれに伴う実施状況の評価を行う立場の経営層の一人と位置づけられる。IT、業務の統括部門間での調整がつかない場合、グループ全体のCIOに案件が持ち込まれる。
    CIOは、経営トップの理解を得ながら、経営戦略に即し、全体最適システムに向けた判断を下す存在であり、ITの知識もさることながら、統率力が重要となる。

  2. (2) 法制度の枠組みが不可欠(政府への提言)
    行政機関においては、組織改編が容易ではないこと、効率化に向けた業務の見直しに際し法律・制度の改正が必要となる場合も考えられることから、政府CIOの権限を裏付ける法制度の整備が重要である。
    とくに、内閣総理大臣直轄のもと、省庁横断的な業務改革への関与と予算権限に係る実行力をもたせる法制度の枠組みが不可欠である。諸外国でも、政府CIOは予算について一定の権限をもつ。(注)
    この点は、社長の一声で組織や予算を大胆に変えることができる企業とは大きく異なる点である。

(注)
国名所属機関報告対象
米国行政予算管理局大統領、CIO協議会
英国内閣府(公共支出委員会)内閣官房長官、効率・改革部門長
豪州財務省財務大臣
カナダ予算庁官房予算庁長官
フィンランド財務省行政管理局長(財務省)
オーストリア連邦首相府連邦首相府長官
※ 各国とも、行政上層マネジメントへの直接的な報告義務がある。また、他府省との組織的な接点としてCIO協議会が置かれ、その実質的な主催者として各省CIOに対するリーダーシップを発揮。
(上の表は、IT戦略本部電子行政に関するタスクフォースに提出された日本アイ・ビー・エム作成資料「政府CIO制度に関する各国の現状について」をもとに作成)

III.政府CIOのあり方

ここまで、民間の経験を踏まえ、政府CIOが取り組むべき課題についての提言を行った。ここで、経団連が想定する政府CIOの役割や持つべき権限について述べる。なお、経団連の考える政府CIOとは、地方公共団体との密接な連携を視野に入れながら国民目線で改革を行う「行政CIO」と呼ぶべき存在である。

1.政府CIOの役割

民間においてCIOは経営戦略を支え、効果的な手段や方法論を与え、課題解決の実行に相当の責任を持つことが求められる。そうした民間の経験を踏まえ、政府CIOの役割は、次のようなものになる。

  1. (1) 成長戦略や社会保障・税の一体改革等、国家的課題に取り組むうえで効果的なITの活用を進める役割と責務を担う。
  2. (2) 行政業務の標準化・共通化を進める責任を持ち、専任で職務に臨む。PDCAを回すためには、4~5年程度の中長期での任務を果たすことが不可欠。
  3. (3) 国民、企業の目線から、ITを活用した、国・地方を通じた行政の効率化やいわゆる「オープンデータ」を推進する。

こうした役割を果たすためには、内閣において、府省庁横断的な全体最適システムの構築に取り組むという強い意思を明示することが重要である。そして、内閣及び各府省庁が一体となって政府CIOが最大限に力を発揮できるよう、環境整備を図る必要がある。

2.政府CIOに実効性を持たせるために不可欠の権限

  1. (1) 業務改革への関与
    政府CIOは、内閣総理大臣直轄で、行政業務の見直しに関する必要な法改正への関与、調整を行う権限を持つべきである。
    また業務やシステムの改善は、それぞれの現場において試行錯誤や改善を重ねることを通じて達成されるものもあるため、業務効率化に関する指示・勧告権限も持つべきである。

  2. (2) 予算管理
    過去数年の実績を踏まえ、新年度予算の正当性を確認することに加え、投資金額の大きな案件について、実績および効果測定・評価を実施し、想定した効果に達しなかった場合には、対策案を提示するよう勧告する権限を持つべきである。
    さらに、IT投資管理のPDCAサイクルの全体統括をつとめ、IT予算の全体像を把握したうえで、投資管理評価権限、ならびに予算執行権限も持つべきである。なお、予算執行権の付与については、現在の法律上どのような課題があり、見直しが必要となるかについて、政府側で整理して公表することを求めたい。

  3. (3) 担当大臣との密接な連携
    政府CIOの取り組む業務は、単にシステム構築ではなく、ITをツールとしたBPRである。このため、国家戦略担当大臣、行政改革担当大臣、財務大臣、総務大臣との密接な連携が不可欠である。

3.取り組むべき課題

現在、政府内の各組織や部門最適に留まっているシステムを、全体最適システムに刷新していくためのBPRが不可欠である。
その際、IT戦略本部決定がなされた「電子行政オープンデータ戦略」の推進、将来的な地方公共団体との連携も視野に入れた対応についても念頭に置く必要がある。こうした取り組みのなかで着実な成果をあげていくためには、PDCAサイクルを回すことが重要である。
政府CIOには、次の取り組みを求める。

  1. (1) すぐに取り組むべきこと
    1. 政府情報システム刷新プロジェクトの統括
    2. 現状の可視化を通じて業務効率化を行う観点から、各府省庁CIO、CIO補佐官の統括
    3. 地方公共団体等とのデータ連携(システム・サービス連携)に係る検討開始、自治体クラウドをはじめ地方公共団体間のシステム標準化・共通化等へのサポート
    4. 「電子行政オープンデータ戦略」の推進
  2. (2) 中期的に取り組むこと
    1. 府省庁ITプロジェクトのPDCAの統括(IT投資評価、予算執行権限等)
    2. 政府情報システムに携わる人員再配置等の検討
      システム運用業務の効率化を図ることにより生じる余剰人員を、国民ニーズの高いサービス部門に配置換えすること等により、質の高い行政サービスの実現を目指す。
  3. (3) 長期的に達成すべきこと
    1. 行政の透明化の実現による国民の政府に対する信頼の向上
    2. 将来のCIO人材の育成

IV.政府CIOをサポートする専任事務局(補佐官組織)の設置

政府CIOを支える数十名規模の専任事務局(補佐官組織)を設置すべきである。この組織は、例えば以下のチームにより構成される。

  • 政府情報システムに関する戦略立案チーム
  • 政府情報システムの開発を監視・監督するチーム
  • 政府情報システムの運用を評価・監査するチーム

スタッフとして、以下のような経験を持つ人材が、中長期的に務めることが考えられる。

  1. 民間でのBPR実務経験者、大型プロジェクトのマネジメント経験者
  2. 各府省庁の業務を知る者(CIO、CIO補佐官と緊密に連携)
  3. 地方公共団体の業務を知る者
  4. システム技術の動向を知る者
  5. 監査法人の業務を知る者

なお、政府CIOが取り組むべき事項は、広範にわたり、かつ専門性も高いことから、たとえば専任事務局の責任者(例:局長級)を政府副CIOあるいは政府CIO代理として位置付けることで、補完関係を持たせCIO機能の強化を図ることも不可欠であろう。

V.政府CIOのもと、国民が成果を実感できる電子行政を目指す

以上が、政府CIOの設置に向けた経団連の考え方である。政府CIOの設置は、国・地方・民間・国民をあげた、日本の潜在成長力を引き出す新しい基盤としての電子行政実現に向けた再出発点であり、その成否は今後の取り組み次第である。とりわけ、地方公共団体を含めた行政全体の最適化については、目指すべきゴールのひとつとして視野に入れ、まずは具体的なイメージ提示とそれに向けた関係者のコンセンサスが必要である。

その意味でも、政府CIOの設置は電子行政推進をめぐるさまざまな課題解決に向けた第一歩に過ぎない。また、急速な進化を続けるITの世界において、費用対効果の視点をもつことは非常に重要である。国民、企業にとって、実際に使いやすい行政サービスや、行政運営の効率化を実現するため、無駄な費用は極力なくすという視点がなければならない。政府CIOのもと、国民が電子行政推進の成果を実感できるよう不断の努力を続けながら、着実に歩み続けることが重要である。

VI.政府CIO法案が成立・施行されるまでの政府CIOの業務と権限について

すでに述べた通り、政府CIOが全府省庁に対して統率力や調整力を持ち、電子行政の司令塔として実効的に機能するためには、権限の裏付けとなる法整備が不可欠である。しかしながら、政府CIO法案は来年の通常国会への提出に向け今秋に検討が行われる予定である。政府CIOは、当面、法的な裏付けがない状態で業務を行わなければならないため、その間に取り組むべき業務内容と必要な権限について、具体的に付与することが必須である。

政府CIOは、当面、次の業務に取り組むうえで、関係府省庁への統率力・調整力を持つべきである。

  1. 1.政府共通プラットフォームへの統合・集約化
    すべての政府情報システムを対象として検討し、平成24年度中に構築される「政府共通プラットフォーム」への統合・集約化に取り組む。

  2. 2.府省共通システムの導入推進
    人事・給与事務、旅費事務等の業務について、全府省庁共通システムの導入に向けた業務プロセス見直しの徹底を行う。

  3. 3.経常コストの低減・適正化
    すべての政府情報システムを対象として、各府省庁CIO、CIO補佐官と連携しながら、企画、設計・開発、運用・保守の各段階における経費見積り、調達、契約等における、経常コストの低減・適正化を図るための検討を行う。

  4. 4.重複業務等における業務改革の推進
    府省庁間の重複業務を可視化し、業務の統廃合、府省共通システムの導入、アウトソーシング等による業務の簡素・合理化が認められるもの等について、投資対効果を考慮のうえ、地方公共団体との連携も視野にいれながら、横断的な業務改革に向けた検討を行う。

  5. 5.概算要求及び執行に係る各府省庁CIO、財務省との調整
    すべての政府情報システムを対象として、各府省庁の財務省への予算要求・編成プロセスに関与し、不要な予算をチェックする。

  6. 6.上記に関する報告義務
    政府CIOは、上記(1)~(4)の業務について、内閣総理大臣、行政改革担当大臣、国家戦略担当大臣との密接な連携ならびに報告を行い、必要に応じて政治的リーダーシップの支援を受けることとする。

以上