Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  COP18に向けた提言

2012年10月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

COP18に向けた提言【概要】

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1. はじめに

1992年の国連環境開発会議(リオ地球サミット)で気候変動枠組条約等が採択されてから20年を経た本年6月、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催され、持続可能な発展を実現することの重要性が改めて確認された。

人類の生存基盤に関わる地球温暖化問題についても、経済成長を実現しながら、真に実効ある対策を講じる必要がある。そのためには、先進国のみならず、経済成長が著しく、今後ともさらなる温室効果ガス排出増が見込まれる新興国・途上国も、排出削減に取り組む枠組が不可欠である。

昨年、南アフリカ・ダーバンで開催された気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17)では、全ての国に適用される法的効力を有する新たな枠組に関し、必要となる作業を遅くとも2015年までに終了させ、2020年に発効させることが合意された。経団連ではかねて、全ての主要排出国が責任ある形で参加する、公平かつ真に実効ある国際枠組を構築することを求めてきたところであり、昨年のダーバン合意は、その枠組構築に向けた第一歩として高く評価できる。

本年末にカタール・ドーハで開催されるCOP18は、ダーバン合意に基づき、新たな国際枠組の在り方が協議される初のCOPとなる。そこで、経団連として、経済成長と温暖化対策を両立しつつ、真に実効ある国際枠組の構築に向けた交渉が展開されることを強く期待し、以下の通り提言する。

2. 地球規模の温室効果ガスの削減に向けて

新興国・途上国における人口増大・経済成長に伴い、世界全体のエネルギー需要のさらなる増加が見込まれる中、温室効果ガス排出を抑制しつつ持続可能な発展を実現するためには、先進国・新興国・途上国を問わず、何よりも省エネを進めることが有効かつ不可欠である。

そのカギを握るのは、技術の担い手である民間企業の活力である。世界各国が経済発展を目指しながら、温室効果ガスを大幅に削減するためには、既存の低炭素型の技術、製品・サービスの普及、ならびに、温室効果ガス排出量の大幅削減を可能とする革新的技術の開発・実用化が求められる。

天然鉱物資源に乏しいわが国は、二度の石油ショックを克服し、省エネの推進に取り組んできた結果、主要国の中で国内総生産(GDP)あたりのエネルギー使用量・二酸化炭素(CO2)排出量が最小の社会を実現している(図1、図2参照)。最小限の資源消費で最大限の富を創出するわが国の社会は、持続的な発展に向けた一つのモデルになり得るものであり、わが国として今後とも、世界最高水準のエネルギー効率を堅持、強化していくことが必要である。

なお、温室効果ガスの排出を可能な限り抑制する観点からは、京都議定書で対象外とされているフロン#1への対策を行うことも極めて重要な課題である(図3、表1参照)。この点、わが国が有するフロン回収・破壊の技術やノウハウを活用して新興国・途上国に協力することで、今後の大気中への放出を未然に防ぎ、地球規模での温室効果ガスの排出削減が可能となる。わが国政府には、途上国でのフロン回収・破壊への取組みを政策面で後押しすることを望みたい。

3. 真に実効ある国際枠組の構築に向けて

(1) 全ての主要排出国が責任ある形で参加する単一の国際枠組

現行の京都議定書のように、一部の国のみが削減義務を負う枠組では、削減義務を負わない国に生産拠点が移転する炭素リーケージ等の構造的な問題を惹起し、地球上の温室効果ガスの抑制にはつながらない。事実、京都議定書の発効後も、世界の温室効果ガスは増加の一途を辿っている。

真に実効ある温暖化対策を講じるためには、全ての主要排出国が責任ある形で参加する国際枠組を構築することが不可欠である。従って、2020年以降に全ての国に適用される法的効力を有する新たな枠組においては、「共通だが差異ある責任」のもと先進国と途上国を二分するのではなく、各国が「能力に応じた削減」に取り組んでいくことが求められる。その際、貧困の撲滅等が最優先の課題となっている途上国においても、温室効果ガスの排出抑制に具体的に取り組めるよう、経済成長と実効的な削減行動を両立させる持続可能なアプローチが極めて重要となる。

各国の政治経済を取り巻く現状やこれまでの国連気候変動交渉に鑑みれば、全ての主要排出国が参加する真に実効ある国際枠組を構築する上で現実的かつ有効なアプローチは、コペンハーゲン合意で示されたボトムアップ型のプレッジ・アンド・レビュー方式#2である。また、各国の削減努力を相互に確認し、透明性および実効性を確保するため、適切なMRV(測定・報告・検証)の仕組みを確立し、実施していくことが肝要となる。

(2) 当面求められる取組み

こうした新しい枠組に、これまで削減義務を負ってこなかった新興国・途上国の参加を促すためには、当面、先進国が新興国・途上国を支援しつつ、参加に向けた環境を整備することが求められる。わが国としては、これまでの地域内・地域間での連携をさらに強化し、日本の技術・ノウハウ・経験を共有していくことが重要である。

例えば東アジア地域においては、米中印等の主要排出国も参加する「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」#3が発足し、資金・技術協力や人材育成を通じた低炭素成長の実現に向けた具体的な協力体制が整備されつつある。また、昨年のCOP17において、わが国政府は「アフリカ・グリーン成長戦略」を公表し、官民連携の下、アフリカ地域の低炭素成長と気候変動に強靱な開発に向けた具体的な支援を約束しているところである。わが国官民によるこうした取組みを通じて、途上国においても排出削減に向けたモメンタムが生じることを期待する。

加えて、新興国・途上国の取組みを促す上で、セクター別の具体的な技術・ノウハウを活用して協力していくことも有効な方策である。一例として、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)が発展的に改組された「エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ」(GSEP)では、参加国の官民が、セクター別に設置されたワーキング・グループのもと、新興国・途上国に対する技術・ノウハウ移転等を通じた協力に取り組んでいる。とりわけ中国やインド等は、電力部門における石炭火力発電所の比率が大きく、鉄鋼業やセメント業も成長していることから、鉄鋼、電力、セメントの各ワーキング・グループのリード国を務めるわが国がイニシアティブを発揮することによって、顕著な排出削減が期待できる。

4. 技術移転・資金協力に関して早期の具体化が求められる仕組みづくり

世界最高水準のエネルギー効率を誇るわが国産業界の技術・ノウハウ・製品が海外に広く普及・活用されれば、地球規模での温暖化防止に大きく貢献することが可能となる。政府には、わが国産業界のこうしたポテンシャルが十分に発揮されるとともに、わが国の国際的な貢献が適切に評価されるよう、以下に述べる多様な仕組みづくりを通じた支援を期待する。

(1) 二国間オフセットメカニズム

京都議定書のもと、途上国における削減を支援する仕組みとして導入されたクリーン開発メカニズム(CDM)は、手続きが硬直的で時間がかかるほか、CDM理事会における審査の際に、「CDMがなければ当該プロジェクトが実施されなかったこと」(追加性)の証明が厳密に求められる。このため、わが国が得意とする省エネプロジェクトが承認されにくく、温暖化対策に有効で、かつ各国の事情に応じた技術の普及には必ずしも適していないといった弊害が指摘されている。

こうした状況下、各国の事情にきめ細かく柔軟に対応した形で着実に排出削減が進められるよう、CDMの改善に取り組むと同時に、CDMを補完する観点から、日本政府が各国と協議を進めている二国間オフセットメカニズムのような新たな仕組みづくりに向けて取り組んでいくことが求められる。

二国間オフセットメカニズムについては、簡便性、客観性、実用性を確保することで、CDMの課題を克服することが期待される。現在、日本と相手国両国の政府で構成される合同委員会(Joint Committee)において方法論等を決定する方向で検討が進められているが、実際の排出削減に資する仕組みづくりのためには、個別の削減プロジェクトを実行する主体となる産業界の意見を十分に反映させることが不可欠である。こうした観点から、合同委員会の下に産業界も参画する組織("Sub Committee" 等)を設けることが必要である。また、プロジェクトの円滑な実施・運用に向け、現地企業のニーズも勘案したツーステップローン等につき、国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)が政策金融面で後押しすることも有効である。

さらに、二国間オフセットメカニズムに対する国際社会の理解を得るためにも、実行段階においてMRVの適切な実施により信頼性・透明性を確保するとともに、有望な案件を積極的に採用して実績を着実に積み上げていくことが極めて重要である。

(2) 技術面での協力

COP16でのカンクン合意によって「技術メカニズム」の設立が決定されたことを受け、現在、国連気候変動交渉において技術執行委員会(TEC)と気候技術センター・ネットワーク(CTCN)の仕組みづくりに向けた協議が行われている。これらは、排出削減や適応のための技術の開発と移転を促進するものであり、早期の具体化が期待される。

一方、技術移転を通じて途上国における排出削減に向けた取組みを促すためには、途上国の技術ニーズを適切に把握する必要がある。この点、今後、TECにおいて、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和策」(mitigation)および温暖化による影響や被害への対策を講じる「適応策」(adaptation)双方に関する技術マップを整備する際、途上国の技術ニーズを十分踏まえ、わが国が優位性を持つ具体的な技術#4が盛り込まれることを目指すとともに、CTCNの具体化に向け、官民で連携して取り組んでいくことが重要である。併せて、途上国において省エネ技術を習得・活用できる人材を育成することも求められる。

なお、技術を普及させるために知的財産の強制的な実施許諾や買取を行うべきとの提案が多くの途上国から出されているが、技術の開発促進や移転円滑化には知的財産権の適切な保護が不可欠であり、強制的な実施許諾や買取は行うべきではない。技術移転を促す環境整備の一環として、途上国において知的財産を実効ある形で保護する国内制度を構築することは、わけても重要である。

(3) 資金面での協力

途上国において、経済成長と排出抑制を同時に達成するには、省エネ・低炭素化プロジェクトを進めることが重要になる。カンクン合意で設立が決定され、さる8月下旬に第1回理事会が開催された「緑の気候基金」(GCF)#5は、こうしたプロジェクトを推進する梃子となることが期待される。GCFの制度設計に関しては、政府間協議が緒に就いたばかりであるが、GCFがその機能を十二分に発揮できるようにするためには、排出削減に関わる技術を実際に保有し、プロジェクトを実施する産業界の意見を反映させることが不可欠である。

この点、GCF理事会への民間セクターのオブザーバー参加を是とするGCF暫定事務局の決定を多としたい。オブザーバーの選出方法をめぐって検討が行われているところ、産業界の広範な意見を反映させることが必要であり、オブザーバーは産業界自身がセクター間で協議、選出するプロセスとすることが重要である。

わが国産業界としても、GCFを通じて途上国のニーズに即した低炭素プロジェクトが実施されるよう、積極的に協力していく所存である。

5. わが国中期目標に対する意見

敢えて言うまでもなく、わが国は、京都議定書の第二約束期間への参加の有無にかかわらず、2013年以降も手綱を緩めることなく、温暖化対策に主体的かつ積極的に取り組んでいく必要がある。

政府はさる9月14日、エネルギー・環境会議で「革新的エネルギー・環境戦略」を決定したが、「2030年代に原発稼働ゼロ」を掲げる同戦略は、産業空洞化の一層の進展を促すとともに、エネルギー安全保障、雇用、国民生活に深刻かつ甚大な悪影響を及ぼすことに加え、省エネや再生可能エネルギーの導入量の実現可能性をはじめ様々な問題がある。

政府は、現実的なエネルギー戦略を改めて作り直した上で、わが国の中期目標を検討すべきである。中期目標に関する検討を行う際には、国際的公平性、実現可能性、国民負担の妥当性を踏まえる必要がある(図4、図5参照)。

6. おわりに:低炭素社会の実現に向けた日本産業界の貢献

(1) 日本産業界の主体的な取組みの継続・強化

わが国産業界はこれまで、省エネ・排出削減に積極的に取り組み、多くの具体的成果を上げてきた。例えば経団連では、京都議定書の採択に先立つ1997年6月、環境自主行動計画を策定し、2008~2012年度の平均における産業・エネルギー転換部門からのCO2排出量を、1990年度レベル以下に抑制するよう努力することを統一目標として掲げ、参加業種は目標達成に向けて不断の努力を継続している。

2010年度の産業・エネルギー転換部門34業種のCO2排出量#6は、1990年度から12.3%減少した。この要因を分析すると、生産活動量の増加が5.0%の増加、生産活動量あたりCO2排出量の減少が15.8%の減少、CO2排出係数の減少が1.5%減少にそれぞれ寄与した。これは取りも直さず、各参加業種の原単位(CO2効率)改善努力が排出削減の原動力となっていることを示すものである(表2参照)。

経団連では、京都議定書第一約束期間終了後の2013年以降も、産業界の主体的かつ積極的な取組みとして、「低炭素社会実行計画」(2009年12月基本方針策定)のもと、世界最高水準の低炭素・省エネ技術の開発・実用化をさらに進めることで、地球規模の排出削減に貢献していく決意である。同計画への参加業種は、世界最高水準の低炭素技術やエネルギー効率の維持・向上を社会に公約し、(1)国内の企業活動における2020年の削減目標の設定、(2)主体間連携の強化、(3)国際貢献の推進、(4)革新的技術の開発、の4本柱に基づき実行計画を策定すると同時に、経団連は、透明性・信頼性の高いPDCAサイクルを実施していく(図6参照)。

(2) 産業界の自主的な取組みを後押しするために不可欠な政策

わが国産業界が持つ強みを発揮して地球規模の低炭素成長に貢献するためには、低炭素社会実行計画を通じて、既存の最先端の技術(BAT:Best Available Technologies)の最大限の導入に取り組むとともに、革新的な技術の開発に取り組むことが不可欠である。さらに、二国間オフセットメカニズムの適切な制度設計や研究開発税制の拡充等により政策面での後押しを得られれば、わが国のグリーン・イノベーションが推進されると期待される。

一方、省エネが進み排出量削減余地が少ないわが国において、生産・経済活動に制約を課す国内排出量取引制度などの政策は、国民生活や雇用、産業競争力に多大な影響を与える。また、炭素リーケージの招来や、革新的技術の開発や普及のための原資を奪うなど、様々な問題がある。研究開発の原資を失い、優れた省エネ・低炭素技術の導入を妨げる政策はイノベーションの阻害要因となり、地球規模での温暖化対策に逆行するため、導入すべきではない。政府には、わが国の優れた技術を活かして世界全体での温室効果ガス削減に資する国際枠組の在り方を提案するなど、地球規模の低炭素社会の実現に向けて積極的なイニシアティブを期待したい。

産業界としても、世界最高水準の省エネ・低炭素技術に磨きをかけるとともに、BizMEF#7(エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国ビジネスフォーラム)など、産業界の国際連携を進め、地球規模の排出削減に向けた具体的な行動に一層取り組んでいく所存である。

以上

  1. クロロフルオロカーボン(CFCs)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFCs)等の温室効果があるフロンは、わが国ではフロン回収破壊法(「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律」)のもとで対応が進められたが、京都議定書では対象外とされている。海外ではフロンの大気放出により、CO2換算で年間20億トン超の温室効果ガスが排出されているとの推計(IPCC/TEAP Special Report: Safeguarding the Ozone Layer and the Global Climate System)もある。
  2. 参加各国が自発的に削減目標・行動計画を提出、誓約(pledge)し、目標達成に向けた取組みの状況を国際的に検証(review)する仕組み。COP15(2009年 於コペンハーゲン)で提案され、COP16(2010年 於カンクン)でCOP決定に至った「コペンハーゲン合意」には、米中を含め、世界の排出量の8割以上をカバーする国々が参加し、各々の削減目標・行動が国連に提出されているところ。
  3. 2012年4月、ASEAN10カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インド、米国、ロシアの18カ国が参加し、第1回会合を東京で開催。
  4. 2012年9月上旬にタイ・バンコクで開催されたTEC第4回委員会では、日本政府代表団より、点滴灌漑や斜面災害防災、塩害対応等、わが国企業の具体的な技術が紹介され、国際的にも高く評価されたところ。
  5. 気候変動の影響に脆弱な発展途上国のニーズに配慮しながら、途上国による温室効果ガス排出削減や気候変動の影響に対する適応を支援するため、COP16で採択されたカンクン合意によって設立が合意された新たな基金。気候変動枠組条約のもと24名(先進国から12名、途上国から12名)からなる理事会によって運営。理事会を支える事務局は、独立した事務局が設置されるまでの間、「地球環境ファシリティ」(GEF:Global Environment Facility。地球環境に関する最大の公的基金)の気候変動枠組条約事務局が暫定的に担当。
  6. 2011年度フォローアップ調査に参加した産業・エネルギー転換部門34業種からのCO2排出量は、基準年の1990年度において、わが国全体の約44%、産業・エネルギー転換部門の排出量の約83%に相当。
  7. Major Economies Business Forum on Energy Security and Climate Change(エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国ビジネスフォーラム)の通称。2009年秋に立ち上げられ、米国、英国、イタリア、EU、インド、ケニア、豪州、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、トルコ、日本、ニュージーランド、ブラジル、フランス、南アフリカ、メキシコの主要経済団体が参加するパートナーシップ。日本からは経団連が参加。