Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  エネルギー政策の再構築を求める

2012年12月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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1.はじめに

  1. (1) エネルギーは、国民生活や事業活動の基盤である。政府には、昨年の福島第一原子力発電所事故の教訓を十分活かし、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安全保障(安定供給)、経済性、環境適合性(S+3E)のバランスのとれた、責任ある政策の立案が求められる。エネルギー政策が経済成長の制約要因となってはならない。
    しかし、最近の政府の政策に産業界は強い危惧を抱いている。

  2. (2) 足元では、大震災を契機とする電力不足は未だ解消の見通しが立たず、需給ひっ迫期の度に大幅な節電を余儀なくされている。また、原子力発電所の停止に伴う火力発電の焚き増しは、電力料金の上昇要因となるとともに、年間数兆円規模の国富を流出させ、経常収支を大きく悪化させている。

  3. (3) 中長期のエネルギー政策については、本年9月にエネルギー・環境会議が策定した「革新的エネルギー・環境戦略」は極めて問題が多い。
    例えば、再生可能エネルギーや省エネルギー等の導入について、量・コストの両面で過度に楽観的な見通しを立てている。こうしたなかで、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指した政策を強引に進めれば、電力料金の大幅上昇や供給不安を招くことは明らかである。これでは、企業の競争力を奪い、雇用の喪失をもたらすなど、経済、社会への打撃は避けられない。
    また、原子力のオプションの放棄は、化石燃料への依存度を高めることにつながり、資源に乏しいわが国のエネルギー安全保障や地球温暖化防止の観点から問題である。同時に、原子力平和利用のパートナーとして日本を支えてきた米国との関係に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

  4. (4) 産業界は、激化するグローバル競争の中にあっても、国内での産業や雇用を維持すべく、懸命な努力を続けている。しかし、電力の供給不安や価格上昇圧力は、既に国内での事業活動の大きな足かせとなっており、このままでは産業や雇用の空洞化に一層拍車がかかることが避けられない。
    政府は、以下の通り、エネルギー政策を抜本的に再構築すべきである。

2.当面のエネルギー政策について

  1. (1) 本年度内に、来夏の電力需給見通しと対策をまず明らかにする必要がある。
    そのうえで、企業が安心して国内での生産や投資計画を立てられるよう、今後3年~5年程度の電力の安定供給確保の具体的方策と工程表を早急に明示すべきである。

  2. (2) 電力の供給不安を解消し、価格上昇圧力を抑制するためには、安全性の確認された原子力発電所を地元自治体の理解を得て再稼働していく必要がある。しかし、政府は再稼働の必要性を表明しながら#1、その具体的な道筋を明らかにしていない。このことが、政府の姿勢に対する国民や立地自治体の不信感につながっている。
    政府は、再稼働に向けた道筋を早急に明示すべきである。そのうえで、政府、原子力規制委員会および電気事業者の適切な役割分担と連携の下、安全性確保を大前提に、可能な限り再稼働プロセスの加速化が求められる。
    また、電気事業者のみならず、政府、原子力規制委員会が、安全性や再稼働の必要性等について、国民や各立地自治体の理解を得られるようしっかりと説明する必要がある。

  3. (3) 再生可能エネルギーの開発・普及は重要であるが、同時に国民生活や企業活動への影響を可能な限り小さくする必要がある。
    こうした観点から、現行の固定価格買取制度は、制度上問題が多い。上昇基調にある電力価格の更なる押し上げ要因であるばかりでなく、技術革新の阻害要因となる。先行して導入された欧州でも、国民負担の急増などから、制度の大幅な修正が進んでいる。このまま放置すれば、わが国においても国民負担が加速度的に増大することは明らかであり、早急な見直しが求められる。同様に、エネルギー価格を上昇させる地球温暖化対策税も、課税の廃止を含め再検討すべきである。

3.中長期のエネルギー政策について

  1. (1) 冒頭述べた通り、現在の「革新的エネルギー・環境戦略」は、極めて多くの問題を抱えている。省エネルギーや再生可能エネルギー等については、国民負担の妥当性も十分検証しながら、現実的な導入可能量を改めて精査する必要がある#2。そのうえで、原子力を含む多様なエネルギー源の維持の観点に立ち、「S+3E」の適切なバランスが確保されるエネルギーミックスのあり方について、時間をかけてゼロベースで議論し直し、新たなエネルギー基本計画を策定すべきである。
    また、温暖化政策については、エネルギー政策との整合性を確保しながら抜本的に見直す必要がある。

  2. (2) 各エネルギー源については、以下の施策が求められる。

    1. 原子力は、安全性の確保を大前提に、引き続きベース電源として活用していくべきである。そのため、新たな原子力規制委員会の下、官民が協力して国民や国際社会の信頼回復を図ることが重要である。
      併せて、放射性廃棄物の処理のあり方等について、国が責任をもって検討していく必要がある。
      また、多様なエネルギー源維持を通じた電力の安定供給確保等の観点から、原子力損害賠償支援機構法の附則#3を踏まえ、国や事業者の責任のあり方などの原子力損害賠償法改正の検討を着実に進めるべきである。

    2. 石炭等の火力発電は、安価で安定的な電源として引き続き活用していく必要がある。そのため、環境アセスメントをできる限り合理化#4するとともに、一層の高効率化・低炭素化を目指し、研究開発や実証、実用化に向けた取組み#5を強化する必要がある。
      併せて、化石燃料の安定供給の確保等に向け、海外権益の確保、価格交渉力の強化などに官民が一体となって取組むことが求められる。

    3. 再生可能エネルギーについては、高コストの機器の普及を急ぐのではなく、非効率、不安定といった弱点の克服に官民のリソースを集中すべきである。そこで、規制緩和を着実に進めるとともに、例えば発電効率等に関する目標を官民で共有し、重点的に研究開発を進めるべきである。
      また、安定化に不可欠な蓄電池の研究開発、スマートグリッドの実証や標準化にも注力する必要がある。

    4. 省エネルギーについては、技術に裏付けられた適切な省エネ基準の設定、省エネ機器・設備の普及促進策、研究開発促進税制の拡充などの支援策を検討すべきである。また、節電や省エネ機器への買い替え等が進むよう、国民運動を推進していくことも重要である。

4.今後のエネルギー政策の検討に向けて

「革新的エネルギー・環境戦略」策定時に行われた、いわゆる「国民的議論」では、エネルギー政策の各選択肢について、十分な情報が国民にわかりやすく提示されたとはいえない#6

今後の検討にあたっては、国民生活や企業活動に与えるマイナスの影響も含め全ての重要な情報を明らかにしたうえで、十分な時間をかけて議論を進めるべきである。また、全会議の議事録を開示するなど政府の決定プロセスの透明化を図る必要がある。

エネルギー戦略は、国家戦略そのものである。長期的かつ大局的見地に立って、最後は政治が責任をもって決定するよう強く求めたい。

以上

  1. 「革新的エネルギー・環境戦略」は、「安全性が確認された原発は、これを重要電源として活用する」とする。
  2. 特に再生可能エネルギーについては、バックアップ電源、送配電網や蓄電池整備の費用も含めたコストの全体像が明らかにされる必要がある。
  3. 昨年8月に施行された同法の附則第6条第1項は、「法律の施行後できるだけ早期に、…賠償法の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずる」とする。なお、「できるだけ早期に」とは、法案の附帯決議によれば、「1年を目途」とされる。
  4. 環境アセスメントに関し、火力発電所のリプレースにおける手続きの簡素化については、今般進展が見られたところである(11月27日「発電所設置の際の環境アセスメントの迅速化等を検討するための連絡会議」中間報告)。CO2排出に係る審査の適正化についても、検討が必要である。
  5. 例えば、超超臨界技術の実証、CCS(炭素の回収・貯留)の実用化等が重要である。
  6. 原発をゼロとする場合の問題点についても国民的議論が終わった後に明らかにされた。