Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  攻めの地球温暖化外交戦略への提言

2013年7月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

攻めの地球温暖化外交戦略への提言【概要】

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1.はじめに

  1. (1) 経団連は、1997年から自主行動計画のもと主体的に温暖化対策に取り組み、省エネやCO2排出削減に多くの成果を上げた。本年1月17日には、自主行動計画をさらに進化させた低炭素社会実行計画 #1を策定し、2050年の世界の温室効果ガス半減目標に技術で貢献すべく、新たな活動を開始したところである。

    実行計画の参加業種は、世界最高水準の低炭素技術やエネルギー効率の維持・向上を図りながら、途上国への技術移転など国際貢献の推進や革新的技術の開発をも進めている。産業界は、実行計画の着実な実行を通じ、引き続き地球温暖化問題の解決に向け世界をリードしていく。

  2. (2) 昨年末に発足した安倍政権は、本年1月25日、COP19までに「25%削減目標をゼロベースで見直すとともに、技術で世界に貢献する攻めの地球温暖化外交戦略」を策定することを表明した。加えて、6月14日に閣議決定された日本再興戦略では、二国間オフセットの本格的導入や、新たな環境エネルギー技術革新計画の策定に関する方針が明記された。

    また、エネルギー政策に関しても前政権のエネルギー・環境戦略をゼロベースで見直し、責任あるエネルギー政策を構築することが表明されている。わが国の温室効果ガスの約9割はエネルギー起源CO2であり、温暖化対策はエネルギー政策との整合性を確保する必要がある。

  3. (3) 攻めの地球温暖化外交戦略が、産業界が進めている実行計画と有機的に連携していくことを強く期待し、以下の通り提言する。

2.基本的な考え方

  1. (1) 温暖化防止は、長期的かつグローバルに取り組むべき課題である。全ての主要排出国が長期にわたり温暖化防止にコミットしていくためには、経済成長との両立が不可欠であり、その鍵を握るのは優れた技術である。

    最先端の省エネ・低炭素型の技術(BAT:Best Available Technologies)の最大限の普及とともに、大幅な排出削減を可能とする革新的技術の開発・実用化に取り組むことで、各国が持続的な発展を目指しながら、温室効果ガスを大きく削減することが可能となる。

  2. (2) わが国の産業界が開発してきた優れた技術・製品・ノウハウが広く海外に普及することで、各国のエネルギー効率が改善し、低炭素・省資源化が進み、地球規模での温暖化対策に貢献できる#2

    また、わが国産業界は、気候変動がもたらす様々な影響への適応に関しても優れた技術を有しており、途上国への積極的な支援が求められる。

    こうした取組みは、日本企業の海外でのビジネス拡大につながるものであり、政府が最重要課題として掲げる日本経済の再生にも資する。

3.日本の省エネ・低炭素型の技術・製品の普及に向けた方策

(1) 優れた技術が国際的に普及するための環境整備

わが国が誇る優れた技術・製品の普及にあたっては、環境性能を適切に評価する仕組みが重要な鍵を握る。この点、わが国が有する技術・製品の環境性能に関する国際的な認知度を高めつつ、透明性・信頼性の高い評価の仕組みの構築に取り組むことが有効である#3

加えて、環境物品等の貿易障壁の撤廃に向けた国際的な取組みも重要である。2012年のAPEC首脳会議において、2015年末までに54品目の実行関税率を5%以下に削減することが合意されたことは重要な進展であり、今後、一層の環境物品等の貿易自由化努力が求められる。

(2) 新興国・途上国の低炭素化に向けた働きかけ

新興国・途上国における低炭素化を支援する観点からは、受入国側の体制整備が欠かせない。政府には、日本の経験、ノウハウを活かしつつ、以下に取り組むことが求められる。

(ア)受入国側の国内制度整備
  • 合理的な環境基準の設定(トップランナー制度等)
  • 優良事例の認定制度(ラベリング等)の構築
  • 省エネ性能の高い製品の開発・普及に向けた税制面での優遇、補助金の拠出
  • グリーン購入、一定の排出基準や稼働性能の入札条件化
  • 循環型システムの構築#4
(イ)受入国における普及啓発活動
  • 受入国の企業や市民を対象としたセミナーやイベントの開催
  • 受入国政府関係者のキャパシティ・ビルディングの支援
  • ウェブサイト等を通じた省エネ効果の見える化

なお、技術移転・開発を促す上で、知的財産の実効ある保護が不可欠である。現在、国連では途上国に対する技術移転の促進に関する議論が行われているが、知財の適切な保護を前提とした制度となることが必要である。

(3) 二国間オフセット・メカニズムの促進

  1. 世界最高水準のわが国の技術を通じた国際貢献を実現する上で、二国間オフセット・メカニズムは有効なツールとなる。
    同メカニズムへの国際社会の理解・認知を促進するためには、MRV(測定・報告・検証)の適切な実施が欠かせない。既に二国間文書を署名した国との間で同メカニズムの具体化に向け合同委員会の開催等が行われているが、今後透明性の高い仕組みが構築されていくことを期待する。

  2. また、実際の排出削減プロジェクトを実行する主体となる産業界の意見を十分に反映させる観点から、今後、合同委員会の下に産業界も参画する場を設けることが求められる。

  3. 経団連の二国間オフセット・メカニズムに関するアンケート結果(2013年4月16日)#5を踏まえ、政府には、以下の取組みを求める。

    (ア)有望国(ASEAN諸国やインド等)との交渉の加速・早期締結
    (イ)有望案件の発掘に向けたFS(実現可能性調査)事業の充実、実証事業の着実な実施
    (ウ)技術導入を促進する資金面での支援制度の整備・拡充(以下、例)
    • 円借款をはじめとするODAの活用
    • JBIC・JICAの低金利融資制度の活用拡大
    • NEDOによる実証支援の整備・拡充
    (エ)対象国の人材育成・能力開発の支援
  4. 現行のCDMは、省エネ技術など温暖化対策に効果があるにもかかわらず認証されにくい、プロジェクト認証に時間を要するなどの問題がある。現在、国連において、二国間オフセットを含む様々なアプローチに関して議論が行われているが、透明性・信頼性・環境十全性を確保した上で、二国間オフセットが可能な限り柔軟で活用しやすい制度として位置付けられるよう、政府は交渉を進める必要がある。

  5. なお、二国間オフセットは、海外において具体的にCO2を削減するとともに、日本の貢献分を適切に評価するための枠組みであり、クレジットの創出・取引が本来の目的ではない。また、削減ポテンシャルは計算できても、実際にどの程度の削減が行われるかについては、受入国側の問題もあり、定量化が困難である。二国間オフセットによる削減量については、わが国の中期削減目標とは切り離し補完的なものと位置付けるべきである。

4.革新的技術の開発

  1. (1) 世界の温室効果ガスの2050年半減という国際社会の野心的な目標を、途上国を巻き込んで実現するためには、既存のBATの最大限導入と併せて、ブレークスルーとなる革新的技術の開発・実用化が不可欠である。わが国が常に新たなBATを生み出し続けるトップランナーであるためにも、革新的技術を開発・普及させ、得られた利益を新たな技術開発につなげていくという技術創造サイクルを確立する必要がある。

  2. (2) ただし革新的技術には、基礎研究から開発・実用化までに長い期間と巨額の費用を要するものが多く、個々の企業や産業で全てのリスクを負うことは困難である。政府には、技術開発に向けた工程表を産業界と共有するとともに、政府の研究開発投資を重点分野に集中的に行うことが求められる。また、企業の研究開発への投資を促すために、研究開発促進税制をさらに拡充すべきである。加えて、企業が実証実験に取り組みやすい環境を整備することも必要である。

  3. (3) 経団連は近く、エネルギー・低炭素関連技術に関するアンケート結果をまとめる予定である#6。政府には、技術の担い手である産業界の意見を踏まえた着実な取組みが求められる。

5.2020年以降の将来枠組のあり方

  1. (1) 全ての国に適用される2020年以降の将来枠組において、経済成長と温暖化対策の両立のもと、各国の国情を踏まえた最大限の取組みを促す観点から、低炭素社会実行計画のように、BATの最大限導入を前提とする目標設定を行うボトムアップ方式が有効である。

  2. (2) このため、経団連は、各国が自発的に削減目標・行動計画を提出・誓約(pledge)し、目標達成に向けた取組みを国際的に検証(review)するプレッジ・アンド・レビュー方式を提唱するとともに、透明性・信頼性を確保する観点から、MRV(測定・報告・検証)の適切な実施が極めて重要であると主張してきた。

    最近の国連交渉では、各国が目標・対策を自己決定して国連に提出し、国際的にレビューする仕組みが先進国の支持を集めている。途上国や新興国の中で排出量の多い国や能力を有する国が先進国と同様の削減に取り組むことを促す観点からも、各国の自主性を重んじる考え方を軸に具体的な検討が進められることを期待したい。

  3. (3) なお、世界経済が複雑にリンクし、交易が活発化していく中で実効的な温暖化対策を講じる観点からは、国別目標だけに捉われるのではなく、産業・経済セクター別の対策を促して世界横断的にエネルギー効率を向上させたり、製品のライフサイクルを通じた温室効果ガス削減を評価する多面的な視点も重要となる。

6.おわりに

  1. (1) われわれは「行動する経団連」として、低炭素社会実行計画を通じて、国内での排出削減のみならず、途上国支援や革新的技術の開発にも積極的に取り組み、地球規模での温室効果ガス削減に貢献していく。

  2. (2) 官民の連携により、わが国の経済成長、途上国支援等の国際貢献、そして地球規模での温暖化対策が一体的に実現するよう、政府には、実効性ある攻めの地球温暖化外交戦略の策定を期待したい。

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/003_honbun.pdf 参照。
  2. 例えば、日本で運転中の最新式石炭火力発電の効率を米中印の石炭火力発電所に適用すれば約13億トンのCO2削減効果があると試算されている。また、鉄鋼業界ではIEAが省エネ技術の国際的な移転・普及による削減ポテンシャルは約4億トン、化学業界では日本の技術・製品の削減ポテンシャルは約3億トンと試算している。この他、次世代自動車やインバ―タ・エアコン、安全性を高めた原発等をはじめ、日本産業界の省エネ技術・製品・サービスが地球規模での温暖化対策に貢献できる事例は数多く存在する。
  3. 例えば、日本鉄鋼連盟は、製鉄所の生産工程におけるCO2効率に関し、最先端を行くわが国の取組みを適切に評価する評価手法の国際規格(ISO化)を提案・推進し、本年3月に「鉄鋼CO2排出量・原単位計算方法」(ISO14404)が世界に先駆けて発行された。
  4. 排熱利用、廃棄物やバイオマスの代替エネルギーとしての利用、HFC/CFCの処理等。
  5. http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/036.pdf 参照。
  6. http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/069.html 参照。