Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー  新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた意見

2014年1月6日
一般社団法人 日本経済団体連合会
資源・エネルギー対策委員会 企画部会

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1.エネルギー政策に関する基本的考え方

わが国が、震災からの本格的な復興、財政再建、少子高齢化などの諸課題を解決しながら、豊かで安心・安全な国民生活を実現するためには、成長戦略の実現が不可欠であり、経済活動の基盤であるエネルギーが、安全性を大前提に、経済性のある価格で安定的に確保されなければならない。また、人類共通の重要な課題である地球温暖化防止への取組みも、経済との両立を図りながら着実に進める必要がある。

こうしたことから経団連ではかねてより、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安全保障(安定供給)、経済性、環境適合性(「S+3E」)の適切なバランスが確保された、現実的で責任あるエネルギー政策を求めてきた。

しかしながら、震災を契機とする電力の供給不安は未だ解消されず、企業の投資意欲の抑制要因となっている。また、原子力発電所の停止に伴う火力発電の焚き増しコストは今年度3.6兆円に及ぶと試算され、これが、国富を海外に流出させるとともに電力料金の上昇をもたらし、産業競争力や経済成長の足かせとなっている。加えて、こうした状況が続けば、わが国の金融や財政に深刻な影響を及ぼすことも強く懸念される。

こうした中、分科会意見は、基本的視点として、「エネルギー政策の要諦は、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、最小の経済負担で実現することである。あわせて、エネルギー供給に伴って発生する環境負荷を可能な限り抑制するよう、最大限の取組を行うことが重要」としたうえで、国際的な視点(原子力の平和利用、地球温暖化対策、安定供給等)および経済成長の視点の重要性を強調している。こうした考えは、我々と軌を一にするものであり高く評価できる。

新たなエネルギー基本計画が、こうした基本的視点に立脚した形で策定され、成長戦略の実現に資するものとなることを強く期待する。特に、基本計画の前提となる将来の具体的なエネルギー需要を見通すにあたっては、成長戦略との整合性を確保する必要がある。

2.原子力

(1) 再稼働プロセスの加速化

回復軌道に乗り始めた日本経済を本格的な成長へ確実に導くうえで、安価・安定的なエネルギーの確保が肝要となる。企業が安心して生産・投資計画を立てられるよう、今後3年~5年程度の経済性ある価格での電力の安定供給確保に向けた具体的な道筋を政府は明示する必要がある。

そのためには、分科会意見で述べられている「安全性が確認された原子力発電所の再稼働」のプロセスを、可能な限り加速化させる必要がある。そこで、原子力規制委員会による効率的な安全審査とともに、安全性が確認された原発については、再稼働に向け地元自治体の理解を得られるよう、政府および原子力規制委員会による丁寧な説明が求められる。

(2) 位置付けおよび具体的施策

経団連ではかねてより、被災地の復興なくして日本経済の再活性化はないとの考えの下、特に原子力事故によって大きな被害を被った福島の再生・復興に向け、汚染水対策や除染等に国がより積極的な役割を果たすことの重要性を指摘してきた。

分科会意見は、福島の再生・復興をエネルギー政策の再構築の出発点と位置付け、廃炉・汚染水対策、除染等を政府の最優先課題として全力で取組む姿勢を打ち出した。今後、国が前面に立って、その確実な実施に取組むことが極めて重要である。

また、分科会意見は、原子力を「安全性の確保を大前提に引き続き活用していく、エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置付けるとともに、「必要とされる(原子力の)規模を十分に見極めて、その規模を確保する」としているが、エネルギー安全保障や経済性、温暖化対策の観点から、高く評価できる。最新の原子炉は、技術的により高い安全性を備えたものとなっており、今後、エネルギーミックスの策定にあたっては、こうした原子炉へのリプレース等も視野に入れて、具体化していくことが強く求められる。

加えて、原子力を、基盤となる重要なベース電源として活用していくための環境整備として、(a)電力システム改革下における原子力事業者による電力の安定供給を可能する事業環境整備、(b)原子力損害賠償制度の見直し、(c)国が前面に立った使用済み核燃料対策の抜本的強化および核燃料サイクルの着実な推進等を確実に行っていくことが重要である。とりわけ、国民の関心が高い高レベル放射性廃棄物の最終処分については、分科会意見にあるように、将来世代に負担を先送りしないよう、国が前面に立って取組む必要がある。

2018年には、日米原子力協定の有効期間が終了する。日米原子力協定を円滑に延長し、わが国が原子力の平和利用に引き続き貢献していくためにも、エネルギー政策の中に原子力の堅持を明確に位置付けるとともに、核燃料サイクルを着実に推進していくことが重要である。

3.化石燃料

石炭等の化石燃料は、経済性および出力安定性の点で相対的に優れており、資源確保やCO2排出面での課題解決に取組みながら、引き続き有効活用していく必要がある。

そこで、分科会意見に明記されているように、石炭火力発電所に係る環境アセスメントの期間短縮等の円滑化、資源外交や国内資源開発の強化、火力発電等の一層の高効率化・低炭素化に向けた研究開発に、引き続き着実に取組むことが重要である。

また、経済との両立を図りながら、温暖化問題を解決するためには、地球規模での化石燃料の高効率利用を進めていく必要がある。わが国企業はこの分野で優れた技術を有しており、政府は、こうした技術の途上国への普及に向けた支援等に取組むべきである。

4.再生可能エネルギー

(1) 総論

再生可能エネルギーは、エネルギーの安全保障や地球温暖化防止の観点から極めて高いポテンシャルを有する重要なエネルギーであるが、現時点では、効率性・安定性・経済性等において課題がある。

分科会意見は、「今後3年程度、再生可能エネルギーの導入を最大限加速化していく…規制の合理化、低コスト化の研究開発等を着実に進める」としているが、高コストで出力が不安定な現在の技術水準の再生可能エネルギーの普及を余り急ぐべきではない。むしろ、低コスト化等の研究開発に官民の資源を集中すべきである。

(2) 固定価格買取制度

固定価格買取制度については、将来の国民負担増やイノベーションの阻害等の多くの問題が指摘されている。分科会意見が「コスト負担増や系統強化等の課題を含め諸外国の状況等も参考に、…エネルギー基本計画改定に伴いそのあり方を総合的に検討する」と明記していることを歓迎する。これを踏まえ、早急に制度の抜本的な見直しを行うべきである。

5.電力システム改革

エネルギー政策の大きな目的は、良質な電力の経済性のある価格での安定供給確保であり、電力システム改革は、こうした目的の実現に貢献するものでなければならない。

発送電分離等については、電源投資の抑制や調整電源不足に伴う供給不安といった分科会意見で指摘されている懸念に加え、電力料金の抑制、災害時の安定供給確保、金融市場の混乱回避といった課題がある。そこで、エネルギー政策の目的を確実に達成するため、諸外国の経験を踏まえ丹念な検討が必要である。その際、発送電分離等の電力システム改革が、電力システムの効率性や電力料金等に与える影響について、具体的な分析を行い、経済性ある価格での安定供給がどのように実現されるのか、国民および産業界に対してわかりやすく示すべきである。

6.省エネルギー

分科会意見が、既に高い省エネを達成している産業部門については、省エネ設備投資に対する支援、製造プロセスの改善等を含む省エネ改修に対する支援等の施策を講じ、企業の自主的取組みを後押しする政策を進めるとしている点を評価する。こうした考え方に沿って、政府には、活力を削ぐ規制や負担を企業に課すのではなく、投資減税等の省エネ機器・設備の普及促進策の推進、研究開発税制の拡充や実証研究の支援等の充実を求めたい。

7.国際貢献・技術開発

エネルギー安全保障(安定供給)、経済成長、温室効果ガスの削減という三つの課題を解決するうえで、革新的技術の開発を進めるとともに、その地球規模の普及を進めていく必要がある。

分科会意見が、エネルギー関連技術の開発に際して、課題や目標、時間軸等を明確化した様々なプロジェクトを全体として総合的に進めるためのロードマップを来年夏までに策定するとし、具体的な方針を示していることは重要である。その際、化石燃料の有限性や地球温暖化問題等のリスクをも視野に入れ、長期的な観点から必要な技術開発を着実に進めていくべきである。

また、わが国が有するエネルギー関連先端技術の新興国等への導入を通じた国際貢献の重要性を指摘したうえで、二国間オフセット・メカニズムを積極的に活用するとしていることも評価できる。

以上のような取組みが、産業界と連携を強化しながら、着実に進められることを強く期待したい。

8.エネルギーミックスと温室効果ガス削減目標

今後検討されるエネルギーミックスは、具体的な施策に裏打ちされた実現可能なものでなければならない。また、国民負担やエネルギーコストへの影響を明らかにすることで、その妥当性を十分検証する必要がある。

なお、地球温暖化対策に係るわが国の温室効果ガス削減目標は、エネルギーミックスと整合的なものとするとともに、国際的公平性を確保すべきである。

以上