Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業  第5次出入国管理基本計画策定に向けた意見

2014年11月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

I.基本認識

経団連では従前より累次の提言において、わが国の経済社会の活性化に向けて多様な価値観や経験・ノウハウ、斬新な発想を取り入れるために、専門的・技術的分野をはじめとする幅広い外国人材の積極的な受入れを提言してきた。わが国政府においても、専門的・技術的分野における外国人材の受入れを中心に、高度人材ポイント制の導入・拡充、企業人や留学生等に係る在留資格の見直し・手続きの簡素化を推進したほか、外国人技能実習制度の見直し、国際交流の推進、新たな在留管理制度の導入等、様々な改革を推進しており、経済界としてかかる取組みを評価するところである。

2010年3月の第4次出入国管理基本計画の策定以降もわが国経済社会を取り巻く環境は刻々と変化している。経済社会のグローバル化、ナレッジ化が一層進展する中、企業のみならず、主要国は自国に必要な人材の獲得に凌ぎを削っている。しかしながら、わが国が求める外国人材にとってわが国はもはやより魅力的な滞在先・就労先とは必ずしも認識されておらず、人材獲得競争に乗り遅れていると言わざるを得ない。日本再興の途上にあり、また、本格的な人口減少社会を迎えるわが国にとって外国人材の受入れは、従来以上に国を挙げて取り組むべき重要な課題となっている。かかる観点から、現在策定中の第5次出入国管理基本計画においては、以下の諸点を踏まえ、積極的な施策を展開することが強く期待される。

第1に、わが国経済社会の活性化に資する幅広い人材の一層積極的な受入れ・呼び込みである。イノベーションの創出とグローバルな成長の取込みに向け、優秀な外国人材にわが国を選んでもらえるよう高度人材にかかる各種措置を充実させるとともに、留学生の受入れ拡大と就労促進、わが国経済活動を支える技能人材の受入れ、企業のグローバル・オペレーションの円滑化、外国人技能実習制度の適正な利活用拡大等に取り組む必要がある。同時に、わが国における消費需要を喚起すべく、観光客やビジネスパーソン等の一時滞在を促進するための方策も求められる。

第2に、長期的観点からの、本格的な人口減少社会の到来や産業構造の変化を見据えた外国人の受入れの推進である。人口減少問題はもはや待ったなしの状況にある。生産性の向上や、女性や高齢者の就労促進、少子化対策等、人口減少問題への対応に向けた総合的な取組みの推進が前提にあることは論を俟たないが、こうした取組みを講じ国内人材を最大限活用してもなお労働力が不足する分野については、外国人材で必要数を充足するほかない。経団連はかねてより「日本型移民政策」の検討を提言しており#1、「『日本再興戦略』改訂2014」(2014年6月24日閣議決定)で掲げた中長期的な外国人材の受入れのあり方について、議論を先送りにすることなく、検討の場を早期に設置して総合的な検討に速やかに着手し、国民的なコンセンサスを形成しつつ、受入れの基本方針を明確化すべきである。

第3に、外国人の社会統合を含む共生社会の構築である。豊かな国民生活の実現に向け、政府・企業・国民が一体となって、生活や就労に係る各種インフラ、制度、サービス、コミュニティ等を創り、国籍の垣根を越えて、人々が安心して快適に暮らせる社会の構築を目指す必要がある。そこには、外国人の不法滞在の縮減はもとより、外国人の人権の保護や難民の適切な受入れ等、国として果たすべき責務を遂行することも当然含まれる。また、わが国にとり外国人の受入れ拡大が不可避である中、受入れに伴う社会的コストを最小化する方途や負担のあり方を早急に検討する必要がある。

外国人材の受入れ推進には、出入国管理行政のみならず、府省横断的な総合的な取組みが求められる。法務省をはじめ関係府省が一丸となってこの国家的課題に有機的に連携し取り組むことを期待する。

II.各論

1.高度人材の受入れに向けた課題

(1)全体

以下の点を考慮し、政府は高度人材#2の受入れ推進の強化に引き続き積極的に取り組むべきである。

  1. 高度人材ポイント制の更なる拡充
    2013年12月に、高度人材ポイント制度の見直しが行われ、高度人材の認定要件及び優遇措置の適用要件の緩和が図られた。また、2014年6月の入管法改正を受け、ポイント制利用者のために新たに創設された在留資格「高度専門職」については、所要の措置を経て、永住許可に必要な在留歴を5年から3年に短縮することが目指されている。
    「『日本再興戦略』改訂2014」では、「2017年末までに5,000人の高度人材認定を目指す」とのKPIが設定されており、その実現に向けて、本制度の活用状況を定期的に把握し、制度の認定要件や優遇措置の内容等に関する不断の見直しが求められる。その一環として、まず、依然としてポイント制の認知度が決して高くはないとの指摘もあることから、引き続きわが国で就労するあるいはわが国での就労を希望する高度外国人材ならびに日本企業への制度の周知を強化する必要がある。
    また、優遇措置の活用にあたり、「適用基準が不明確」「ポイントが未充足」「活用したい優遇措置がない」「手続きが煩雑」などを理由に制度活用に至らなかった事例もあったとの意見も聞かれる。優遇措置の拡充(年齢に応じた報酬要件の緩和、配偶者の就労支援拡充、社会保険加入の免除等)と手続きの簡素化(ポイント充足を示す疎明資料の削減等)両面への取組みを通じて、制度の使い勝手の向上を図るべきである。
    なお、現行のポイント制では、ボーナスポイントのひとつとして日本語能力を高く評価する算定方法が採用されている。しかし、中には日本語を必ずしも必要としない、あるいは、他国言語における高度な能力が求められる職場で働く高度人材もいる。例えば、日本語以外の言語能力もボーナスポイントの付与対象とすることで、より多様な高度人材を適正に評価できるだけでなく、ポイント制の潜在的利用者の拡大やわが国社会の国際化の促進に資すると考えられる。

  2. 入管政策・制度上の課題
    2012年7月から新たな在留管理制度が施行され、外国人登録制度の廃止、在留カードの交付、在留期間の上限の引き上げ(最長5年)、みなし再入国許可制度の導入等が図られたが、依然として在留資格や査証に係る問題が指摘されている。
    まず、在留資格関連では、有効期間の延長(有効期間の上限の引き上げ)、企業内転勤の要件緩和(転勤の直前に外国にある本店・支店その他の事業所における1年以上の継続勤続経験の撤廃等)、在留資格変更手続きの簡素化、審査期間の短縮等を実現すべきである。また、査証関連では、手続きの簡素化・迅速化はもとより、有効期間の延長ニーズも高いので、対応を求めたい。2012年7月から運用が開始された在留カードについては、交付・更新手続きの簡素化とともに、即日発行可能な空港の拡充を図る必要がある。なお、こうした在留資格や査証に係る手続きについて、申請者・処理する行政側双方の負担軽減のためにも、電子申請の普及や入国管理局窓口の混雑緩和等への取組みを併せて積極的に推進すべきことは言うまでもない。
    また、当該外国人社員が永住許可に必要な在留歴に係る要件#3を満たす前に海外勤務等を命ぜられ海外に居住する場合、「引き続き」とは見做されず在留歴の算定がリセットされることとなる。そのため、将来的に永住許可申請を希望する当該外国人社員に海外勤務を命じるなど、グローバルな人事異動を行うことを日本企業が躊躇する要因となっているとの指摘もある。そこで、日本企業が当該外国人社員にグローバル人材として活躍する機会を提供しやすくすることを目的に、永住許可に必要な在留歴に係る要件について、「引き続き」ではなく「通算で」10年以上本邦に在留していることとすべきである。
    なお、入管政策と関連するものとして、わが国への外国人材の定着促進のため、社会保障協定の締結の一層の推進も求められる。

(2)外国人留学生

日本語や日本文化に親しみ、わが国と世界を繋ぐ活躍を期待される「高度人材の卵」として、外国人留学生をより積極的にわが国に受入れ、定着を促進していくことは、わが国の内なるグローバル化を推し進めるうえで極めて有益と考えられる。政府は、2020年を目途に外国人留学生受入れ数30万人の達成を目指す「留学生30万人計画」(2008年7月29日骨子策定)を掲げており、外国人留学生が大学等を卒業後に継続して就職活動を行う場合、一定の要件の下、「特定活動」の在留資格でさらに最長1年間の滞在を認めるなど、外国人留学生のわが国における就職支援に取り組んできた。

このように外国人留学生の更なる活用が期待される中、受入れている外国人留学生の国籍や専攻は近年、固定化している#4。企業においては、外国人留学生を特定の国籍や専攻に着目して採用するケースもあるものの、日本人学生と同一の選考方式の下で人物本位で選考・採用することが主流となっている#5。留学生の受入れ人数の拡大はもとより、より多様な国・地域、専門分野からの外国人留学生の受入れを推進することは、わが国企業の国際競争力を高める上でも重要となっている。

そのため、受入れた外国人留学生のわが国での就職支援を一層強化するとともに、わが国の大学の国際競争力強化に資する施策の更なる拡充が急務である。「世界の成長を取り込むための外国人留学生の受入れ戦略(報告書)」(2013年12月18日、戦略的な留学生交流の推進に関する検討会とりまとめ)でわが国の発展に特に寄与すると考えられる重点地域及び今後の対応方針が示されていることを参考にしつつ、政府には国費留学制度をはじめ奨学金の拡充#6や企業におけるインターンシップ活用のための資格外活動許可時間の延長等、大学等の教育機関には日本企業への就職に係るガイダンスの実施強化や日本企業での働き方・就業観の醸成を図るキャリア教育の拡充#7等への取組みが期待される#8

また、外国人留学生のわが国での就労支援の強化や定着を図るには、彼らがわが国で活躍できるような環境整備も不可欠である。施策の所管官庁が複数に跨るものの、上記目標の早期実現に向けて、法務省をはじめ関係省庁が連携し、各種施策を積極的に展開していくべきである。

2.技能人材の受入れにおける課題

現行制度下では、高度人材と目される専門的・技術的分野に従事する者を除き、外国人材の受入れは認められていない。しかし、ものづくりやサービスを直接提供する現場で、外国人材を含む多様な背景を有する人材が活躍することで、現場におけるイノベーションを促進していく必要がある。こうした観点から、在留資格の整理・新設等を通じて就労可能な在留資格を付与することで、一定の技能や資格を有する人材、いわゆる技能人材の受入れにも門戸を開くべきである。こうした技能人材の受入れ促進に向け、当面は以下に挙げる受入れ策に関し、早急な検討・具体化を要望する。

(1)国家資格取得者をはじめ一定の技能を有する外国人材の受入れ

国家資格を取得した場合をはじめ、客観的な技能評価制度・技能評価基準を満たす外国人材については、積極的に受入れるべきである。すでに「日本再興戦略」には、わが国の高等教育機関を卒業し、介護福祉士等の特定の国家資格等を取得した外国人留学生に対し、在留資格の拡充を含め就労を認めることなどについて年内を目途に制度設計等を行う方針が盛り込まれた。

これまで外国人の就労が認められてこなかった分野について、国家資格の取得者をはじめ、一定の技能を有すると担保し得る客観的な技能評価制度・技能評価基準を満たす外国人材については就労を認めるべきである。併せて、業務遂行上必ずしも高度な日本語能力を必要としないような資格について母国語・英語による試験の実施を検討するとともに、客観的な技能評価制度・技能評価基準を示す海外の資格制度との相互承認も推進されたい。

(2)製造業における海外子会社等従業員の国内受入れ制度の活用

「『日本再興戦略』改訂2014」に盛り込まれた「製造業における海外子会社等従業員の国内受入れ制度」の早期活用を強く望む。経済界としても同制度の創設を歓迎しており、2011年11月のタイにおける大規模な洪水被害に起因するわが国での代替生産におけるタイ人従業員受入れのための特別措置と同様に、本制度が適正かつ積極的に活用されることが期待される。同制度については年度内に具体的な制度設計を行うこととされているが、同制度を使い勝手をよりよいものとするためには、以下の点を考慮する必要がある。

1点目は、修得する内容について、現状では「新製品開発等特定の専門技術」とされているが、海外子会社等従業員に対して実施する研修内容は、狭義の専門的な技術にとどまらず、品質管理・保証を含む幅広い技術、さらには広く労務管理を含む現場のマネジメント技術も含まれる。現場研修を通じてソフト面の能力を養う重要性も考慮し、企業の実務に応じて修得内容を柔軟に決められるよう配慮すべきである。

2点目として、現在、同制度は多様な国の海外子会社等で雇用され、賃金等の支払いを受けている従業員が対象となる前提で検討が進められている。制度設計にあたっては、当該従業員受入れの費用分担のあり方や賃金の支払い方法等について、企業の実務に応じた柔軟な対応が可能となる制度とすべきである。 

3点目として、対象となる従業員について、より幅広い範囲で受入れが可能となるよう、海外子会社等所在国の法制度や出資比率等に係る国内規制の状況を考慮し、実質的な支配関係と認められる法人の従業員の受入れを可能とする制度を整備すべきである。

なお、多様性を重視したグローバル経営の下で、国籍を問わず必要な人材の登用が進んでいる企業の実態を踏まえ、今回の「製造業における海外子会社等従業員の国内受入れ制度」に限定することなく、人材面でのグローバル・オペレーションに対応可能となるよう、本格的な体制整備が不可欠である。将来的には、従業員の業種・職種を問わず、同一の在留資格の下で通常の企業内転勤・研修が可能とする制度への移行が望ましい。

(3)外国人技能実習修了者の活用

外国人技能実習制度の下で技能実習を修了した者であって、一定期間、母国で技能の伝承等に取り組んだ者については、これを技能人材と認め、わが国での就労を認めるべきである。外国人技能実習制度は、現在、更に国際貢献に資するものとなるよう、見直し作業が進んでいる。現状でも、当該外国人材が技能を習得できるよう人材育成に励んだものの、当該外国人材が帰国後に修得した分野以外の業種・職種に転職あるいは起業したことで当該外国人材が修得した技能を発揮せずに送り出し国での技能移転に繋がっていない事例も指摘されている。さらには、修得した技能の活かし方は当該外国人材の自由意思とはいえ、日本企業と競合する第3国企業で働いている事例等、日本企業にとって必ずしも好ましくない状況が発生しているとの指摘もある。2020年までの緊急かつ時限的措置として来年初から導入される「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」(2014年4月4日、建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置を検討する閣僚会議とりまとめ)の枠組みを参考に、送り出し国での技能移転を担保しつつ、技能実習修了生の更なる活用の可能性についても検討を深めるべきである。

上記3つに加えて、客観的な(公的な)技能評価制度・技能評価基準を持たないものの各社のオペレーションにおいてその技能人材の必要性が看過できない場合、もしくは技能人材に対する需要について送り出し国のニーズよりも日本国内での需要がより大きい場合も、何らかの対応が必要である。こうしたケースにおける外国人材の受入れの仕組みは、規模を適切に管理したうえで受入れるなどの工夫を要する。例えば、米国の短期就労ビザ制度#9、シンガポールの就労ビザ制度#10、韓国の外国人労働者を対象とした雇用許可制度#11等も参考に、クオータ制や労働市場テストの実施(単独・併用)を前提とした、雇用許可制度の導入の是非を検討すべきである。

3.外国人技能実習制度の抜本的見直しにおける課題

「『日本再興戦略』改訂2014」では、外国人技能実習制度の見直しについて、「管理監督体制の強化を前提に技能実習制度を拡充することとした」とされており、現在、管理監督体制の抜本的強化ならびに制度の拡充(対象職種の拡大#12、技能実習期間の延長(3年→5年)#13、受入れ枠の拡大#14等)に向け、具体的な制度設計に向けた作業が進められている。とりわけ、前者について、新たな法律に基づく制度管理運用機関(いわゆる取締機関)の設置等、管理監督のあり方を年内を目途に抜本的に見直し、2015年度中の新制度への移行が目指されている。そこで、制度の適正化とともに制度の拡充を進めるにあたり、以下の3点を考慮すべきである。

まず第1に、新たに設置される取締機関は、監理団体の許可・取消、監理団体等の指導・監督(報告徴収、立入検査等)、技能実習計画の認定・取消、人権を侵害された実習生の保護、監理団体・実習実施機関等のデータベース管理、優良な監理団体・実習実施機関の認定・取消を業務としており、実習生受入企業や監理団体は極めて厳格な管理下に置かれる見通しである。無論、制度の健全な運用を図るうえで制度の適正化は重要であるものの、見直し後の制度は制度の適正な利用拡大に資するものでなければならないし、ましてや制度の適正な利用を遵守している企業・監理団体の利用を阻害するものであってはならない。具体的な制度設計にあたっては、これまで適正に運用してきた監理団体・実施機関に実質的な追加負担が発生しないようにし、企業による制度の利活用を萎縮させることがないように十分留意する必要がある。

第2に、制度拡充にあたっては、まずは対象職種の拡大#15、技能実習期間の延長(3年→5年)、受入れ枠の拡大について「『日本再興戦略』改訂2014」に盛り込まれた具体的な拡充策を着実に実施することが肝要である。とりわけ、制度の適正利用の拡大を図る観点からは、優良団体等の認定に際し、過度な基準を設定するのではなく、現行制度下においても特段問題が発生していない機関が認定されるようにすべきである。また、実習生受入れに係る入国管理・雇用・社会保障等の各種手続きの簡素化へのニーズは高く、優良な受入企業・監理団体への優遇措置導入の一環として、これらを図ることも検討されたい。

第3に、実習生の受入れ全般において煩雑な手続きを伴う本制度の適正利用には、実習生・実習機関・監理団体に対するきめ細かい支援体制が不可欠である。この点について、制度の円滑な運用を支えるためこれまで国際研修協力機構(JITCO)が担ってきた機能のうち、制度の適正利用に資する部分については後継措置を検討する必要がある。制度利用者である企業・団体からも、取締り強化策とともに、トラブルの未然防止と制度拡充に寄与する支援(手続き支援、情報提供・相談等)・支援機関の必要性を訴える声が出ていることを踏まえ、政府は適切な対応策を講じるべきである。

併せて、制度の適正な利活用推進には関係者の制度に対する理解の向上が不可欠であることから、制度に対する広報・啓発や各種助言等の取組みの維持・強化も不可欠である。

4.外国人との共生社会の実現(社会統合)に向けた課題

高度人材の獲得には、当該人材にとって、そもそもわが国の就労環境が魅力的なものでなければならない。外国人材を受入れている企業においては、とりわけ、「当該外国人材の日本語能力の向上」「社内における情報提供環境としての多言語対応の推進」等、当該外国人社員と日本人社員の間で円滑なコミュニケーションを可能とする社内環境整備が課題となっている。そこで、受入れ企業は、語学研修・異文化コミュニケーション研修の実施、社宅の提供、当該外国人材のサポート体制(相談窓口の設置やサポート人材の任命等)、受入れに関する社内ガイドラインの整備等に取り組んでいる。引き続き外国人・日本人社員双方の語学力やコミュニケーション能力の一層の向上を図るとともに、社内におけるダイバーシティの更なる推進や宗教に対する配慮を図る必要がある。加えて、人事制度についても、外国人材がより明確なキャリアパスを描ける制度を整備することも重要である。

就労環境の整備とともに、生活環境の整備も極めて重要な要素である。外国人材の生活環境の整備については、外国人集住都市における先進的な取組みの蓄積が進む一方で、教育や医療を含む生活環境の改善を図るには、政府全体での対応(省庁横断的な対応)が不可欠である。事実、外国人集住都市の関係者からは、外国人材の受入れに際しては、労働者としての視点のみならず、生活者としての視点が必要であり、出入国管理政策と多文化共生政策の連携の必要性が改めて訴えられている#16。先進事例としてのこれら外国人集住都市に対して特段の政策的支援を行うことも有効と考えられる。

加えて、外国人材を受入れた企業からは、わが国で生活するうえで多岐にわたる場面で外国人材へのきめ細かい支援の必要性が指摘されている#17。とりわけ、外国人材が不自由と感じている生活環境は、外国語対応の環境が未整備である(日本語以外の言語が通じない)ことに起因する側面が強い。行政サービスや公共交通網をはじめとする生活インフラの多言語化や日本語修得環境の整備を一層推進する必要がある。

さらに、従来の施策の延長線上にある現行制度の拡充で満足することなく、時代のニーズに応え、外国人材を積極的にわが国に呼び込むための方策及び日本人と外国人が安心して生活できる環境整備に向けた社会統合政策の推進が不可欠である。

但し、社会統合への取組みには、上述したとおり、ソフト・ハード両面のインフラや社会保障制度の整備等に当然のことながら相応のコストが発生する。加えて、社会の一員として外国人住民への権利保護に向けた取組みのほか、住民基本台帳に基づき中長期在留者をはじめとする外国人住民に提供する行政サービスの充実が求められる。これらコスト負担、権利付与、提供する行政サービスのあり方等も含め、社会統合政策の推進に関する検討を深め、国民に示したうえで、外国人材受入れについて国民的なコンセンサスを早期に形成すべきである。

併せて、偽装滞在の取締りや水際対策をはじめ、一部の外国人による不法滞在・不法就労に対する取組みの手を緩めてはならず、不法滞在外国人の縮減に向けた対策には十分且つ継続的に取り組むことが重要である。

これらの点を踏まえ、総合的な外国人の受入れ推進に向けた検討の場を早期に設置し、中長期的な外国人材の受入れの基本方針を明確化することが求められる。難民を含む外国人の適切な受入れ態勢の整備に一体的に取り組むことで、外国人との共生を目指した地域コミュニティの形成を一層活性化すべきである。

5.観光立国実現に向けた出入国管理行政上の課題

2013年に、2003年のビジット・ジャパン事業開始以来の政府目標であった訪日外国人旅行者数で年間1000万人の大台を初めて達成した。これに満足することなく、政府は「2020年に向けて訪日外国人旅行者2,000万人」との野心的な目標を掲げており、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の招致成功、円高の緩和による訪日旅行の割安感の浸透、ユネスコにおける富士山の世界遺産登録、和食の無形文化遺産登録と世界的な和食ブーム、アジアでの旅行需要の急増等を追い風に、更なる訪日観光振興の推進が目指されている。

こうした中、訪日観光振興の観点から出入国管理行政の見直しも順次進められている。2014年6月の入管法改正では、法務大臣が指定するクルーズ船の外国人乗客を対象に簡易な手続きで上陸を認める新たな特例上陸許可制度の創設や自動化ゲートを利用できる対象者の範囲拡大等を通じて、クルーズ船の外国人旅客や「信頼できる渡航者」に係る出入国手続きの円滑化が実現した。また、「観光立国に向けたアクション・プログラム2014」に盛り込まれた、訪日客増加に大きな効果の見込まれるインドネシア、フィリピン及びベトナム向けのビザの大幅緩和が本年9月末から、インド向けの数次ビザの発給が本年7月から開始された#18

経団連として、これら政府の取組みを歓迎するとともに、観光立国に資するソフトインフラを一層強化するために、入管政策関連でさらに以下の3点を要望する。

第1に、査証発給要件の一層の見直しに取り組むべきである。インドをはじめ訪日旅行の需要が拡大する可能性がある国・地域等を念頭に、また、国内の治安維持の確保のための入国審査体制の強化・手続の合理化等と並行して、査証発給要件の更なる緩和が望まれる。また、東北3県数次査証について、東北6県への対象拡大、次いで全国への展開を実施すべきである#19。その際、中国側の不満の原因になっている査証発給審査の際の所得要件の緩和についても検討することが望ましい。

第2は、出入国手続の円滑化・迅速化である。水際でのテロ対策等の厳格な審査との両立に向け入国審査体制の充実を図ることはもちろんのこと、VIPや予め登録された国際会議の参加者向けの専用レーンの設置、改正入管法に基づく「信頼できる渡航者」を自動化ゲートの対象とする新しい枠組みを米国のグローバル・エントリー等類似のシステムとの連携も視野に充実したものとすること、APECビジネス・トラベル・カード(ABTC)の更なる活用をはじめ、ITを利用した高度で正確な個人認証システムの構築・活用を推進すべきである。加えて、外国人旅行者2000万人の受け入れには、首都圏空港のみならず地方空港も最大限活用していく必要がある。チャーター便によるツアーの実施やLCCの新規就航等による需要の増大に対応できるよう、地方空港におけるCIQ体制の強化も急ぐ必要がある。

第3に、わが国を経由して海外に向かうことを予定している外国人旅行者に国内観光・ショッピングの機会をより多く提供することもわが国への観光促進に有益と考えられる。そこで、不法残留等の弊害防止措置の検討を前提に、寄港地上陸許可を観光に活用する枠組みを積極的に構築すべきである。

以上

  1. 「人口減少に対応した経済社会のあり方」(2008年10月14日)
  2. 本稿では、高度人材受入推進会議報告書「外国高度人材受入政策の本格的展開を」(2009年5月29日)で言及されているとおり、「『国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材』であり、『わが国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材』」を高度人材の定義として使用。現行の就労可能な在留資格である専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人労働者を対象とする。
  3. 永住者の在留資格に変更を希望する外国人社員が永住許可を申請する際には、1.素行が善良であること、2.独立生計を営むに足りる資産又は技能を有すること、3.その者の永住が日本国の利益に合すると認められることの3つの要件を満たすことが求められている。このうち、3.については、「原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし,この期間のうち、就労資格又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する」とされている。
  4. 在留資格「留学」で滞在している在留外国人数は、直近5年間は20万人弱で推移している。国籍・地域別では、中国が6割前後を占め、送り出し国の上位を占める国も例年、韓国、ベトナム、ネパール、タイ等が続いている。専攻別では、大学・短大・大学院で文系を専攻する外国人留学生の数は、理系専攻の約2.5~3倍。
  5. 経団連が2014年7月に実施した「新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査」では、回答企業の7割超が春季一括採用により日本人学生と同様に外国人留学生を採用していると回答。経団連が2014年6~7月に実施した外国人材受入れに関するアンケート調査においても、回答企業の約8割が「外国人留学生を日本人と同じ枠で受入れている」、約7割が「人物本位で選考した結果である」と回答。
  6. 制度利用者に対し、卒業後の一定期間は日本での就労を義務付けることも一案である。
  7. 企業との連携講座の開設も一案である。
  8. なお、企業は外国人留学生採用にあたり、留学生を対象としたセミナーの開催や留学生・新卒採用向け採用イベントへの出展、留学生採用枠の設定、手厚い個別対応等に取り組んでいる
  9. IT人材等の専門性の高い職業への従事を対象とする「短期就労ビザ(H-1B)」及び短期季節農業、短期非農業(主にサービス業)における一時的な労働力不足の穴埋めを目的とした「短期就労ビザ(H-2A、H-2B)」
  10. 中度技能者(大学・専門学校卒程度)を対象とする「Sパス」及び労働集約的産業における未熟練労働者を対象とする「WP」
  11. 日本の研修・技能実習制度をモデルに1993年に11月に導入した「産業研修制度」では、労働力不足への柔軟な対応が難しく不法就労者が増加するなど問題があったため、これに替わる制度として2004年8月に導入した制度。但し、(1)対象企業は従業員300名未満の中小企業に限定、(2)家族帯同は不可等、定着を前提とした仕組みではない。
  12. 具体的には、(1)現在、国内外で人材需要が高まることが見込まれる分野・職種のうち、制度趣旨を踏まえ、移転すべき技能として適当なものについて随時対象職種に追加、(2)介護分野はEPAに基づく介護福祉士候補者の受入れと介護福祉士資格を取得した留学生に就労を認めることとの関係について整理や日本語要件等の質の担保等のサービス業特有の観点を踏まえつつ、年内目途に検討・結論、(3)全国一律での対応を要する職種のほか、地域毎の産業特性を踏まえた職種を追加、する方向で見直しが進められている。
  13. 具体的には、監理団体及び受入企業が一定の明確な条件を充たし、優良であることが認められる場合、技能等のレベルの高い実習生に対し、一旦帰国の後、最大2年間の実習を認めるため、2015年度中の施行に向けて所要の制度的措置を講じることとされている。
  14. 監理団体・受入れ企業の監理の適正化に向けたインセンティブの一環として、監理団体及び受入れ企業が一定の明確な条件を充たし、優良であることが認められる場合、受入れ枠数の拡大を認めるため、2015年度中の施行に向けて所要の制度的措置を講じることとされている。
  15. 例えば、多能工、自動車製造(組立・電装等)、自動車整備業、造船業、現場監督等のマネジメントや店舗運営管理、産業廃棄物処理業・リサイクル処理、製造加工、惣菜製造、電気設備工事、くい関連、とび土木工事、化学、倉庫作業、配達・運送作業、機械器具設置工事業(昇降機工事)等について、対象職種への追加が要望されている。
  16. 外国人集住都市会議「外国人労働者の受入れに関する意見書」(2014年2月28日)
  17. 例えば、社内文書や会議、子女向け教育、行政、医療、外食・買い物、交通機関の利用、銀行口座の開設、通信インフラ関連(携帯電話・インターネットサービス等)の契約、住宅の賃貸契約、レンタカーの契約等。
  18. 在外公館へのIC旅券の事前登録制によるインドネシア向けビザ免除は、本年12月1日に開始予定。その他、今夏までにインド向けの数次ビザの発給を開始
  19. 中国人観光客については、2011年7月より沖縄を訪問する個人観光客、2012年7月より東北3県を訪問する個人観光客に対して、沖縄振興・震災復興の観点から数次査証が発給されている。