Policy(提言・報告書) 国際協力  開発協力大綱案に対する経団連のコメント

2014年11月27日
一般社団法人 日本経済団体連合会
国際協力委員会

はじめに

開発協力大綱案は、有識者会議の議論を反映した内容かつ、最新の国際情勢と経済界の考え方に配慮した内容となっており、概ね評価できる。

特に、(1) ODAを国際協力の触媒として定義したこと、(2) 要請主義の考え方を実体に即して修正したこと、(3) 貧困撲滅のために経済成長を優先することが明記されたこと、(4) ODAの供与基準を弾力化すること、(5) 官民連携の項目が盛り込まれたこと、等は評価されるものである。別表に5月の経団連提言との比較を行い、評価を付しているので、参考にしていただきたい。

なお、踏み込みの足りない項目も散見されるので、それらについては、修正の方向を下記に記した。是非とも、開発協力大綱の閣議決定に反映して頂きたい。

1.成長戦略の視点

今回の案が優れている点は、期限である2015年までに達成できないと見込まれているMDGsの貧困の撲滅について、経済成長によって解消できるとの視点を「重点政策」で明確にしていることである。

他方、わが国の国際協力とわが国の経済成長との関係、特にODA政策との関連が「理念」にはっきりとは記されていない。わが国と開発途上国、新興国との間にウィン・ウィンの関係を築き、ODA等を通じた相手国の成長がわが国の成長にも繋がる面に着目し、わが国の成長戦略の文脈からもODAや国際協力が重要であることを「理念」に明記すべきである。

2.官民連携

今回、官民連携の項目が設けられたことを評価する。なお、その具体策として、経協インフラ戦略会議に民間代表が定期的に出席して発言の機会が与えられるようにする等、民間から広く意見を聞く機会を増やすことを大綱の「重点施策」と「実施」に盛り込むべきである。

この関連で、JICAの技術協力は海外産業人材育成協会(HIDA)のスキームを参考にして、民間との連携にもっと力を入れるべきであり、民間の保有する最新の技術の知識・知見を活用するためにも、民間との人的交流を行うことが求められる。この点を「実施」に盛り込むべきである。

3.資源・エネルギー安全保障

資源・エネルギー安全保障は、エネルギー問題を抱える非資源国のわが国にとって、依然、国際協力の重要な目標であり、途上国の発展にとっても欠くことのできない要素であるため、「理念」と「重点政策」にて明確に触れるべきである。

4.人間の安全保障

「理念」における「人間の安全保障」は人口に膾炙していないのみならず、開発途上国の誤解を招いているとの指摘もある。わが国の折角の取り組みが正しく理解されるためにも、たとえば、「質の高い成長」などの弱者支援を前面に打ち出せる平易な言葉に言い換えて、無用の誤解や反発を避けることが求められる。

5.自助努力支援

従来、開発途上国の自助努力を促してきた主体は、政府による開発援助(ODA)とともに、現地に進出する日本および日系の民間企業の経済活動である。こうした民間の事業活動の一環として行われてきた相手国に対するプロジェクト提起の働きかけを公式に認める、要請主義からの脱却の方向が示されたことは歓迎すべきである。

今後は、各国が整備を進めているPPP法制(パブリック・プライベート・パートナーシップ)で、わが国の民間提案型の案件が排除されないよう、当該国に法制の改善を働きかけていくべきであり、その方針を「実施」に盛り込むべきである。

6.普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現

今回、「重点政策」に紛争予防や紛争下の緊急人道支援、紛争終結促進等の平和構築支援が盛り込まれたことは、現地に進出する日系企業の社員並びにその家族にとって朗報である。わが国の在外公館(大使館、(総)領事館)がこうした事案に積極的に対応できるようなITCを活用した緊急連絡網インフラの整備を「実施」に盛り込む必要がある。

7.地球儀外交と重点国

安倍総理の地球儀外交に代表される国際協力に関するトップ外交の意義を「理念」に盛り込むべきである。また、その関連で、日系社会への配慮以外の中南米訪問のフォローアップ事項の追加明記とその重点的取り組みを「実施」に明記すべきである。

さらに、「重点政策」の重点国の記述で、アフリカに対しては、いまだ援助が重要であることを明記すべきである。また、一人当たり所得の基準にかかわらずODAを柔軟に供与する方針は、モンゴルをはじめとする無償資金の卒業国にも同様のロジックの適用を行うべきであり、「実施」に記載すべきである。

8.技術協力の重視

「実施」の下に、「日本の持つ強みを活かした協力」項目が置かれているが、マネジメント能力や政策立案能力などのキャパシティ・ビルディングによる人材育成ならびに技術協力の重要性を「理念」と「重点政策」でも強調すべきである。予算消化の早い無償資金協力によるハコものプロジェクトも大切であるが、手間隙をかけて個々人の能力を高めるための人材育成は、その積み重ねを通じて親日的な人々のネットワークという持続的な無形資産を構築できる戦略的な意義がある。こうした点に着目し、キャパシティ・ビルディングならびに技術協力の重要性について大綱全体で強調すべきである。

9.顔の見える援助、等

経団連が5月の提言で指摘した、顔の見える援助推進のためのSTEP案件の推進、円滑な国際協力の実現のための相手国のビジネス環境整備については、今回大綱で触れられていない。いずれも重要であり、「実施」に盛り込むべきである。

10.日本の強みを活かした協力

わが国が強みを活かして協力を進めるためには、何よりも事業を受注することが第一の重要課題となる。そのために、価格のみならず品質や納期の遵守を評価する入札制度の整備など、ホスト側のビジネス環境整備の必要性を盛り込むべきである。

11.その他(確認ならびにワーディングの修正)

  1. (1) I 理念(1)開発協力の目的 3頁下から5行目
    国際社会の中にわが国が含まれることを明示するために、下線部を追加いただきたい。

    「ひいてはわが国と国際社会の平和と安定及び繁栄」

  2. (2) I 理念(2)基本方針 4頁
    我が国援助の成功要因は自助努力援助であることから、「イ 自助努力支援と日本の経験と知見を踏まえた対話・協働による自立的発展に向けた協力」、「ウ 人間の安全保障の推進」の順にしていただきたい。

  3. (3) II 重点政策 (2)地域別重点方針 6頁
    (2)地域別重点方針のアジア地域の文中において、「防災」を追記願いたい。

  4. (4) III 実施 ウ 実施基盤の強化
    ODA予算を確実に増加させる必要があることから、「開発協力の実施基盤の強化のための必要な努力を行う」を以下に修正願いたい。

    修正案:「経済規模世界第三位の国家に相応しい開発協力の実施基盤を強化する」

  5. (5) II 重点政策 (1)重点課題 ア「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅
    重点分野は例示事項に限定されないことを明確にしていただきたい。また、協力分野を幅広いものとするために、文章を以下に修正願いたい。

    修正案:「これらの観点から、インフラ、貿易・投資環境整備等の産業基盤整備及び産業育成、持続可能な都市、…(中略)…バリューチェーンの構築を含む農林水産省の育成等、相手国のニーズに則して経済成長の基礎及び原動力を確保するための協力を行う。」

  6. (6) III 実施 (2)実施体制 イ 連携の強化
    「民間部門」には、本邦に所在する日本企業のみならず、海外における子会社、関連企業も含めていただきたい。

以上