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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 BEPS行動14(効果的な紛争解決メカニズムの策定)に係わる公開討議草案に対する意見

2015年1月16日

OECD租税委員会御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

BEPS行動14(効果的な紛争解決メカニズムの策定)に係わる
公開討議草案に対する意見

OECDが2014年12月18日に公表した「公開討議草案 BEPS行動14:効果的な紛争解決メカニズムの策定」に対し、以下の通り経団連の意見を提出する。

【はじめに】

経団連は「効果的な紛争解決メカニズムの策定」に関するOECDの取り組みを歓迎する。

国際的二重課税は、納税者に大きな経済的負担を強いるものであり、速やかに解決されるべきである。特に、移転価格税制においては条約に適合しない課税が発生し、本来二重課税の排除に資するはずの租税条約に基づく二国間相互協議が多くの国において必ずしも実質的に機能していない状況にあることから、多数の納税者が長期に亘る国内法上の訴訟による解決を余儀なくされている。かかる状況の中、相互協議の利用を妨げている様々な障壁を取り除き、相互協議を有効に機能させようとするOECDの今回の取り組みを全面的に評価する。とりわけ、他の行動計画の結果、新たな二重課税、紛争の増加が予想されることから、それらの行動計画の導入前に、強い政治的コミットメントをもって、行動14で示される相互協議の効率性の改善が達成されることが必須である。例えば、義務的仲裁条項も含め相互協議の改善が達成されない限りは、行動13で示された文書化についても実施しない、ということも考えられる。

特に、国際的二重課税の解決手段としては、全ての租税条約における相互協議条項に義務的仲裁条項を導入することが何より重要であり、導入されれば相互協議の促進、紛争解決に大きく前進する。仲裁は仲裁人による中立的な判断を得ることができ、また仲裁人を使うことにより権限のある当局の紛争解決にかかるリソース軽減にも繋がることから、先進国のみならず、新興国にとってもメリットの大きいものであり、企業にとっても、公表された事例の蓄積による予見可能性を高めることができると考えられる。但し、条約は各国の主権が係る問題でもあり、義務的仲裁条項の導入はBEPSプロジェクトの参加国の間でコンセンサスが取れていないという状況を今回の議論によりOECDが乗り越えることを期待している。

今回の公開討議草案では、参加国がコミットできる義務的でない(non-binding)ミニマムスタンダードを設定することを目指して、相互協議を有効に機能させる際の障壁に対処するオプションが提示されている。これは効果的な紛争解決メカニズム策定に向けた重要なステップであり、OECDのアプローチを評価するが、望むべくは、より実効性のある方策(義務的仲裁条項導入)の検討を期待する。

最終的には、OECDモデル条約仲裁条項の二国間租税条約への織り込みにとどまらず、WTO同様の国際仲裁専門機関の設立により、相互協議事案の中の個別問題を仲裁裁定することで、事案解決の迅速化と問題解決の事例蓄積による予測可能性・法的な裁定の安定性を高めることが必要であると考える。

公開討議草案では、計34のオプションが提示されている。各オプションの基本的考え方には概ね賛成であるが、いくつかの個別オプションに対する意見は以下の通りである。

【コメントを求められている箇所に対する意見】

1.パラグラフ20(税務調査のベストプラクティスについて)

stakeholders are invited to comment on best audit practices that reflect an appropriate global awareness and that facilitate an effective mutual agreement procedure.

  • 税務調査による更正が相互協議利用を妨害しないようにすることは、相互協議を効果的に運用する上で非常に重要である。例えば、納税者が相互協議を利用することに対するペナルティ(追加的課税)や、相互協議を利用しないことを条件に更正額を減額することの暗示、及び課税国のみならず相手国の当局においても、相互協議事案の新規発生を抑制したいとの意向により重要性が低いこと等を理由に納税者による相互協議の申立てに対して自制を促すような慣行は、早急に廃止すべきである。また、本オプションでは「修正の詳細に関して相手国の権限のある当局へ自発的通告を行う等の適切なステップを取る」ことが挙げられているが、相互協議で既に合意済の年度があり、その対象取引が継続取引の場合には、相手国への通告に対し、進行年度以降について、一方の権限のある当局の更正処分に基づく対応的調整を他方の権限のある当局が速やかに認めるといった取扱いを行うことも、二重課税を排除し調整をスムーズに進める上で有効な方法であると考える。

2.パラグラフ27(相互協議申立ての際に提出を求められる情報について)

Commentators are invited to indicate whether existing country guidance or practices with respect to the information required to be submitted with a request for MAP assistance create other obstacles to the proper functioning of the mutual agreement procedure and, where this is the case, to provide suggestions on ways to address these obstacles.

  • オプション11で提案されている内容について同意する。相互協議申立てに関しては、税理士法人の助言を仰ぐケースも多いが、移転価格文書が半ば経済分析化しているケースもあり、ガイダンスによる必要最低限の文書の明確化が必要である。また、ガイダンスに明示された情報・文書以外のものはあくまで提出は任意として相互協議申立ての要件としない、といったルール制定が考えられる。

3.パラグラフ40(相互協議事案の解決を促進するための、仲裁以外の更なる手段)

Commentators are invited to suggest what additional measures (other than arbitration, which is referred to below) could be adopted in order to facilitate the resolution of a MAP case that competent authorities have been unable to resolve within two years of the MAP case being accepted (or some other reasonable target timeframe).

  • 「受理されて2年以内に解決できない相互協議事案の解決を促進するために、仲裁以外の更なる手段としてどのようなものが採用されうるか」につき提案を求められているが、両当局と納税者の3者が合意する形を取り入れた仕組みを構築することが、結果的には最終合意に至るまでのスピードを速めることになる場合もあると思われる。

4.パラグラフ46(相互協議の仲裁条項の範囲を限定することのメリット、デメリット)

Stakeholders are invited to comment, in particular, on the advantages and disadvantages of potential limits to the scope of MAP arbitration.

  • 反濫用条項適用に関連する事案は仲裁の対象から除くなど、仲裁の範囲を限定することも考えられる。但し、本来の趣旨・目的を超えて仲裁の範囲を限定する運用がなされないようなルール(例:仲裁が適切でないと判断する場合には、権限のある当局はその理由を納税者に開示するなど)が必要と考える。

5.オプション29、30(仲裁の意思決定プロセス及びそのエビデンス)

Stakeholder comments are invited in particular on the preferred default form of decision-making in MAP arbitration.
Stakeholder comments are invited on approaches to evidentiary issues in the MAP arbitration process.

  • Conventional or Independent Opinionアプローチを採用する場合は、仲裁人による独自の決定が行われる際、権限のある当局による申立てや説明において客観的な事実が適切かつ十分に仲裁人に提示されることを前提とすべきである。一方、Last Best Offer or Final Offerアプローチを採用する場合は、両当局が納税者のビジネスモデルを客観的かつ十分に理解することが前提である。
  • また、上記いずれのアプローチにおいても仲裁人が事実関係を十分に理解する必要があることから、必要に応じて納税者が説明を行う機会を設けるべきである。

6.オプション33(マルチMAP、マルチAPAに関する問題)

Commentators are invited to provide other examples of multilateral situations that raise issues for the mutual agreement procedure.

  • 相互協議に対する問題を提起するような多国間取引の状況としては、例えば、移転価格で課税された事業体(A国)の取引が二か国以上(B国とC国)に分かれている場合、A国-B国間の相互協議は進行しても、A国-C国間では対応的調整規定がないため相互協議が行われない場合、A国-B国間での相互協議の結論が、A国-C国間の取引にもそのまま個別反論の機会もなく適用される恐れがあるため、A国-B国間での相互協議を求めることができない、といったようなケースである。BEPS行動計画15において多国間協定の開発を別途行うことが重要である。

【その他オプションに関する意見】

1.オプション1(OECDモデル条約第25条1項の下で提示されている事案を解決する重要性をコメンタリーにおいて明確化)

  • 提案されている考え方に賛同するが、コメンタリーへの追加では実効性に欠けることから、モデル条約の本文(第25条2項)に反映すべきである。

2.オプション2(租税条約にモデル条約第9条2項を入れること)

  • モデル条約第9条2項で定めた対応的調整規定が未導入である租税条約もある。この規定が入っていない国との相互協議は実施しないという当局方針の国もあり、同規定の導入有無という非常に技術的な項目に相互協議が左右される恐れがある。本条項を租税条約に早急に導入し、相互協議をより効果的に機能させるべきである。
  • さらに、モデル条約第9条2項の導入のみを図ったとしても、両当局による独立企業間価格等の考え方が異なれば二重課税は排除されない。取引関連者の定義や、納税者の機能リスク分析に即したセグメント別移転価格算定方法の適用など、モデル条約第9条1項も含めた両当局の独立企業間価格等の考え方に係る意見の一致が、租税条約の目的である二重課税排除にとって必須であることについての政治的なコミットメントが必要である。

3.オプション3(権限のある当局の独立性保証)

  • 提案されているオプションに賛同する。
  • 一部の国では、相互協議を担当する権限のある当局と、移転価格調査を行う課税当局との間の情報障壁(Firewall)に係る規定が無いことから、納税者から権限のある当局に対する情報提供が円滑かつ迅速に行われない懸念がある。従い、各国の国内法/制度上、相互協議を担当する権限のある当局と移転価格調査を行う課税当局は、形式的にも実質的にもそれぞれ独立した組織であり、両者の間には有効な情報障壁(Firewall)を設置することが要求され、それにより、納税者が提出した情報の秘匿性が守られ、移転価格調査では使用されないことが担保される必要があることを明確化すべきである。
  • 一部の国では、汚職の取締を担う政府内監査組織等の指摘を恐れて、権限のある当局が、相互協議を通じて自国における更正処分の一部又は全てを取り消すことに消極的になるケースがある。従い、参加国は、権限のある当局はかかる監査組織等から独立していることを明確化すること、及び、適切な措置を講じた権限のある当局をかかる監査組織等が不当に罰しないことをコミットすべきである。

4.オプション4(権限のある当局に対する十分なリソースの提供)

  • 一部の国では、権限のある当局のマンパワー不足により、相互協議の進展に極めて長期の時間を要する状況となっており、新規の相互協議申立てが妨げられている。従い、提案されているオプションに賛同するし、OECDは権限のある当局に対する十分なリソース提供を全面的に支援し、制度の安定的な運用に向けて積極的なモニタリング等を実施すべきである。

5.オプション5(適切な評価指標の活用)

  • 提案されている考え方に賛同するが、事案解決期間を成績考課の指標として重視しすぎると、権限のある当局は、解決まで時間を要することが見込まれる難しい事案の申立て受理自体を敬遠するようになり、却って納税者に不利益が生じる懸念があることに留意する必要がある。

6.オプション8(二国間APAプログラムの履行)

  • 公開討議草案では、紛争解決の手段として二国間APAの利用を奨励しており、二国間APAプログラムをBEPSプロジェクトの全参加国が履行すべきというOECDの提案を強く支持する。
  • なお、二国間APAは、両国間に租税条約が締結されている場合にのみ活用可能となるが、二重課税を排除するための租税条約網は未整備な部分があり、各国は租税条約の締結を促進すべきである。
  • また、上記状況があることも踏まえ、部分的な協定を行動計画15で取り上げられている多国間協定の枠組みで整備することも一案である。
  • なお、行動計画6で提案されている租税条約の濫用防止規定が導入された場合、租税条約の適用可否について予見可能性が低下することが懸念されることから、租税条約の適用可否について、二国間の相互協議を通じて事前に確認する制度を設けるべきである。

7.オプション9(複数年事項に対する納税者の要請及びロールバックAPAの履行)

  • 提案されているオプションに賛同する。例えば、関連者間取引のALP整合性を判断する際、単年度損益ではばらつきがあるため、一定の長いスパンで検証を行うこと(複数年度検証の採用)や進行年度申告調整(相互協議で合意した所得調整税額を現在年度の申告で税額調整)など、ビジネスサイクルに即した柔軟な対応を行うことで、移転価格マネジメントの不確実性を取り除くとともに、相互協議合意のための事務処理複雑化回避が可能と考える。
  • また、移転価格課税時効期間に準じたMAP又はAPAロールバック制度の導入は、同内容事案について年度別に何度も協議することを回避し、税務当局のリソース軽減にも繋がると考える。
  • 提案されているオプションが言及しているロールバック規定とは、APA申請前の各事業年度に対し、合意されたAPAの内容を適用することを指していることを明確化すべきである。

8.オプション14(“納税者の異議が正当であると思われる場合”という文言の意味の明確化)

  • OECDにていくつかの具体例を挙げる形でコメンタリーの改定を図ってもらいたい。
  • また、一部の国では、行政処分としての更正通知書を受領してからでなければ相互協議の申立てを受理しないという実務執行が行われているが、モデル条約第25条1項に「条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は・・・」とある通り、更正通知書を受領していなくとも、条約の規定に適合しない課税を受けることを納税者が予見する場合、権限のある当局は相互協議の申立てを受理するよう、第25条1項及びコメンタリーの遵守をコミット願いたい。

9.オプション16(相互協議と国内法救済の関係明確化)

  • 提案されているオプションに賛同する。
  • 一部の国では、国内法上の訴訟の結果が出た時点で相互協議プロセスも終了となることが規定されているが、相互協議の進展に極めて長い期間を要する中、国内法上の訴訟の方が常に早く終了することになり、事実上相互協議が全く機能しないという状況にある。
  • また、一部の国では、形式的には国内法上の訴訟と相互協議の両方の解決手段を納税者に提供しているものの、権限のある当局は、国内法上の訴訟の結果を確認すべく、訴訟の結果が出るまで相互協議を進めることを控える傾向にあり、これも相互協議が実質的に機能しない一因となっている。
  • 国内法上の異議申立てには期限が定められていることから、納税者としては異議申立てをせざるを得ないが、上記の状況を踏まえ、相互協議が申立てられた場合、参加国は国内法上の異議申立て・訴訟手続きを停止し、相互協議を優先的に進めることも一案である。これにより、課税当局としても訴訟と相互協議の両方を同時に進める必要がなくなり、紛争解決に要するコストの低減が可能となると考える。

10.オプション17(徴税と相互協議の問題の明確化)

  • 相互協議に係る行政プロセスが具備され、有効であったとしても、一旦納付した法人税の還付について行政手続上或いは政治的な困難が伴う場合は、相互協議において合意に至ったとしてもそれに伴う還付手続が滞るため、相互協議の有効性が確保できない。相互協議の合意に伴う還付手続を適時適切に実行する行政プロセスの導入についても保証されなければならない。
  • 一部の国では、相互協議が継続している期間においても延滞税や利子の累積が行われており、かかる負担の累積的増加を懸念して相互協議の申立てを断念する場合がある。従い、参加国は、相互協議を有効に機能させるべく、相互協議の結果が出るまで、徴税を一旦停止し、かつ、延滞税や利子の累積を行わないことを法令化するようコミットすべきである。

11.オプション18(相互協議利用の期間制限に関連する問題の明確化)

  • 納税者は相互協議の申立てから協議開始までの審査過程において、時間や労力を費やすケースがある。
  • 特に審査が長期化した場合、権限のある当局担当者が変更され重複した説明が必要となり、更なる審査期間を要する場合や、前任者と異なる方向性が出され議論が元に戻る等、納税者側に多大な負担となるケースがある。迅速な税務執行の観点から、相互協議申立てから協議開始までの審査過程についても、一定の目標期限を設けるべきである。

12.オプション19(Self-initiated foreign adjustment と相互協議に関連する問題の明確化)

  • 提案されているオプションに賛同する。
  • 納税者は、外国における税務調査において更正処分を提起された場合、長期に亘る訴訟や高額なペナルティの回避、及び将来的な課税の安定化等を目的に、課税当局と一種の合意をする形で当該更正処分の受け入れや修正申告、及び後続年度での自主的な申告調整に応じることがある。しかしながら、その後の事業年度において、課税当局がかかる合意を反故にし、更なる更正処分を行ってきた等の場合には、もとの更正処分の取消を求めて争うことがあるが、かかる場合には、たとえ納税者が自ら修正申告や自主的な申告調整を行っていたとしても、相互協議の申立てが認められるべきである。
  • 実際に、一部の国では、本格的な税務調査を実施する前の予備調査段階、または、更正処分確定前の段階において、合理的な課税根拠を示すことなく、納税者に自主的な申告調整や調査内容受入れを強要する実務が行われている。このような場合には、事実上更正処分が行われたのと同義であることから、相互協議の申立てが可能であることを明確化すべきである。

13.オプション24(条約政策の変更を受けた仲裁採用の促進)

  • 提案されているオプションに賛同する。
  • かかる最恵国待遇の規定は、行動計画15で取り上げられている多国間協定で盛り込むことで、より効果的に機能すると考える。

14.オプション25(仲裁と国内法救済の調整明確化)

  • 仲裁結果が決定として出た場合は、両当局は相互協議に決定内容を織り込み、二国間合意に反映することが求められているので、事案そのものの解決が期待される。しかしながら、国内法との不整合などの問題等により、二国間合意に至らない場合は、条約に適合しない課税が依然として残ることとなり、結局は国内法の救済手続(訴訟)を行うことになる。その場合、仲裁結果が出た際にその受入と引き換えに申立て人は訴訟を放棄させられている可能性が高く、国内救済手続は限定的になる恐れがあることに留意すべきである。

15.オプション26(適切な状況下で当局間の合意による仲裁開始の延期を認めるべくOECDモデル条約第25条5項を修正)

  • 提案されているオプションが採用された場合、権限のある当局が安易に仲裁の開始を遅らせることにより、実質的に相互協議が機能しなくなることが懸念される。従い、仲裁の開始を遅らせるに当たっては、納税者の同意を条件とし、かつ、期間を限定(例えば6ヵ月など)すべきである。
以上

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